
2025年5月2日から4日にかけて、中国・北京市で『Strawberry Music Festival 2025 in Beijing(以下、SMF北京)』が開催された。中国の大都市を含む全土で、年間で複数回にわたって開催される『Strawberry Music Festival』には、中国国内で人気のアーティストから、日本のアーティストも多数が出演する。
『SMF北京』では、新しい学校のリーダーズや倖田來未など日本のポップアーティストが出演すると共に、ドワンゴが主催するボカロ文化の祭典『The VOCALOID Collection(ボカコレ)』をフィーチャーした特設DJステージ『The VOCALOID Collection TIME(ボカコレTIME)』も用意された。
同ステージに登場したのは、なみぐる/南ノ南/夏山よつぎ/TeddyLoidの4名のアーティストたち。本稿では、彼らの旅への密着取材を通して見えた中国のインターネットミュージックシーンの現在や、「国境を越えて愛されるVOCALOID文化」についてレポートとしてまとめていきたい。
■伝統を色濃く残す古都・北京への旅路 広大な中国大陸の洗礼を受ける
日本と北京は、飛行機で約3~4時間ほど。そこそこ近く感じられ、当初は「意外に近いんだな」などと気楽に構えていたのだが、現地に到着してからは広大なスケールに驚かされた。何もかもがデカい。まず北京の空港は柱がデカく、空港内のディスプレイ広告すらも巨大だ。空港から宿泊する会場付近のホテルまでは車で数時間ほどかかる。
初日は会場での機材チェックとセッティングから。この日は会場が閉まった夜の間にサウンドチェックと簡単なリハーサルを行うだけであったが、『SMF北京』の会場となった北京世園公園飛行キャンプ場の大きな盛り上がりを感じられ、気分も高まる。
この北京世園公園はもともと北京博覧公園という名称で2019年の『北京世界園芸博覧会』の会場として使用された場所で、2020年4月29日に現在の名前へと変わっている。『SMF北京』会期中は広大な会場エリアに複数のステージや企業によるブースが並んでおり、なかには『龍角散のど飴』のブースなど日本企業の出展も見られ、「読める、読めるぞ!」と少しほっとしてしまったのはここだけの話だ。
2日目は朝から最終のサウンドチェックを行い、本番までの間にクルー一同で昼食を食べに北京市内のモールへ。昼食後から少しだけ時間があったので、モール内でいくつかの雑貨屋に立ち寄ったのだが、ほぼ全てのお店で初音ミクのグッズが売られていたのが印象的だった。『クレヨンしんちゃん』や『名探偵コナン』といった日本の人気IPと同じく、初音ミクもまた市民権を得ているようで、想像以上に愛されているのが伝わってきた。
■ボカロシーンをギュッと詰め込んだようなファン層
その後は会場へ戻り、ボカロPたちのアクトが始まる。ステージ前には既にファンが待機しており、何かしらのミクグッズを身に着けていたり、コスプレをしていたりと準備万端。早くから場所取りが始まっていた。フェスといえばひとつのステージに張り付くのではなく、観たいアーティストが出るステージに移動して楽しむ、という印象だが、こと『ボカコレTIME』に関しては「この4組を全部楽しむぞ!」という心構えの人が多いように見受けられた。
トップバッターの夏山よつぎが登場すると、観客から歓声が沸き起こる。ヒット曲「ころしちゃった!」に合わせて手拍子を鳴らしたり、ペンライトを振ったりと、それぞれ自由な楽しみ方で盛り上がっている。ボカクラのノリから『ニコニコ超会議』などのエキスポイベント、『マジカルミライ』などのライブイベントなど、さまざまなイベントに参加する層が一堂に会したかのような、ファン層のミクスチャーが面白い。
その後、パフォーマーがなみぐる、南ノ南に変わっても最前列をキープするファンの顔ぶれは変わらない。なみぐるの軽快なサックスに酔いしれ、南ノ南の中毒性満点な楽曲群で腕を振るって踊る狂う観客たち。ふたりの楽曲は中国でもbilibili動画などで視聴されているようで、こちらも大いに盛り上がっていた。
パフォーマンスの合間には入れ替えの時間があるものの、その間も次のアクトを心待ちにしながらファン同士が交流したり、パフォーマンスを終えて顔を出したボカロPたちにサインを求めたりと、『ボカコレTIME』目当てで足を運んだファンが多いようだ。
そしてトリを飾ったTeddyLoidのパフォーマンスでは、FLOWの「GO!!!」から自身が作編曲に携わり世界的なヒット曲となったAdoの「唱」、代表曲である「Fly Away」、そしてkz(livetune)の「Tell Your World」まで、アンセムをちりばめていく。世界中でプレイするDJらしい場慣れしたマイクパフォーマンスや、さらにはスクラッチまで披露して終始大盛り上がりだった。
■中国のファンは「愛を伝えたい」
意外だったのは、中国ファンの情熱と人懐っこさ。終演の合間に来場者に軽くインタビューを行っていると、近くにいるファンが「私も話したいです」「俺にもインタビューをしてくれ」とばかりに近寄ってくること。
手作りのグッズを見せてくれたり、中国におけるボカロ文化の広がりや『ボカコレTIME』が開催されることの喜びを中国語、アニメやボカロ曲から学んだであろうカタコトの日本語、身振り手振りをおりまぜて伝えてくれるのだ。たびたび日本にも足を運んでいるファンのひとりはドワンゴスタッフをして「今や社内でも“幻のグッズ”」といわれる『ボカコレ』初期に開催された貴重なライブTシャツを着用するなど、コアなファンはどこにでもいるのだなと驚かされた。
一方で、直前に『ボカコレTIME』の存在を知って駆けつけたというファンもいて、なかなか最新のボカロ事情が入ってきづらいという側面はあるのだろうとも感じた。今回出演したボカロPたちが、bilibili動画への楽曲投稿に力を入れていたり、今後力を入れていきたいとインタビューで語っていたのも、こうした声が多く寄せられるためだろう。
そういった意味で、『SMF北京』における『ボカコレTIME』の価値は計り知れない。日本からではなかなか見えにくい「中国ボカロシーンの現状」やファンからの反応を間近で聞けるうえに、文字通り“桁がひとつ違う”レベルの、巨大なファンダムを獲得できる可能性があるのだから。今後もこの取り組みが続いていくことに、大いに期待したい。
(文・写真=三沢光汰)

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