
「人は見た目が9割」と言われますが、例外も存在します。見た目は一見貧しそうでも、実は裕福――。特に高齢世代では、こうしたケースはめずらしくありません。一体なぜなのでしょうか。
え、あの人…まさかの富裕層?
『人は見た目が9割』(新潮新書/竹内一郎著)が発行されたのは2005年。当時、100万部を超える大ヒットとなり、今もなおこの言葉は広く使われています。
実際、初対面の相手の内面や人となりをいきなり知ることはできませんから、見た目から得られる情報は重要です。しかし、こんな話を聞いたことはないでしょうか。
「見た目は貧しそうなのに、実はものすごいお金持ちで驚いた」 「ゴージャスな装いをしていたのに、実は古びたアパートで暮らしていた」
そう、見た目だけではその人の本当の経済状態はわからないことも多いのです。しかし、なぜお金持ちの中には、質素な格好をして控えめな暮らしを選ぶ人がいるのでしょうか。
2億円超の資産を持つAさんの「普通すぎる日常」
76歳のAさんは、65歳で大手企業を退職。現役時代のピーク年収は1,500万円、60歳時に受け取った退職金は3,000万円。親からの相続もあり、貯金は2億円を超えています。妻は専業主婦で、現在は夫婦で月26万円ほどの年金収入も得ています。
自宅は東京23区内で住宅街として人気のエリアにある、30年前に建てた駅近の戸建て。住宅ローンは完済済みで、地価の高騰もあり同じ広さの新築住宅なら数億円は下らない地域です。
これだけ聞けば、何不自由なく、優雅な老後を過ごしているように思えるでしょう。ところが、Aさんは「見た目では、まずお金持ちには見られません」と笑います。
「近所のスーパーの店員さんとは顔なじみですが、私のことを貧しいおじいさんだと思ってるんじゃないでしょうか(笑)。退職してから料理が趣味になって、私が食事係で3食作ってるんですけど、買うのは安売りの食材が中心。服もその辺の量販店で買ったTシャツを愛用していますし」
ブランド品に身を包み、高級スーパーで買い物をしてもおかしくないはずのAさん。なぜ質素な暮らしを選ぶのでしょうか。
「高い服とか高級品は単純に落ち着かないんです。うちの親もそうでした。贅沢せず、節約して、家じゅうの電気を消して歩いて、冬は暖房なしで厚着する。子どものころは自分の家が裕福だなんて思ったこともありませんでした。私もそういう家庭で育ったから、自然と倹約が身についたんでしょうね」
さらにAさんは、こうも語ります。
「お金があるとわかると、それを狙う人が寄ってきますからね。悪い人に騙されて泣いたって話も何度も聞きましたし、自慢するような暮らしはしたくない。うちの近所では、私たちの年代よりも若い夫婦のほうがセレブな格好をしてますね。節約して工夫して暮らすほうが、実は楽しいんですよ。お金を出せばいいものが手に入るのは当たり前。工夫して楽しむから生活に張り合いが出るんです」
とはいえ、すべてをケチっているわけではありません。
「私は一眼レフカメラが好きで専用のカメラ部屋を作ったほど。カメラ1台で言えないぐらいの価格です(笑)。それと、私も妻も掃除だけは苦手で、家事代行もお願いしています。家族の誕生日やお祝い事ではしっかり奮発もします。必要なもの、楽しいことには、ちゃんとお金は使うようにしています。残ったお金は子どもや孫に引き継ぎたいですね」
富裕層の金銭感覚とは
2021年、野村総合研究所が発表した日本の純金融資産保有額別の世帯数によると、純金融資産1億円以上5億円未満の「富裕層」は約153万5,000世帯、5億円以上の「超富裕層」は11万8,000世帯。つまり、富裕層クラスにいるのは決して一部の特別な人だけ、というわけではありません。しかも富裕層は右肩上がりに増え続けています。
とはいえ、昨今の物価上昇や経済状況を考えると、「1億円の資産では富裕層とは言えない」「普通の暮らしと変わらない」との声も出始めています。
また、富裕層だからといって誰もが「ザ・お金持ち」のような派手な暮らしをしているわけではありません。資産を守り育ててきた人たちほど、日々の暮らしは堅実で、必要なときにだけしっかりとお金を使う……そんなメリハリのある金銭感覚を持っています。
一方で、一獲千金で突然大金を手に入れた人のほうが、わかりやすく「お金持ちに見える」生活スタイルを持つというのも、よく聞かれる話。もちろん、それ自体は悪いことではありませんが、お金の使い方を誤り資産が枯渇したり、詐欺に遭うなどのトラブルに巻き込まれるケースも見られます。
本当に豊かな暮らしとは、見た目や浪費ではなく、自分らしく心地よく生きることなのかもしれません。

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