
この記事をまとめると
■VIPカーとは国産最上級セダンをベースに極端に車高を落とした改造車
■派手なホイールやエアロ装着が特徴で1990~2000年代にブームを迎えた
■現代のカスタムにも影響を与える唯一無二のスタイルと思想がある
かつて一世を風靡したVIPカー
WEB CARTOPの読者の皆さまのなかで、カスタムが好きだという人はどれくらいいるでしょうか。街なかでは、年々カスタムに気合いが入った車両を見かける機会は減ってきているという印象ですが、「東京オートサロン」や「大阪オートメッセ」などのカスタムカーイベントを見ていると、とても勢いが衰えているようには思えません。
しかし、カスタムブームの勢いがもっとも熱かった時期といえば、1990〜2000年代にかけてという感覚があります。この時期は各メーカーから高性能なハイパフォーマンス車が発売され、巷でもマフラーやタービン、ECUなどに手を入れるチューニングが盛んでした。
その一方で、高級車をベースにして「シャコタン(車高短)」のスタイルを極める動きもかなりの盛り上がりを見せていました。それが「VIP(カー)」と呼ばれるジャンルです。ここではその「VIP」にスポットをあてて、少し掘り下げていきましょう。
■「VIPカー」とはどんなクルマ?
おそらく、「VIPカー」と聞いてその姿がしっかり浮かぶという人は40代以上ではないかと思いますので、それより若い人たちに向けて、どんなジャンルなのかを簡単に説明してみます。
まずはベース車両が重要です。「VIPカー」のベースに選ばれる車種は国産メーカーの最上級セダンが基本です。たとえばトヨタなら「セルシオ」や「クラウン・マジェスタ」、日産なら「シーマ」や「セドリック&グロリア」、ホンダでは「レジェンド」あたりがかなりの割合を占めていました。
最高級といっても、「センチュリー(トヨタ)」や「プレジデント(日産)」、「デボネア(三菱)」はそのターゲットとしては微妙で、例外扱いという人もいます。この辺りの感覚は難しいところですね。そして、その車種のなかでも「最上位グレード」という点も重要です。せっかく高級な車をベースにしているのに、貧乏くさい低級グレードを選ぶ理由がありません。内装のラグジュアリーさも重視されるので、その点でも最上位グレードということが大事なのです。
大径ホイールを用いて低くセンスよく仕上げる
カスタムの手法は意外とシンプルで、まず車高を限界まで下げるのが最重要です。そしてホイールは極力大きいサイズを装着します。広い面の印象が強いヨーロピアン系のメーカーが重宝される傾向がありました。この大径ホイールというのは、じつは車高を下げることと相反する要素なので、見えないところの工夫が必要になります。
たとえばサスペンション。安易にバネを短くするだけでは満足のいく低さに届かないので、専用の車高調が必要になります。車種によってはアームがボディやメンバーにヒットすることもありますので、そこも加工が必要です。また、もとの設計より大径のタイヤがサスペンションストロークの限界(以上)まで上がるため、タイヤハウスの内側に当たりますし、ステアリングを切ればフェンダーに、場合によってはフレームなどに干渉します。
さらに、ホイールはできるだけディープなリムのものがエラいとされるため、必然的に幅が太くなり、さらにスペースがなくなるので、それをどう収めるかがマニアックな視点で評価されます。そして、最終的な仕上げとして、ボディの下端まわりと地面との収まりを整えるために、リップスポイラーやサイドスカートなどエアロパーツを装着します。
まとめてしまうと、多くの人が憧れる最上位車種をベースに、とにかく低く、迫力の大径&深いリムのホイールを装着して、センスよくまとめるのが「VIPカー」というジャンルだといっていいでしょう。
■なぜ要人でもないのに「VIP」?
みなさんご存じのように、一般的に「VIP」という単語は「Very Important Person」、つまり「要人」という意味になります。翻って当時の「VIPカー」乗りは、一部の人は実際に要人だった可能性もありますが、実際はほとんどが高級志向のトッポい兄さんたちでした。
それがなぜ「VIP」と呼ばれるようになったのか、ハッキリとした由来は定かではありませんが、もとが「AMG」や「Lorinser」、「König」など海外の高級セダンをカスタムするメーカーに憧れて始めたということから発したという説や、日本の裏家業の幹部たちが乗っていそうなスタイルからという説、あるいは単に高級路線を極めたからという説などがあるとされています。個人的には「VIP」という単語の意味と響きがよかったからではないかという説もあわせて推します。
この「VIPカー」がブームとして認知され始めたのは1990年代の前半ですが、カスタムのスタイルはそれ以前からの、いわゆる「族車」の流れを明確に感じますので、その発展系と考えられるでしょう。また、「VIP」とほぼ同時期に生まれた「バニング」というワンボックスのカスタムにも同じ匂いが感じられますし、その後の「スポコン」や「スタンス」などの置き系カスタムにその遺伝子は引き継がれているとも感じます。
「VIPカー」を見る機会はかなり減ってしまいましたが、時代は問わず、「低さは正義!」というイデオロギーはまだまだ受け継がれていきそうです。

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