
「宝くじが当たったら」「突然お金持ちになったら」……つい、そんな妄想をしてしまう人もいるのではないでしょうか。実際、予想もしなかったお金が舞い込んできたという幸運を経験する人もいます。しかし大金を手にして浮足立つと、その後の人生が思いがけない方向へ進んでしまうことも。見ていきましょう。
疎遠だった兄から、まさかの置き土産…人生が一変
Aさん(仮名・54歳)は地方都市で一人暮らしをする会社員。転職を繰り返し45歳のときにようやくたどり着いた会社で働いていました。当時の年収は480万円、貯金は800万円ほど。決して余裕がある生活とはいえません。
在職期間が短いため、60歳で受け取れる退職金もごくわずか。このままでは70歳、いや、死ぬまで働かなくてはならないかも……。諦めに近い覚悟があったといいます。
そんなある日、思いもよらない転機が訪れます。疎遠だった8歳上の兄が病気で他界し、遺産がAさんの手元に舞い込んだのです。兄は若い頃に起業し、実業家として成功。諸経費や相続税を差し引いても、Aさんの手元には約7,000万円が残ることになりました。
生まれた時から優秀な兄と比較されてきたAさん。成人後はほとんど交流がなく、年に一度、兄から律儀に届く年賀状が唯一のやり取り。直接会ったのは両親の葬儀の時だけだったそうです。
Aさんは、兄が事業で成功していることはうっすら知っていましたが、その資産を受け取れるとは夢にも思っていませんでした。突然の幸運に、さすがのAさんも兄の墓前に手を合わせ、感謝を述べたと言います。
しかし、この予想外の遺産こそが、Aさんの人生を狂わせる始まりでした。
意気揚々と早期退職し自由を謳歌するも、迫りくる落とし穴
突如得た大金で、Aさんはすっかり気が大きくなりました。これだけあれば、もう働かなくても何とかなるだろうという甘い考えが頭をよぎります。
もともと仕事が好きではなく、生きるために働いていただけだったAさん。手元に大金があるのに、満員電車に揺られて会社に行くのは馬鹿らしく思えたのでしょう。Aさんは突然会社に退職届を提出、引き継ぎも満足にしないまま、会社を去りました。
一生働かなくてはならないと思っていた人生は一変しました。好きな時間に起きて、好きな時間に寝る生活。これまで割引シールが貼ってあるお弁当に手を伸ばしていたのが、好きなものを買えるように。そして、夜の町にも通うようになり、一晩で数百万を使うこともあったといいます。
しかし、そこで出会った女性に「生活に困っている」「一緒に暮らすためにお金を貸してほしい」そうお願いされ、複数回にわたり数百万円ずつお金を渡してしまったAさん。人生で女性から頼られるという経験がなかったAさんにとって、甘美な誘惑だったのでしょう。
さらに、酒の席でうっかり遺産の話をしてしまったことから、詐欺師の格好のカモに。「安全に、簡単にもっと増やせる投資がある」という言葉に、あっさりと騙されたのでした。
あっという間に危機的状況へ
浪費や詐欺被害が重なり、わずか3年で資産は1,000万円を切るまで激減。気が付けばAさんも57歳。現実が一気に押し寄せてきました。
早期退職で厚生年金を納めていない分、65歳からの年金額も少なくなることが判明。余裕の老後だったはずが、危機的な状況に向かっていることに気づいたのです。
あわてて働き口を探してハローワークに行ってみたものの、60歳が近づいたAさんを好条件で採用してくれる企業は見つかりません。ついには、かつて勤めていた会社を訪れ再雇用の打診をするまでに。しかし、あまりに身勝手な辞め方をしたこともあり、あっさりと断られました。
結局、月収24万円、ボーナスなしの契約社員として、なんとか再就職することはできました。しかし、「せっかく大金を手にしたのに、少しずつ使っていれば一生暮らせたのに、馬鹿だった……」と、後悔が止まらない日々を送っていると言います。
大金で幸せになれるかは、その人次第
これまで手にしたことがない大金を手にすると、生きる選択肢は確かに広がります。しかし収入が1円もないと、資産減少はあっという間。「使い切れないほどある」という感覚に陥っても、1年もたてば大きく資産が減っていることに気づくでしょう。
また、無計画に使ってしまう人や、調子に乗って人に話してしまう人ほど、詐欺や悪意を引き寄せやすくなります。そして、いざ働きたいと思っても、年齢を重ねた後では、再就職の道は厳しいのが現実です。
Aさんのようにラッキーが舞い込んだら、まずは冷静になること。資産をどう使っていくのか、仕事を辞めるという選択が正しいのか、しっかりプランを立てた上で、慎重に行動するべきでしょう。

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