
この記事をまとめると
■新車販売の世界でメカニックの離職が目立っている
■預かり車両の洗車がメカニックの離職理由となっている
■洗車を段階的に省くことがディーラーの車両整備現場のひとつの働き方改革となりそうだ
働き方改革によってさまざまな業界で問題が噴出
さまざまな業種で「働き方改革」と叫ばれるようになって久しい。自動車関連ではタクシーやバスといった旅客輸送、トラックによる貨物輸送業界では、時間外労働の上限規制を厳格化して就労環境の改善を図ろうとした結果、輸送能力の不足だけではなく、そもそも運転士の就労環境を改善しようとしたものなのに、バスやトラックでは収入減にもつながり運転士が苦境に立ってしまう「2024年問題」が顕在化して問題となっている。
自動車関連に限らず、働き手不足のなか、そこで働くひとたちへ過度な負荷をかけないようにしようというのが「働き方改革」の趣旨と承知しているのだが、そもそもの働き手不足が改善されない限り、諸問題解決はなかなか難しく、働き手が少ないなか離職者が増える傾向も目立っている。
かつて新車販売の世界ではセールスマンの離職が目立っていた。ちょっと前に新車を契約したばかりなのに、担当セールスマンが辞めているといったことはそんなに珍しくなかった。その当時は新車がガンガン売れている時代であり、個人情報保護法なども存在していなかった。セールスマンの給与体系はいまよりもはるかに歩合給部分が多く、歩合給だけで毎月無理なく生活できたといった話も聞いている。
そのため、セールスマンは現職より高い歩合給を払ってくれる別のディーラーがあれば、それまで販売した顧客リストとともに業界を渡り歩いた。「こんにちは、B社の●●ですけど、今度A社の新車売ることになりました」と、かつて販売したお客のところへ新天地で扱っている新車を売り込むというのも日常風景であった。
しかし、世の中では個人情報保護法が施行され、顧客リストを転職先にもっていくことがまずできなくなった。歩合給もだんだん薄くなるなか世代交代も進み、とにかく高い歩合給を求めて渡り歩き稼ぎまくるというセールスマンから、世界に名のとおった日本の自動車メーカーの系列ディーラーという、その看板に魅力を感じて安定を求めて新車販売セールスマンを志すという世代へと、セールスマンの傾向も変わっていった。
本来の業務以外のことに時間を取られる苦痛
代わって新車販売の世界で離職が目立っているのが、自動車の点検及び整備を行うメカニックである。十分な人数が確保されないなか、まさに分刻みで日々入庫してくるクルマの作業をしなければならない。さらにリコールでも発生すれば、その改修業務も加わるので、まさに業務繁多となってしまう。しかし、メカニックの離職理由で目立つのは作業に忙殺されるということもあるのだが、じつは預かり車両の洗車を負担に感じてというものが多いというのである。
ディーラーによって異なるのだが、作業前に洗車を行い、作業後に再び洗車を行うところもあるようだが、作業後に当該車両を洗車してユーザーに渡すのは、業界では当たり前のようになっている。洗車機を導入するところもあるが、店舗敷地の関係などで手洗い洗車となるところもある。そして何より、洗車機だろうが手洗いだろうが、ボディについた水滴の拭き取り作業を相当の負担と感じて離職するというケースが意外に多いそうだ。
とはいっても、水洗い後に拭き取らずにそのままにしておけば、よほどの純水でもない限りは水分が自然乾燥してボディにシミを残すことになる。自分の愛車1台を拭き取るのも年齢とともにきついなぁと感じるひともいるかと思うが、毎日複数台数の水洗いを行わなければならないというのは思っている以上に負担になるようだ。
「あるメーカーでは自社系ディーラーでのメカニックの離職理由で洗車を苦にしたものが意外なほど多いことを受け、メーカーとして何か解決につながるものはないかと動いていたという話も聞いたことがあるので、事態は思っているより深刻なようです」とは事情通。国家資格を有し、まさに手に職をつけたメカニックが、本来の業務以外のことに時間を取られるとなれば、悩んでしまい離職してしまうということも十分理解できる。
いまより働き手に余裕があったころ、点検や整備に車両をもち込むお客へのサービスもあり、作業終了後に洗車してお客のもとに戻すようになったようだが、これを「働き手が足りなくなった」となっても、いまさらやめられなくなっているのが現状のように見える。万が一にも作業中にボディに傷や凹みを作ってしまっていないかの確認も兼ねての洗車という意味もあるようで、なかなかやめることもできないようだ。
入庫時にお客に作業後の洗車が必要か否か聞き、もしいらないとなった場合には何か特典を用意するなどし、作業前後にお客とともに当該車両の傷などの確認をして、洗車を段階的に省くことが、ディーラーの車両整備現場のひとつの働き方改革となっていきそうである。

コメント