山下美月×萩原利久

 山下美月と萩原利久が、7月11日からWOWOWで放送・配信される連続ドラマW-30『殺した夫が帰ってきました』に出演する。連続ドラマ単独初主演となる山下美月は“殺した夫”に翻弄される主人公・茉菜を、萩原利久は“殺されたはず”の夫・和希を演じる。

 桜井美奈氏の同名小説(小学館文庫刊)を原作とする本作は、夫を殺し、ようやく手に入れた平穏な日々。夢をつかみかけた矢先、殺したはずの夫が目の前に現れる――。にわかには信じがたい出来事を機に、主人公と“殺した夫”の過去の罪と愛が交錯するサスペンスミステリーだ。壮絶な過去に隠された、痛く切ない“罪”と“愛”を追う物語が展開される。

 インタビューでは、久しぶりの共演となった二人に、お互いの印象や撮影の裏側、そしてインタビューで後半では記憶をなくして登場する和希にちなんで、二人が忘れたいこと、さらにモチベーションにつながっている音楽について話を聞いた。(取材・撮影=村上順一)

いい意味で当時のままだった


第1話まるごと無料配信】連続ドラマW-30「殺した夫が帰ってきました」

――今回3回目の共演ですが、出演のお話を聞いてどんな心境でしたか。

山下美月 6年前にダブル主演でやらせていただいた『電影少女 -VIDEO GIRL MAI 2019-』は、今まで出演した作品の中で一番と言っても過言ではないほど本当にハードでした。同世代ということもあり、仲良くお話しさせていただいたり、作品についてもいろいろ素直に話せる方だと思っていたので、6年経って何か変わったところがあるのかなと思ったのですが、いい意味で当時のままでした。撮影は難しいシーンからのスタートでしたが、話し合いながらできたので、楽しく進められました。

萩原利久 3回目と言いつつ、実質は2回目という感覚です。『降り積もれ孤独な死よ』で共演しましたが、絡みがなかったので、体感としては6年ぶりという感覚でした。以前共演した『電影少女 -VIDEO GIRL MAI 2019-』が、かなりハードな現場だったので、一つハードな現場を乗り越えた戦友のような感覚があります。今回も難しい作品ではありましたが、不安は全くなく、再び共演できるありがたみを感じていました。

――最後までどうなるのか展開が読めない作品でしたが、台本を読まれて感じたことは?

山下美月 私が演じる茉菜は、自分がこの世に存在してはいけないと思っていて、自分自身が何なのか、なぜここにいるのか、なぜ生きているのかが分からないとさえも感じている人物です。そうなるに至った少女時代があり、物語は展開していくのですが、彼女が最初からアクションを起こしていくというよりは、萩原さんが演じる役や、親友の女の子、母親、初めて好きになった相手など、周囲のアクションによって様々な人生を歩んでいる内容でしたので、ご一緒させていただいたキャストの皆さんに委ねるところがすごく大きかったです。

 監督からも、感情、喜怒哀楽を表現として表に出さずに演じてほしいというリクエストが何度かあったため、そこは演者としては怖さも少し感じ。分かりやすくリアクションをした方が表現としてはやりやすいのですが、茉菜はそれが一切できない状態で、脚本を読んで心情の変化は、丁寧にすくい取らなければならないと思いました。

萩原利久 予想を裏切るような展開、予想通りではない結末を迎えられるのが僕らとしてもベストなので、脚本の段階でどう見せていくか考えていきました。すごく特殊なシチュエーションで、設定もそうですし、テクニカルにやらなければいけない部分はたくさんあったので、頭を抱える部分もありました。原作を読んで文字で見るのと、実際に演じるとなると、「これは成立するのか」と思うポイントがいくつもあったので、頭を使いながら撮影に臨まなければと思いました。

山下美月はNGを出さない!?

――共演されてお互いすごいなと感じたところはありましたか。

萩原利久 僕は結構セリフを噛んでしまうのですが、山下さんはNGを出さないんです。同じ環境下でずっとやっていると、頭が働かなくなってきたり、意図しないところで意外とミスをしてしまうものですが、山下さんにはそれがない。本当にプロフェッショナルな方だなと前回共演したときから感じていました。本番にアジャストする能力が極めて高いので、プロとして尊敬するところが多かったです。「自分もちゃんとやらなければ」と何度思ったことか(笑)。当たり前のようで実は一番難しいことなんじゃないかなと日々感じるので、すごいなと思っていました。

山下美月 嬉しいです。萩原さんは大事なシーンで噛んでいたのを覚えています(笑)。でも萩原さんは噛んでいないといった素振りを見せ続けるんですよね。萩原さんは闇を抱えた役が割と多いイメージがありますが、実際の人柄はとても明るい方で、誰とでもコミュニケーションを取れて、現場でもムードメーカー的な存在です。集中力がすごくあって、共演するたびに本人との性格のギャップがあり、全然違う姿を見せているところがすごいです。

――萩原さんがムードメーカーというお話でしたが、ヒリヒリする場面も多い中で、ふと笑顔になってしまった場面はありましたか。

山下美月 餃子屋さんのシーンです。同意という意味で、萩原さんが「だね」と言うセリフがあるのですが、私、『ポケモン』がすごく好きで、そのセリフからフシギダネを連想してしまい笑いが止まらなくなってしまって。

萩原利久 一度気になっちゃうとそれにしか聞こえなくなっちゃうんです。僕は割と人が笑っていると伝染してしまうタイプなので、僕も笑いをこらえながらやっていました。

山下美月 また、萩原さんは寝るふりをしなければいけないシーンで、本当に寝ていたのも印象に残っています。6年前にドラマでご一緒したときも、本当に寝ていたので、寝るシーンで“絶対寝てしまう役者”さんという印象もあります。

萩原利久 成長していないということですね(笑)。前回は意図せず寝てしまったのですが、本当に過酷な撮影で一日撮影しきって最後のシーンだったので、体力が残っていなくて…。今回僕は絶対寝ないぞと心に決めて撮影に臨んだのに、結果寝てしまったので、本当に申し訳ないなと思っています(笑)。

――大変だったシーンはありましたか。

萩原利久 相手のセリフも自分の声も聞こえないくらい風が強かったシーンの撮影は大変でした。あのシーンは過去の共演経験が一番生きた瞬間かもしれないです。セリフが聞こえないからといって、お互いに動揺している感じではなく、当たり前のように口元を見てセリフを読み取っているような感じでした。

山下美月 全部、口元を読み取ってセリフを言っていましたよね。

萩原利久 側から見てもおかしな点や、セリフが食い違うこともなかったとスタッフさんにおっしゃっていただき、安心しました。

――山下さんはいかがですか。

山下美月 泣きそうになりながら自分の過去を吐露する大事なシーンで、萩原さんの後ろにいるスタッフさんが飛ばされそうになっていたり、日が落ちる前に撮り終えなければいけないので必死に頑張っていました(笑)。逆にそれが功を奏したと言いますか、必死感が出て、いい味になっていたのではないかと思います。

過酷な撮影を乗り切った「アイテム」

萩原利久

――その過酷なシーンなどもある中で、これがあったからこの撮影を乗り切れた、といったものはありましたか。

山下美月 キッチンカーです。萩原さんはいらっしゃらなかったのですが、自分のクランクアップのシーンが12月上旬でとても寒い日でした。夕方から入り、深夜2時くらいまで、雨を降らせて泥の中を這いつくばるシーンがありました。そのときにキッチンカーのカフェがあったのですが、私は崖の上で撮影していたので、全然飲めるタイミングがなくて…。

萩原利久 クレームだ(笑)。

山下美月 違います(笑)。温かいものをたくさん用意してくださっていたので、「いいな、“カフェカー”」と思っていました(笑)。そのシーンでクランクアップだったので、お酒も用意してくださっていたので、みんなも「撮影が終わったら飲むぞ〜」という気持ちで頑張っていました。

萩原利久 それで言ったら僕はカップ麺かもしれないです。僕も雨が降っている山の中でのシーンがあって、そのときはカップ麺を二つ食べて乗り切りました。普段と味は変わらないはずなのですが、大変な現場だったということもあり、いつも以上に美味しかったのを覚えています。

消したい記憶とモチベーションを高める音楽

山下美月×萩原利久

――今回、萩原さん演じる和希は記憶をなくして戻ってきますが、お二人が消したい記憶はありますか。

山下美月 私は高校生のときのバイト中の失敗です。中華屋さんでアルバイトをしていて、その中でよくお皿を割ったり、お客さんにビールをかけちゃったり(笑)。結構厳しいバイト先で、両手いっぱいに抱えて一気に運ぶのですが全部ひっくり返してしまって…。スタッフさんが中国の方で、中国語なので何を言っているかは分からなかったのですが、すごく怒られているのは分かって、あのときの記憶は消したいです。

――それは消したいですね(笑)。萩原さんは?

萩原利久 アニメの『チ。-地球の運動について-』を観た記憶を消したいです。初見のときにとても衝撃を受けて、そこからのハマり方が尋常じゃなかったので、記憶を消してもう一度観たいです。

――宇宙とかお好きなんですか?

萩原利久 宇宙や天文学は割と好きで、ロマンがある作品は特に好きです。『チ。-地球の運動について-』はハッピーな作品ではないのですが、人間という生き物が持つ底知れない欲だったり、自分も物にはまりやすく追求癖があるので、とても共感できた作品です。僕は学者ではないので立場は違いますが、探究するところはそう遠くない気もしていて、すごくハマりました。

――さて、お二人がこの曲を聴くとテンションが上がる、モチベーションが高まる曲はありますか?

山下美月 私はDREAMS COME TRUE(以下、ドリカム)さんの「何度でも」です。ライブを観に行くくらいドリカムさんが大好きで、真っ直ぐな歌声でとても歌詞が心に沁みます。仕事帰りに「何度でも」を聴いて泣きながら帰ったこともあります。本当に<10000回だめで へとへとになっても10001回目は 何か変わるかもしれない>という歌詞がとても刺さります。

 もう1曲はサンボマスターさんの「できっこないをやらなくちゃ」です。サンボマスターさんと乃木坂46が対バンライブをさせていただいたことがあって、「できっこないをやらなくちゃ」をコラボさせていただいたのですが、そのときに感動して、「やらなくちゃだよな」とすごく背中を押されました。改めて歌の力ってすごいと思った曲です。

萩原利久 玉置浩二さんの「キラキラ ニコニコ」です。コンサートで聴いてから、すごくいいなと感動してよく聴くようになった曲です。とにかく玉置さんの歌声が素晴らしく、サビの歌詞が<おはよう>から始まるのですが、そこがお気に入りで、とてもいい気持ちになります。すごく朝にもぴったりで、僕にとって必要不可欠な1曲になっています。

――ありがとうございます。最後に『殺した夫が帰ってきました』インパクトのあるタイトルですが、お二人は本作をどのように観てもらえたら嬉しいですか。

萩原利久 観る人によって楽しみ方も違ってくる作品だと思います。どう結末を迎えるのか考えたり、ミステリーとして推理しながら観る方もいると思います。様々な面から楽しめると思います。ただ、何かをしながら観るのではなく、集中できる環境で観ることをお勧めしたいです。

山下美月 あまりタイトルに引っ張られすぎないでほしいという思いがあり。この作品の本質には、ミステリーというところももちろんありますが、社会的背景もメインになってくるため、1話から6話まで最後まで通して観たとき、それぞれ人によって感じるものが全然違うと思います。やるせなさ、悲しさ、虚しさの奥にある光のようなものを見つけ出せる作品になっていたらいいなと思います。

山下美月

ヘアメイク:吉田真佐美
スタイリスト:山本隆司(style³)

【萩原利久】

ヘアメイク:粕谷勇介(ADDICT_CASE)
スタイリスト:TOKITA

【番組概要】

■タイトル:連続ドラマW-30『殺した夫が帰ってきました』

■放送・配信:2025年7月11日(金)午後11時 放送・配信スタート(全6話)

第1話無料放送【WOWOWプライム】 第1話無料配信【WOWOWオンデマンド】
出演:山下美月 萩原利久
田鍋梨々花 土居志央梨 櫻井佑樹/望海風斗 笠原秀幸 川西賢志郎 菅原大吉/大塚寧々 ほか
原作:桜井美奈『殺した夫が帰ってきました』(小学館文庫刊)
監督:加藤綾佳 脚本:浜田秀哉 一戸慶乃 音楽:西村大介/DUNK 
プロデューサー:廣瀬眞子 中山ケイ子 長部聡介 溝口道勇 
製作:WOWOW FCC
©桜井美奈/小学館 ©2025 WOWOW/FCC