
いつも時間に追われている。つねにタスクが山積み…そんな感覚に心当たりのあるビジネスパーソンもいるかもしれません。現代人の時間をあっという間に奪うものの代表としてスマホやSNS、動画配信サービスなどがしばしば挙げられますが、無論それだけではありません。本稿では、安田修氏の著書『やらない時間術』(かや書房)より一部抜粋・再編集し、本当に重要なことに時間を割くために意識的に時間を作り出す方法について解説します。
投資の神様ウォーレン・バフェットの発言として伝わる逸話
何をやらないかは、何をやるかと同じくらい重要だ。やらないことを決めれば、やることが明確になる。これについては、投資の神様ウォーレン・バフェットが言ったとされる(本人は「そんなこと言ったっけ?」という反応らしい)次の話がもっともわかりやすい。
ある男がバフェットに、「あなたのように人生で成功するためには、どうしたら良いでしょうか」と尋ねた。それに対して、バフェットはこう答えた。「まず、あなたの人生でやりたいことや、やるべきこと、優先度の高いことを25個、書き出しなさい。それができたら、その中から、絶対にやりたいことを5つ選んで印をつけなさい」と。
男は「なるほど、わかりました。ではこの5つを最優先として、残りの20個を次の優先順位でやるんですね?」。答えるとバフェットは「いや、それは違う。残り20個は絶対にやってはいけない。その20個はやらないと決めて、最重要な5つのことだけをやりなさい」と。いやあ、秀逸。本当にご本人の発言なのかはわからないが、いかにもバフェットらしい話だ。
「本当にやりたいこと」をもっとも妨げるのは怠惰ではない
僕が本稿を通じて伝えたいこともまさにこれで、「もっともやりたいこと」を妨げるのは、やってもやらなくても良い「どうでも良いこと」ではない。もちろんテレビやスマホなど、ムダに近い時間はある程度はあるが、そんなことはみんなわかっていて。それよりも、あなたにとって「それなりに重要なこと」こそが大きな時間を奪っていくのだ。
つまり「やらない」時間術とは、それなりに重要なことをやらないと決めることで膨大な時間を生み出す時間術だ。これは、あなたにとって本当に何が重要なのかを決める、ということを意味する。痛みも伴うし、迷うこともあるだろう。それでも本当に時間を生み出してやりたいことをやりたければ、今、この問題に取り組むべきだ。
まずは、先ほどの「バフェットの課題」に取り組んでみて欲しい。あなたの人生でやりたいことは何か。その中で、本当にやりたいことはどれか。そしてそれは、他のそれなりにやりたいことをやめてでも、達成したいと思えるほど重要なことだろうか。
やらないと決めた5つのこと
自分の話で恐縮だが、参考になることもあろうかと思うので、お伝えしておく。起業をするときに、僕がやらないと決めたことが5つある。
●個別・無料で人に会う●繰り返しの作業
●睡眠時間・食事時間を削る
●大口顧客をつくる
●時間の切り売り
まず「個別・無料で人に会う」だが、これはビジネスをするうえでは避けては通れない。もちろんビジネスパートナーや友人とは個別・無料で会うこともあるのだが、ここで言っているのは、いわゆる「見込客」に限ったことだ。ビジネスをしていると、交流会で知り合った人やネット経由で知り合った人から、
「情報交換をしましょう」
「ビジネスの先輩である安田さんのお話を聞かせて欲しい」
「1on1をしましょう」
「まずは、お茶でもしませんか」
「軽く飲みに行きませんか」
といった誘いが非常に多い。だが僕はこういう話を、基本的には全て断るようにしている。そこからビジネスにつながることは確かにあるので決してムダではないが、きちんと設計された経路で人と会うことと比べると、効率が悪すぎるのだ。
だから僕は、人と会うときは有料のセッションか、1対複数のイベントで会うことにしている。「会いたい」と言われたら「イベントをやっているので、いつでも来て下さい」と答える。個別・無料という意味ではセミナー後の個別相談というケースはあるが、それは設計された経路なので問題ない。
非効率な「繰り返し作業」を断ち切る「やらない時間術」
「繰り返しの作業」は、ゼロにはできない。ただ僕らが「仕事」と呼んで過ごしている時間のうち、単純作業の繰り返しに費やしている時間は実は膨大だ。スプレッドシートへの入力や編集。メールに書く定型の挨拶文。セールスや部下への説明で同じことを繰り返す。経費処理や日報なども、繰り返しと言えばそうだろう。そして定例の会議や朝礼……。
しかし今はこれらは、ほぼ全てが僕の手を離れている。スプレッドシートに繰り返し入力・編集するような処理はマクロかプログラムにしているし、定型文はパソコンやスマホの辞書機能に登録している。「おせ」と2文字入力すると「お世話になります。シナジーブレイン、安田です。」と変換される。「めーる」と打つと「yasuda@fra-sco.co.jp」が表示される。この程度の文章を入力するのは大した手間ではないと感じるかもしれないが、積み重なると膨大な時間になる。
同じことを3回話すような場面では、動画を活用する。報告を要する相手もいないし、会議もない。人は雇っていないが、繰り返しの作業はマニュアル化して外注する。
確かにサラリーマン時代は、完全には避けられないものもあった。それでもマクロや辞書機能などは活用したら良いし、上司や同僚の理解を得れば効率化できる部分はかなりあるはずだ。
「睡眠時間・食事時間を削る」ことは、絶対にやってはいけない。サラリーマン時代はどこか誇らしげに「忙しいのでランチは行きません」とか「3時間しか寝てません」と言って仕事ができている気になっていたが、今思うとマイナスでしかない。健康に悪いのはもちろんだが、脳のパフォーマンスが落ちて仕事の効率自体が下がるのでミスが増え、誰のプラスにもなっていない。
今では毎日7時間以上の睡眠は必ず確保しているし、食事も時間はずらすことがあるが、行かないことはまずない。そもそも睡眠や食事の時間がないくらいに追い込まれた時点で負けなのだが、もしそうとしか思えない状況になったとしても、優先順位は睡眠や食事が上だ。
「依存」も「安売り」もしない…時間の価値を守る戦略
「大口顧客をつくる」は少しわかりにくいと思うが、これは時間術というよりはビジネスの安定感の問題だ。大口顧客はありがたいと思うかもしれないが、その1社に依存する度合いが高くなりすぎるので、切られたら終わりというリスクが高すぎる。言われたことを何でもしなくてはならなくなり、結果として時間も失うことになる。なので、顧客は小口で分散する仕組みをつくろうと意識している。
「時間の切り売り」は、より正確に言うと「目先のお金欲しさに、低い単価で安易に時間を切り売りすること」をしないということだ。起業したばかりの頃は仕事もなく、どんな仕事でもやらせてもらいたいという気持ちになるものだが、それをぐっとこらえた。起業当初でも1時間1万円、今では1時間10万円を下回る単価では、やらないと決めている。自社で提供する全ての商品・サービスはその単価を超えるリターンが得られるように設計している。
ただ、これは原則であって、絶対のルールではない。関係性が深い人からの依頼だとか良い経験になる、先につながると思えば低単価でも、むしろ無償でも仕事を引き受けることはある。気乗りはしないけれど時間はあるし、3万円もらえるならやっておくか……という安易な判断をしないように心がけているということだ。
安田 修 株式会社シナジーブレイン 代表取締役 信用の器 フラスコ 代表

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