マーベル・シネマティック・ユニバース(以下、MCU)の新たな展開の嚆矢として、今年2月に公開された『キャプテン・アメリカブレイブ・ニュー・ワールド』(以下、『ブレイブ・ニュー・ワールド』)。その劇場大ヒットの余韻冷めやらぬ本作の、ブルーレイ+DVDセット、4K UHD+3D+ブルーレイセットが発売中だ。

【写真を見る】ロバート・ダウニー・Jrの復帰にサプライズキャストたち…期待だらけの「アベンジャーズ」はいったいどうなる?

配信で手軽に映画を観ることができる昨今、パッケージの華といえば、やはり自分の手元に好きな作品を置けるという喜びやシリーズで集めて揃えるコレクション性、そして収録されているボーナス・コンテンツであろう。そこで本稿では、『ブレイブ・ニュー・ワールド』本編のポイントを振り返りながら、より作品世界に深く入り込める「ボーナス・コンテンツ」の魅力を紹介していきたい。

■「アベンジャーズ」が存在しない世界で、新キャプテン・アメリカが始動!

アベンジャーズ/エンドゲーム』(19)で先代のキャプテン・アメリカであるスティーブ・ロジャース(クリスエヴァンス)から、“正義の象徴”である盾を引き継いだサム・ウィルソン(アンソニーマッキー)。本作は交代後初の「キャプテン・アメリカ」を冠するシリーズであり、新たなキャプテン・アメリカの物語が描かれる。

アメリカ大統領ロス(ハリソン・フォード)が開く国際会議でテロ事件が発生。それをきっかけに生まれた各国の対立が、世界大戦の危機にまで発展してしまう。この混乱を食い止めようとする新キャプテン・アメリカに、“赤いハルク”と化したロスが襲いかかる!だが、すべては“ある人物”によって仕組まれた陰謀だった。

近年のMCUでは、「アベンジャーズ」というヒーローチームが存在しなくなり、軍事や世界の情勢よりも個々のヒーローが相対する危機との戦いが主眼となっていた。そんななか本作では、MCUでの社会情勢にスポットを当ててきた「キャプテン・アメリカ」シリーズらしく、人類側の政治や社会情勢などが示されることになり、今後のMCUにおいて重要なポイントになっていくであろう。そんな物語の中心となるのが、フォード演じるサディアス・ロスだ。

シビル・ウォーキャプテン・アメリカ』(16)では、ヒーローの政府管理を推進する「ソコビア協定」を提唱し、賛成派と反対派に分裂するきっかけを作るなど、なにかとヒーローたちとは衝突することが多かったロスは、長い年月を経てついにアメリカ合衆国大統領に就任。そのタイミングで、『エターナルズ(21)で登場した宇宙全域に影響する超神的な存在であるセレスティアルズ、ティアマットの残骸(=セレスティアル島)から地球上には存在しない特殊な合金「アダマンチウム」が発見される。

これまでのMCUの世界では、「ブラックパンサー」シリーズでおなじみのワカンダ王国でしか採掘できない、稀少特殊金属「ヴィブラニウム」がテクノロジーレベルを押し上げてきた。しかし、ワカンダの管理のもとでしか手に入らないヴィブラニウムに対し、それに比肩するほどの可能性を秘めた金属がインド洋上で入手可能となったことは、その所有権を含めて世界の軍事バランスに大きな変革を起こしうる危険性があった。本作の副題である“ブレイブ・ニュー・ワールド=新たなる世界秩序”とは、アダマンチウムを巡る情勢の変化の先にある状況を指しているのだ。

■日米関係に緊張が…!?予想外の事件の連続に、サムはどう挑む?

社会情勢と重なる形で描かれるもう一つの側面は、アメリカ合衆国大統領となったロスの動向に絡む「謎」だ。アダマンチウムを世界の国が平等に分け合うことを提案する世界サミットの会場で、ロスの暗殺未遂事件が発生。不可解な点が多い事件をサムが追ううちに、その裏には大きな計略が存在していたことが明らかになっていく。

そうしたなか、アダマンチウムを巡った協定に日本が拒否するという驚きの展開もポイントだ。フォード演じるロス大統領にも劣らない堂々とした佇まいで外交を行う日本の尾崎首相を、「SHOGUN 将軍」で世界からも注目された平岳大が熱演。やがてセレスティアル島でアメリカと日本の海戦へと発展していくこととなるのだが、ロスの目的や行動の裏にはなにが隠されているのか?事態を大きくしようとしている者の正体とは?ロスを軸に描かれる内側と外側という2つの局面に対し、キャプテン・アメリカが、相棒である2代目ファルコンことホアキン・トレス(ダニーラミレス)と共に立ち向かっていくのだ。

物語の前半は、こうした政治的な状況が悪化していくスリラー、悪化する状況を作り出している黒幕の存在とその目的を追うミステリーを主眼に描き、中盤以降はMCUらしいダイナミックな画作りで大空を翔ることを得意とするサムの活躍の立体的なアクションを披露。そうした要素を多層的に味わうことができるのが本作の大きな魅力だと言えるだろう。

ボーナス・コンテンツでこれまでの物語を復習!黒人がキャプテン・アメリカとなる苦悩とは

ここからはブルーレイボーナス・コンテンツに絡めた紹介をしていこう。サムがキャプテン・アメリカとなるために葛藤する物語として、本作の前にディズニープラスで配信中のドラマシリーズ「ファルコン&ウインター・ソルジャー」があり、『ブレイブ・ニュー・ワールド』においても重要なポジションとなる、歴史から消された黒人キャプテン・アメリカのイザイアブラッドリー(カール・ランブリー)が初登場。サムとイザイアの関係を通して、黒人がキャプテン・アメリカとなるうえでの社会的な苦労や差別的な意見に触れられる社会派な要素が描かれており、本編を観るうえではそういった背景を知っていたほうがより理解を深められるだろう。

とはいえ、ドラマシリーズとMCUにおけるサムのこれまでの活躍を改めて振り返るのは、ちょっと手間がかかってしまうのも事実だ。そこで役立つのが、ブルーレイに収められたボーナス・コンテンツ「サム・ウィルソンの軌跡」。ここでは、サムの足跡と活躍の振り返りをスタッフやキャストのインタビューを交えて語られており、本作の理解を深めるための基礎知識を知ることができるようになっている。本編を観る前の導入、観直すための復習としてはピッタリだ。そして『ブレイブ・ニュー・ワールド』と重要なつながりを持つ、『インクレディブル・ハルク』(08)との関連性は、ボーナス・コンテンツ「敵役のキャスト」で解説しており、こちらでも本作への理解をしっかりと深めてくれるのだ。

■画作りに込められた意図まで解説する、全MCUファン必見のオーディオコメンタリー

そして今回のボーナス・コンテンツで目玉となっているのが、ジュリアス・オナー監督とクレイマー・モーゲンソー撮影監督のオーディオコメンタリーだ。監督と撮影監督という珍しい組み合わせによって、ほかではなかなか聞くことができない「画面づくり、空間づくりのこだわり」が随所で明かされている。

そのこだわりの柱は「作り物じゃない感じを出したい」という想いと「政治的で偏執的な本物のスリラー」というテイストにあると、オナー監督は語っている。物語前半で展開する、誰を信頼していいのか判らない不安感は、1960年代から70年代に作られた「パラノイド・スリラー」的な雰囲気を目指したという。それを映像的に見せるために、デザイン性を排した無機質さを感じさせるこだわりが反映されていることが解説される。この“不穏”な映像の空気感は、映画本編からももちろん感じ取ることができるが、オーディオコメンタリーで詳細な画作りの意図を知ることで、「映像演出とはどう行われ、作られていくのか?」という作り手側の思考を深く理解することができるものとなっている。

キャラクターの心情表現やキャスティングに関しても、意図が語られており、黒人に対する人種差別や偏見を正面から捉える、映画監督のスパイク・リーとの関係や、黒人監督として黒人のキャプテン・アメリカを描く想いなどがひも解かれていく。一方で、ロスが姿を変えてしまうレッドハルクと桜の関係や、本編だけではわからないマニアックな撮影秘話も満載。シリーズファンならば見逃せないものとなっているのだ。

MCUの新章を切り開いたキャプテン・アメリカ。期待が高まる「アベンジャーズ」ではどうなる?

2026年には『アベンジャーズドゥームズデイ(原題)』、2027年には『アベンジャーズ:シークレット・ウォーズ(原題)』と「アベンジャーズ」2作が公開されることも決定しているMCU3月27日には『ドゥームズデイ』出演キャストを発表する配信が行われ、5時間半にもおよび異例の長さのなか、2億7500万回という脅威の再生数を記録するなど、全世界で期待が高まり続けている。

現在明らかになっている27名のキャストには、キャプテン・アメリカ役のアンソニーマッキーはもちろん、アイアンマンことトニー・スターク役を演じてきたロバートダウニー・Jr.が、ヴィラン役のドクタードゥームとして復帰をはじめ、チャニング・テイタムがガンビット役を再演、かつて「X-MEN」シリーズに出演したキャストのMCU参戦などサプライズだらけ。一方で、ホークアイスパイダーマンといったMCUおなじみのキャラクター、「X-MEN」の顔とも言えるウルヴァリンヒュー・ジャックマンといった名前はなく、今後のどのように関わってくるのか注目のポイントとなっている。

また“*ニュー・アベンジャーズ”となることが明かされた『サンダーボルツ*』(ブルーレイ+DVDセット、4K UHD+3D+ブルーレイセット/9月10日発売)や、『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』(7月25日公開)のキャラクターも出演が決まっており、いまやどの作品も今後のMCU、そして「アベンジャーズ」に大きな影響を及ぼしていくのだろう。

いずれにせよ来たる「アベンジャーズ」2作は、いままでの映画には類のない規模の作品となることは間違いないだろう。ぜひこの機会にパッケージを集めて、何度も作品を見返しボーナス・コンテンツで理解をより深めていきながら、さらなる大きな変化を迎えるMCUに期待していきたい。

文/石井誠

サンダーボルツ*・*ニュー・アベンジャーズの「*」は、正式には「5本線のアスタリスク」。

レッドハルクと化してしまうロス。いったいなにが…?/[c] 2025 MARVEL