
学校のトイレに生理用ナプキンを置く動きが広がっている。これまでは保健室で配る学校が多かったが、生徒が手にとりやすいトイレ設置に変えたことで、利用は大幅に増えた。
今年3月には公共施設へのナプキン設置を巡り、SNSで大きな議論になったが、学校ではトイレに生理用ナプキンがある環境が整ってきた。中学校の養護教諭や、生理の貧困問題に取り組む国際NGOを取材した。(ライター・田中瑠衣子)
●「必要な子が自分の意志で使えるようになった」東京の葛飾区立亀有中学校は、全校生徒355人、1学年3~4クラスと区内では中規模の学校だ。女子トイレの個室に入ると、半透明のケースに生理用ナプキンが入っていた。亀有中では1階から4階まで、女子トイレ計8カ所の個室にナプキンを置いている。
養護教諭の福田夏子さんは「突然生理になって困ったときにすぐに使えること、必要な子が必要なときに自分の意志で使えるようになりました」と話す。
亀有中では1週間に1回、補充したナプキンの数を記録している。多いときは130個ほど補充した週もあり、2024年は1年間で1800個ほど補充した。トイレには昼用ナプキンを置き、保健室では経血量が多い生徒のために、夜用ナプキンを用意している。
● 保健室では週に45個→トイレに設置したら1650個「生理の貧困」はコロナ禍で注目された。内閣府が毎年行う調査では学校のトイレにナプキンを置いたり、自治体窓口でナプキンを配ったりと生理の貧困解消に取り組む自治体は、2024年10月1日時点で926団体。調査を始めた2021 年の255団体から大きく増えた。
葛飾区が区内の小中学校73校全てのトイレに生理用ナプキンを置いたのは2022年4月から。 必要なときに生理用品が手に入らない「生理の貧困」の解消や、子どもたちが安心して学校生活を送れるようにするためだ。
トイレに配備する前は、保健室で必要な子にナプキンを渡していたが、トイレに常設し手に取りやすくしたことで、利用は大きく増えた。取り組みをスタートした2022年度は、小中学校合わせて1週間で1650個もの利用があった。保健室で渡していたときは1週間で45個で、35倍以上増えたことになる。
葛飾区によると、亀有中のように個室に置く学校のほか、トイレの手洗い場に設置する学校もある。利用は年を追うごとに増えているといい、2025年度は小中学校合わせて約93万円の予算を計上した。
●体の不調に悩む子とつながりにくくならないか亀有中の福田さんは今年4月に着任したため、トイレにナプキンを置く前と後との比較は分からないが、前任校ではトイレに置いたことで保健室に来る生徒はかなり減ったという。
「前は、ナプキンを手渡しするときに『経血量が多い』『腹痛がつらい』といった生徒の一言から、婦人科受診を促す機会を持てました。トイレにナプキンを置くことで、そうした機会は減り、体調に悩む生徒がいないか、気にかかっています」
葛飾区が各小中学校に、トイレのナプキン配備について聞き取りをしたところ「必要な子の手に届く」、「養護教諭が不在でもすぐナプキンを使える」と肯定的な声が上がった。
一方で「補充が頻繁で負担である」「生理用品だけではなく、家庭への支援が必要な子とつながりにくくなるのでは」との意見もあった。
●東京科学大は建築学を学ぶ女子学生が発案大学でも生理用ナプキンをトイレに置く動きは活発で、法政大学は2025年4月から市ヶ谷、多摩、小金井の3キャンパスの女子トイレと、バリアフリートイレに無料の生理用品を設置した。
東京科学大学は、建築学の博士課程の女子学生の発案で始まった。「生理の貧困」や、ベーシックサービスとしての生理用品の提供など海外の事例も学び、先行していた中央大学にもヒアリングして、2023年10月から一部トイレに配備し、設置場所を広げている。
●「トイレにナプキンを」訴えただけで殺害予告メール女性の貧困解消に取り組む、国際NGOプラン・インターナショナルが15~24歳の2000人に行った調査(2021年)によると、36%が「生理用品の購入をためらったことがある」「購入できなかった」と答えた。収入が少なかったり、他のことにお金を使わなければならないなど経済的理由を挙げる人が目立った。
実際、生理用品の価格は上がっている。国の小売物価統計調査では、東京23区の20~24個入り昼用羽つきナプキンの2024年の価格は、10個あたり220円。5年前の2019年と比べ2割ほど高くなっている。
そうした中、教育現場でトイレへのナプキン配備が進む状況について、プラン・インターナショナルのアドボカシーグループリーダーの長島美紀さんは「生理が始まったばかりのときはナプキンを持ち歩くことに慣れていなかったり、恥ずかしい気持ちから保健室が高いハードルになったりします。アクセスしやすいトイレへの配備が広がっているのはとてもいい流れだと思います」と話す。
一方で「今もまだ、この状況なのか」と感じることもある。
今年3月、三重県議会の吉田紋華議員が自身のSNSで、津市役所のトイレに生理用品が設置されていなかったことに触れ「トイレットペーパーみたいに、生理用ナプキンをどこでも置いてほしい」と投稿した。これに対し、吉田議員への殺害予告メールが8000件以上も届くなど誹謗中傷が起きた。
「プラン・インターナショナルが2021年に調査結果を公表したとき、『生理の貧困』という言葉を巡って、すごいバッシングを受けたという意識があります。4年たった今も否定的に見る向きがあるんだと」
吉田県議の投稿を巡っては「ナプキンを持ち歩くのが女子のたしなみ」という発言も出た。
「個人の責任であるかのように言うのは間違っていると思います。生理は経血量や周期を自分で完璧にコントロールできるものではないということを、社会で受け止めることが大切なのに、今なお日本で浸透していないのは不思議な感じです」
長島さんは言う。
「生理の貧困は、経済的困窮と合わせて語られることが多いですが、女子も含めて生理に関する知識不足もあります。長時間ナプキンを取り替えずに感染症リスクが高まったり、生理が重いことが病気のサインかもしれないということを知らなかったり。生理について声を上げ続けることは、社会全体で生理の知識を深めることにもつながると思います」

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