
1928年の「蒸気船ウィリー」でスクリーンデビューを果たし、2028年に100周年を迎えるミッキーマウス。約1世紀に渡り世界中から愛され続けるミッキーの魅力を紐解くレポートが、カリフォルニア州・バーバンクにあるウォルト・ディズニー・カンパニーのアメリカ本社から到着。ウォルト・ディズニー・アーカイブスのキュレーターであるケルシー・ウィリアムズ氏と、現役で活躍するアニメーターのオースティン・トレイラー氏が、ミッキーの”愛され力”を語った。
【写真】米ウォルト・ディズニー・アーカイブスに展示されている手書きのミッキーマウス
(photo: Daisuke Taniguchi)
■逆境から生まれたミッキーマウス
本社の一角にあるのは、ディズニーの歴史的資料や貴重なアイテムを収集・保存している「ウォルト・ディズニー・アーカイブス」。そこで展示デザインキュレーターを務めるケルシーは、学生時代にウォルト・ディズニー・ワールド・リゾートでキャストをしていたという根っからのディズニーファン。今ではアーカイブスのクリエイティブ・リーダーとして、没入型の展示やディスプレイを通して、ディズニーの豊かな歴史に命を吹き込む。
ケルシーは、ミッキーの誕生に深く関わる、オズワルドに言及した。ウォルト・ディズニー・カンパニーは1923年に設立され、その年に「アリス・コメディー」と呼ばれるアニメ作品の契約が締結され、カートゥーンの世界で実写の少女が冒険する作品として人気を博した。だが、ウォルトはアニメーションだけで構成される作品を作りたいという強い思いがあり「オズワルド・ザ・ラッキー・ラビット」と呼ばれるキャラクターを生み出した。しかし、契約上の問題でウォルトはオズワルドの権利を失う。
この出来事を経て、ニューヨークからロサンゼルスへ戻る列車の中で、ウォルトは世界中の人々の心を掴むような人気キャラクターを創ることを決意。そのときに描かれたのがミッキーなのだ、と誕生の瞬間にまつわる貴重なエピソードを明かした。
■進化するデザインや愛されるキャラクターが魅力
ミッキーは、1928年に公開された初のトーキー作品「蒸気船ウィリー」で一躍人気者になった。ミッキーとミニーが初めて登場した同作の初演は、長編映画の前に公開された短編映画。ケルシーは、そこからこの100年間で進化を遂げてきた点こそミッキーが長期に渡って愛される所以だと語る。
例えば当時販売されていたグッズに描かれた彼の姿をみると、時代ごとの流行や美意識が読み取れる。時の流れと、ミッキーのデザインやファッション、さらには職業が変化している。そんなミッキーというキャラクターの魅力を尋ねてみると、誰もが好きになってしまう愛すべき性格だと話した。
「それぞれのキャラクターに独自の個性と強みがありますが、その中でもミッキーは本当に誰もが好きになってしまうほど愛すべきキャラクターです。彼はクラブのリーダーのような存在で、ミッキーを思い浮かべると、いつも一緒に思い出されるのがミニー、ドナルド、デイジー、グーフィーたちです。ミッキーは、仲間たちそれぞれの魅力を引き出すことができるリーダー的存在なんです」とミッキー&フレンズの関係性やその中での役割を話した。
■ミッキーの進化はアニメーションの進化
シカゴ出身のアニメーター・オースティンは、ウォルト・ディズニー・アニメーションの手描きアニメーション見習いプログラムに参加。エリック・ゴールドバーグやマーク・ヘンといったディズニー・アニメーションの巨匠たちのもとで手描きアニメーションのレガシーと技術を学んだ。そして、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ100周年記念短編映画「ワンス・アポン・ア・スタジオ-100年の思い出-」(2023年)に手描きアニメーターとして参加した。
オースティンにミッキーについて尋ねると、ミッキーの進化はアニメーションの進化でもあると話した。ディズニーのアニメーションは過去100年でストーリーはより洗練され、それに伴ってミッキーのデザインも進化を遂げてきた。デザインにおける最も大きなターニングポイントは、1939年の短編作品「Mickey’sSurpriseParty(原題)」であるという。「その作品でミッキーのデザインに変化が加えられ、より魅力的かつ生命力を感じるミッキーになりました。例えば、ミッキーの感情をより臨場感を持って表現する工夫として、白目の部分に瞳孔を付け加えたんです。私にとっては最も共感できるデザインなんです」と続けた。
■描く上で最も難しいのは“ミッキーマウスらしさ”を伝えること
一方で、アニメーターとしてミッキーを描く上で最も難しいのは、デザインではなく彼らしさを伝える動きや演技だという。ミッキーを常に新鮮に、ただし時代にあったキャラクターとして進化させることがアニメーターとしては最も難しい部分だと語る。「新しい観客に新鮮で新しいパフォーマンスを届けるにはどうすればいいか」を常に考える、とミッキーを描くうえで大切にしていることを明かした。
そして、レジェンドアニメーターのエリックから「ミッキーのようなキャラクターと仕事をするときは自分自身に誠実であることが大切だ」と教えられたという。「ミッキー&フレンズの動きはいつも若々しさにあふれています。それは常にアニメーションで大切に描かれるべきところです。ミッキーはもうすぐ100歳になりますが、いつでも若々しく活気にあふれる表情をみせてくれます」と、100年間に渡って愛されるアニメーション作画の工夫について明かした。
■「より良い人生を夢見るキャラクター」だから応援したくなる
オースティン曰く、ミッキーがこれほど長い間世界中で愛され続けている理由は、挑戦することを諦めない存在だからだ。たとえば「蒸気船ウィリー」では、彼の望みはただ船を操縦することだった。でも、実はその操縦すらもどこか気が引けていて、なかなか踏み出せなかった。そんな彼だからこそ、観客は自然とミッキーを応援してしまうのだ。
その後のミッキーも、常に「より良い人生を夢見るキャラクター」として描かれてきた。自分以上の何かを目指す姿は、小さいころからアニメーターになりたかったオースティン自身が共感できた点だという。そしてミッキーが夢を叶え、目標を達成していく姿を見ていると“自分にもできるかもしれない”と思わせてくれる、そんなミッキーに魅了されたとオースティンは話した。
■スクリーンデビュー100周年記念キャンペーン「ミッキー&フレンズ・イン・リアル・ライフ」
そんなミッキーが2028年にスクリーンデビュー100周年を迎えることを記念し、グローバルキャンペーン「ミッキー&フレンズ・イン・リアル・ライフ」がスタート。日本では、ミッキーの新オフィシャルテーマソング「What We Got ~奇跡はきみと~」を、ミッキーのベストフレンド・King & Prince が歌う。
なお、今回登場した「蒸気船ウィリー」など、ミッキーの登場作品はディズニープラスで配信中。

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