
「AIエージェントが、従来型アプリケーションのCOBOLやJavaで記述された複雑なビジネスロジックに取って代わる時代が近づいている」「エージェンティックAIの世界を本格的に実現するためには、『AIと親和性の高いデータプラットフォーム』が間違いなく必要になる」
日本オラクルは2025年7月8日、6月にスタートした2026年度(FY26)の事業戦略説明会を開催した。社長の三澤智光氏は、一昨年から掲げる重点施策「日本のためのクラウドを提供」「お客様のためのAIを推進」に引き続き注力していくとしたうえで、5つの領域における具体的な取り組みの方針を示した。
この5つの領域の中で、特に時間を割いてオラクルが持つ強みと実績、戦略を強調したのが、「ミッションクリティカル」と「AI」の2つだ。
ミッションクリティカル領域では、Orcle Cloudを通じて基幹システムのクラウドシフト/モダナイゼーション案件を多数成功させてきた実績を強調した。またAI領域では、冒頭の三澤氏コメントにあるように、“AIエージェント時代”を迎えて従来のアプリケーション構造にパラダイムシフトが起き、データプラットフォームの重要性が再び高まるという認識を示した。
ミッションクリティカル:クラウドシフトで多数の実績、課題はノウハウのパートナー展開
三澤氏はまず、昨年度(FY25)のグローバルおよび日本の業績を紹介した。
グローバルの業績は、FY25の総売上高が約8.3兆円(前年比8%増)、第4四半期時点のRPO(契約済み受注残額)が約20兆円(前年同期比41%増)。また日本も、売上高が前年比7.8%増、営業利益が同8.8%増となり「14年連続の最高益を達成できた」という。
上述したRPOの約80%はクラウド契約が占めており、クラウド全体の成長率はFY25で24%、FY26は40%を超える見込みだという。三澤氏は「オラクルコーポレーション(グローバル)も日本オラクルも、『再成長を遂げ始めた』と言ってよいのではないか」と語る。
FY26の重点施策の中で、三澤氏が特に力を込めて語った領域の1つが「ミッションクリティカル」だ。企業の基幹システムにおけるモダナイゼーションを支援するため、オラクルでは「Oracle Cloud Infrastructure(OCI)」へのクラウドシフトを支援してきた。三澤氏は「中小規模から大規模まで、本当に多くのお客様で、すごくいい仕事ができたと思っている」と自己評価する。
顧客事例の1つであるKDDIでは、オンプレミスで運用してきた巨大な基幹システムの老朽化と、ハードウェア/ミドルウェアの保守限界という課題に直面。そこで、OCIへのクラウドリフトを決断した。
KDDIでは当初、2025年度末までに9システム、その後も継続的にOCIへのクラウドリフトを推進する計画としていた。ところが、オンプレミスのアーキテクチャをそのまま踏襲したクラウドリフトが「思いのほかうまくいった」(三澤氏)結果、2024年度のうちに8システムの移行を完了。その結果、クラウドリフトの対象を、当初計画の44システムから60システムに拡大することにしたという。
「オンプレミス トゥ オンプレミス(オンプレミス環境から新たなオンプレミス環境へ)の移行プロジェクトでは、かなりの確率でスケジュールの大幅な遅延、コストのオーバーランが起きている。一方で、この(KDDIの)事例では、スケジュールは前倒しとなり、コストのオーバーランもまったく起きていない。さらに、カットオーバー後も安定稼働を続けている。明らかに、オンプレミス トゥ クラウドのほうがメリットがある、と証明できたと思う」
ミッションクリティカル領域では、SaaS型の基幹システムである「Oracle Fusion Cloud Applications」の採用も増えているという。導入事例としてビデオで紹介された三井住友フィナンシャルグループ(SMBC)では、いわゆる“Fit to Standard”を「妥協ではなく、戦略と位置付けた」ことで、大きな成果を早期に実現できたと説明。さらに三澤氏は、これからアプリケーションに組み込まれたAIを正しく働かせていくためには、Fit to Standardのアプリケーション導入が原理原則になると説明する。
このように、基幹システムのクラウドシフトの実績を数多く積んできたオラクルだが、FY26は「そのノウハウをパートナーに展開していく」(三澤氏)ことに注力するという。三澤氏は、そこにはまだ課題も残っていると述べた。
「こうした(クラウドリフトの)取り組みのほとんどは、これまではオラクルとお客様が主導して進めてきた。課題は何かというと、日本のパートナー様にこのノウハウをまだ伝え切れていないこと。パートナー様の多くが、『それしかやったことがないから』と(クラウドではなく)オンプレミスへの移行を選んでしまう。そこで、われわれが培ってきたノウハウを、いかに多くのパートナー様にトランスファーしていくのかが、いま最も頑張らなければいけないポイントかと思っている」
「エージェンティックAI向けのデータプラットフォーム」の重要性を強調
FY26の重点施策として、もうひとつフォーカスしたのが「AI」領域だ。従来の静的な「プロセス自動化」から、動的な自律的実行を実現する「エージェンティックAI」への進化が見込まれる中で、三澤氏が特に強調したのが「データプラットフォームの重要性」である。
三澤氏は、エージェンティックAI時代には、アプリケーションの構造にパラダイムシフトが起こると説明する。従来のアプリケーションは、UIの裏側にハードコードされた複雑なビジネスロジックがあり、それがデータベースへのトランザクションを発生させていた。この構造の場合、トランザクションの規模は事前に予測しやすかった。
これがエージェンティックAI時代になると、ビジネスロジックに代わってAIエージェント群が連携しながら、複雑なタスクを実行するようになる。そのとき、個々のAIエージェントがデータベースにアクセスするため、予測不可能な大量トランザクションが発生する。加えて、ドキュメントや画像(非構造化データ)、ベクトルデータベース、ナレッジグラフといった、さまざまなデータタイプのデータへのアクセスも必要となる。
三澤氏は、こうしたエージェンティックAI時代のパラダイムシフトに対応するためには“AI Readyなデータプラットフォーム”が必要だと説く。具体的には、マルチモーダルデータの統合管理、マルチLLMへの対応、詳細レベルのアクセス制御を含む高度なセキュリティ、そして大量トランザクションを処理できるパフォーマンスとスケーラビリティといった要件が考えられるという。
「AIをシンプルにサポートするための、エージェンティックAI用のデータプラットフォームが、間違いなく必要になってくる。そうしたデータプラットフォームとして、オラクルのフラッグシップ製品である『Autonomous Database』はどんどん進化してきている」
三澤氏はもうひとつ、AIがデータを活用するうえでは「データのコンテキスト」も重要だと強調した。データそのものに加えて、データの“意味”を表すコンテキストを合わせてAIに渡すことで、AIはデータを活用しやすくなる。
この点において、Fusion Cloud Applicationsには優位性があるという。さまざまな業務アプリケーションのデータをシングルデータモデル化し、データとコンテキストを一元管理しているためだ。
「一般的なERPでは、各業務アプリケーションのデータを外付けのAI用データストアにコピーし、そこでAI処理を行っている。しかし、データストアにはデータそのものしかコピーされておらず、AIが非常に使いづらい」「Fusion Cloudの場合は、データとコンテキストをAIに学習させることで、アプリケーションを発展させていける」
ガバメントクラウド、ソブリンクラウドなどでも新たな発表
ミッションクリティカル、AI以外の領域でも、それぞれ昨年度の導入事例や最新発表が紹介された。以下では、新たに発表された内容を中心にまとめる。
■ガバメントクラウド:「OCI採用の自治体は500を超える見通し」
政府/地方公共団体(地方自治体)で推進されているガバメントクラウドへの移行。三澤氏は、1741ある地方自治体のうち、2025年度中に移行が完了するのは1000から1100程度という数字を引用しながら、「そのうちOCIを採用いただく地方自治体は、500を超える見通し」だと発言した。実際には地方自治体もマルチクラウド戦略をとっているため、“OCI単独”というケースは少ないと思われるが、それでもガバメントクラウド市場の中で一定の存在感を示すことになりそうだ。
■ソブリンクラウド:日本のオペレーションセンター開設を発表
近年、データ主権や運用主権が担保される「ソブリンクラウド」への注目も高まっている。オラクルでは、OCIの技術コンポーネントをベースとしつつ、パートナーのデータセンターでパートナーが運用する「Oracle Alloy」、顧客データセンターに設置されオラクルが運用する「Oracle Dedicated Region Cloud@Customer(DRCC)」といったソブリンクラウドソリューションを展開してきた。
今回は新たに、日本在住のメンバーが、24時間365日体制でAlloyパートナーをサポートする「Japan Operation Center(JOC)」の開設が発表されている。これにより、Alloyパートナーが日本のデータ主権/運用主権/ソブリン要件を満たすかたちで、ソブリンクラウドのサービスを提供できる。
■マルチクラウド:AWS国内リージョンでも「近日提供予定」
他のクラウドプロバイダーのデータセンター内で、オラクルがOracle Cloudのデータベースサービスを提供する取り組みも、日本国内での展開が進んでいる。Microsoft Azure、Google Cloudでは、現在提供中の東日本(東京)リージョンに加えて、西日本(大阪)リージョンも「近日予定」となっている。
またAWSについては、米国東部リージョンで限定プレビュー提供を開始しており、東京/大阪リージョンについては「近日予定」としている。いずれもFY26中には進捗があると見てよいだろう。
※追記:オラクルは米国時間7月8日、Oracle Database@Azureの一般提供開始を発表した。発表では、東京/大阪リージョンを含む世界20リージョンでの提供予定も記されている(提供開始時期は未公表)。

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