
ペットも大切な「家族」として扱われるようになり、これまで以上に飼い主が犬と一緒に公共の場で楽しむ機会も増えてきた。
動物が入ることを厳しく禁じてきた神社でも、一部では受け入れるようになった。しかし、近年では排泄などのマナーが問題となり、ペットの立ち入り禁止を明文化する神社も現れた。
東京都内で20年ほど前からペット受け入れを始めた神社では、神域におけるペットとの共生に苦心してきた。一部のマナー違反が原因で、多くの飼い主に開かれた神社が「ペット出禁」となることもありうる。(弁護士ドットコムニュース編集部・塚田賢慎)
●神社が“ペット出禁”に踏み切り出した2019年7月から三峰神社(埼玉県)で、そして今年4月からは佐嘉神社(佐賀県)はペット同伴の禁止が明文化された。
盲導犬などの立ち入りをのぞいて、ペット連れ禁止とした佐嘉神社は、その理由を「ペットの排泄放置、また祭典や祈願中に吠え続ける等、ご参拝の皆様が清らかな気持ちで祈りを捧げることが困難になる事例が続いております」と説明した。
神社とペットをめぐる問題について、神社本庁の広報国際課に尋ねたが「ペット同伴に関してまとめたデータはない」「ペット同伴に関して、各社(各神社)にお任せしている」とする。
およそ20年前からペット同伴を受け入れる東京都新宿区の市谷亀岡八幡宮では、毎年1月に予約客を対象とした、団体でのペット初詣が人気だ。
飼い主らは境内に並べた椅子に座り、犬や猫などのペットと祈願を受ける。
そこでのマナー違反は年々少なくなりつつあるが、どうしても少数は生じてしまう状況が続き、例年1月末にはトラブルの報告と注意喚起を公式サイトで発信せざるを得ない。
ただの道路のように、おしっこをかけられたら水で流せばいいというわけではない。神域は水で洗ってから、清められた酒と塩でさらにお清めまでする必要もある。
●宮司「ペットが悪いんじゃない。飼い主の問題」宮司の梶謙治さんは、ペットが悪いのではなく、飼い主の問題だと断言する。
「きちんとしつけられているワンちゃんもいれば、そうでない子もいますし、境内を普通の道路と同じ感覚で排泄させてしまうケースも毎年見受けられます。
もちろん大多数の方はペットにマナーパンツを履かせたり、抱っこしたりするなどマナーを守ってくださるのですが、友人グループで来られると、どうしても油断が生まれやすいですね。スマホで撮影に興じるかたもいらっしゃいます。あくまで神事を受けに来ている場ですから、節度を守ってほしいです。
犬の無駄吠えについては、しかたない事情もありますので、犬を責めるつもりはありません。七五三でいらっしゃるお子さんのほうが騒がしいことだってよくあります(笑)。問題となっているのは飼い主の意識です」
犬に排泄させるため、神社の奥まったエリアでこっそり移動するような飼い主がいるという。そのような飼い主を見つけたり、境内で犬が匂いを嗅ぎ始めるのを見つければ、神社側はすぐに「お気を付けください」と声を掛けている。
「小さな声掛けが大切で、それを続けるとトラブルは確実に減ります」
●氏子の望みをうけて…「文献から神社と動物のエピソード調べた」市谷亀岡八幡宮では、正月の時期以外には、個別でのペット祈願も受け入れ、本殿のなかにも入れている。
「小型犬は抱っこで、中・大型犬はリードを付けてのご参拝となります」
もともと、神社がペットを受け入れ始めたのは、20年以上前に、氏子さんから「うちの犬を祈願してほしい」「散歩で境内を通ってもいいか」「ペット用のお守りはあるか」といった相談をうけたことがきっかけだった。
そうしたニーズをうけたことで、神社と動物との関係をめぐる歴史について文献を振り返ってみた。
「当社の御祭神さまであります應神天皇が、狩に出かけた際に、獲物からカウンターアタックを受けて殺されかけ、そこを身を挺した愛犬に救われたという一編が風土記にあり、また、当社を創った太田道灌公も猫に命を救われています。動物に関わる逸話がいくつもあるので、ペットの神事を行うのは不自然ではないと判断しました」
宮司の梶さんは、「全国的に見ると、ペット参拝を認める神社は一時増えましたが、最近は規制を強める所もあります。特に普段は神職が常駐せず管理が行き届きにくい地方の神社では、マナーが緩みがちで問題が起こりやすい。結局、動物が悪いのではなく、飼い主の行動が問われるのです。覚えていてほしいのは、人の目はなくても、神様はちゃんと見ています」として、飼い主のマナー違反が進めば、どうしても神社側は受け入れを考え直さなければいけないと指摘する。
「神道には動物を神の使いと見る考えがあり、自然そのものがご神体という古い信仰形態もあります。人と動物(自然)を分断する発想は本来ありません。家族構成の変化でペットが『家族の一員』として大切にされるようになった今、神様の御恵みを授かろうとするのは自然な流れだと思います。
鳥居の内側は特に注意していただきたい神域です。もしマナー違反が増えれば、神社としてハードルを設けざるを得なくなります。飼い主さんの日頃の心掛けが、自由に参拝を続けられるかどうかを左右するのだと理解していただきたいです」
●神主でもある弁護士「愛護条例違反や礼拝所不敬罪にも」神社でペットが排泄することには法的な問題もひそむ。
大分県豊後高田市の神社の宮司を900年務める家に生まれ、神職資格(権正階)を持つ吉成安友弁護士は、神社でペットが排泄をする行為について、法的な問題も考えられると指摘する。
ペットが神社の境内で排泄をめぐり、まずは各地の愛護条例違反が検討される。
「神社の境内に限ったことではないですが、ペットの排泄については、基本的に都道府県の条例で規制がされています。
たとえば、東京都動物の愛護及び管理に関する条例は、『公共の場所並びに他人の土地及び物件を不潔にし、又は損傷させないこと。』(7条6号)としています。
すぐに回収掃除をすればよいかと思えるかもしれませんが、特に犬は同じ場所で排尿する習慣があるので、繰り返し同じ場所で排尿をするようであれば、次第に衛生上の問題が生じてくる可能性はあり、その意味で違反になる可能性があると思います。
また、これはあくまで私見ですが、神社は神様がおられる場所であり、特に清浄であるべき場所ですので、掃除等をしたらペットの排泄が許されるということには違和感があり、排泄がされること自体で前記の条例違反とされてもよさそうに思えるところです』
条例違反だけでなく、刑事上の違法行為にあたる可能性も指摘された。
「回収、掃除などをしない場合は論外で、軽犯罪法の『公共の利益に反してみだりにごみ、鳥獣の死体その他の汚物又は廃物を棄てた者』(1条27号)に該当します。
また、ペットが排泄することをわかっていて、意図的に汚そうとした場合には、礼拝所不敬罪(刑法188条)にも該当すると思われます」
礼拝所不敬罪は、「神祠し、仏堂、墓所その他の礼拝所に対し、公然と不敬な行為をした者は、六月以下の拘禁刑又は十万円以下の罰金に処する。」というものだ。
「ちなみに、動物ではなく、人間のケースですが、お墓に向かって、実際には放尿をしていないのですが、放尿をするような格好をしてみせたケースで『一般国民の宗教的感情を著しく害するものというべき』として礼拝所不敬罪の成立を認めた裁判例があります」
吉成弁護士はこのように解説した。
多くの飼い主が良識ある行動をしているはずだが、一部の心無い飼い主は思わぬ拍子に罪に問われることもありえる。
梶さんの「飼い主さんの日頃の心掛けが、自由に参拝を続けられるかどうかを左右するのだと理解していただきたいです」という言葉を思い返したい。
【取材協力弁護士】
吉成 安友(よしなり・やすとも)弁護士
東京弁護士会会員。企業法務全般から、医療過誤、知財、離婚、相続、刑事弁護、消費者問題、交通事故、行政訴訟、労働問題等幅広く取り扱う。特に交渉、訴訟案件を得意とする。
事務所名:MYパートナーズ法律事務所
事務所URL:http://www.myp-lo.com/

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