子どもの引き渡しなどで使われる「人身保護法」をめぐって、裁判所の命令に従わなかったことを理由に、20代男性が20日間にもわたって身体を拘束されるという異例の事態が発生していたことがわかった。

刑事事件で逮捕された場合と異なり、人身保護法に基づく「勾留」には期間の上限がない。この点について、男性の代理人をつとめる弁護士は「規定を削除するか、救済規定を設けるべきだ」とうったえている。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)

●人身保護命令に応じず→20日間拘束

男性の代理人、松本亜土弁護士によると、男性は妻側から人身保護法に基づいて、子どもの人身保護を請求された。裁判所は男性に対して、子どもを妻に引き渡すよう命じた。

しかし、子どもの体調不良などを理由に、男性は3回続けて、予定の日に子どもを裁判所に連れていけなかった。このため、大阪地裁は人身保護法に基づく「勾留」を命じ、男性は6月20日に身柄を拘束された。

松本弁護士は抗告や勾留取消を申し立てたが、いずれも退けられた。勾留理由の開示請求により、7月3日に大阪地裁で審理が開かれたが、裁判所は男性の解放時期について明言しなかったという。

男性は刑事事件の被疑者として逮捕されたわけではないが、大阪拘置所で身柄を拘束され続け、21日目の7月10日にようやく釈放された。

●代理人「期間の上限を定めるべき」

人身保護法の12条3項は以下のように定めている。

<前項の命令書には、拘束者が命令に従わないときは、勾引し又は命令に従うまで勾留することがある旨及び遅延一日について、五百円以下の過料に処することがある旨を附記する>

つまり、人身保護法における「勾留」は、命令に従うまで継続できる仕組みとなっている。

これについて松本弁護士は、「刑事訴訟法」が被疑者の勾留を最大20日間、「法廷等の秩序維持に関する法律」が監置を20日以下、と上限を設けていることを挙げて、次のように問題を指摘する。

「裁判所の裁量で無期限に身体拘束されるのはおかしいと思います。秩序罰としての性格があるにしても、人の身体を拘束する以上、期間の上限は設けるべきです」

●「時代背景にそぐわない規定」

人身保護法は1948年昭和23年)に施行された比較的古い法律だ。松本弁護士は、当時の背景に照らし合わせたうえで、こう指摘する。

「人身保護法が作られた当時は『裁判所侮辱罪』が存在せず、法定の秩序維持を目的とした一時的な措置として勾留の規定が設けられた経緯があるようです。

しかし、1952年に『法廷等の秩序維持に関する法律』が制定され、その後、裁判所侮辱罪の検討がなされなくなった段階で本来は削除すべきでした。時代が変わった今も、当時のまま規定が残っているのは問題です」

松本弁護士によると、人身保護法に基づく勾留事件の代理人をつとめるのは初めてで、ほかの弁護士でも同様の経験はほとんどないとみられる。

松本弁護士は「勾留の規定は削除するか、残すにしても期間の上限や不服申し立ての手続きなど救済規定を明記すべきです」とうったえている。

逮捕なしで20日間拘束、人身保護法の「勾留」は時代錯誤か 弁護士「上限を設けるべき」