また、ガールズバーの女性従業員が犠牲に…。

静岡県浜松市ガールズバー7月6日、女性店長と従業員が常連客の男性に刺殺される事件が発生した。

2024年5月には東京都新宿区のタワーマンションで、ガールズバー経営者の女性(当時25歳)が、ストーカー行為をしていた男性に刺殺される事件が起きた。

2024年10月にも東京都港区ガールズバーで、従業員の女性(当時18歳)が常連客の男性に襲われ、命を落としている。

歌舞伎町キャバクラで働いた異色の経歴を持つ松本典子弁護士は「ガールズバーキャバクラと比べて、客との距離が近く、恋愛感情が過熱しやすい構造があります」と指摘する。

客と従業員の「距離感」や「接客スタイル」が、どのように被害リスクと結びつくのか。社会はどう向き合うべきなのか。現場を知る松本弁護士に聞いた。

●素人っぽさが「売り」のガールズバー

──ガールズバーの接客スタイルの特徴はなんですか。

ガールズバーは、カウンター越しに女性従業員(キャスト)が接客するスタイルで、キャバクラより客単価が低く、服装や接客もカジュアルな店が多いです。

水商売の入門として働きやすく、キャバクラのようなプロの接客ではなく、キャストの「素人っぽさ」がかえって客に好まれる面があります。そのため、キャバクラよりも、キャストと客の距離感が近いことが「売り」となっています。

──キャバクラやスナックはどうでしょうか。

キャバクラでは、キャストは客の隣に座って接待します。髪型や服装も華やかで、高級感の演出が重視されて料金設定も高めです。客も、お金をどれだけ使うかという「駆け引き」を楽しんでいる人が多い印象です。

一方、スナックは、ママやマスターの個性が全面に強く出る店です。地元の常連客が多く、アットホームな雰囲気が特徴です。カウンター越しに話す場合もあれば、テーブルに付くこともありますが、ママやマスターの目が届くので、キャストにとっては安心感がある店が多いと思います。

●「色恋営業」を勘違いする客がストーカーに

──色恋営業という手法には、どのようなリスクがありますか。

色恋営業は、キャストが「客に恋愛感情を抱いている」と思わせることで、店に通わせたり、高額なボトルを注文させたりする手法です。客は「自分だけが特別だ」と思い込みやすく、好意が次第に加熱し「自分と付き合ってくれている」と勘違いしがちです。

しかし、キャストにとっては、あくまでも営業の一環であり、通常の交際関係を築くつもりがないことがほとんどです。こうした「勘違い」から、ストーカー化、逆上して暴力行為、あるいは「使った金を返せ」という金銭トラブルに発展することもあります。

特にガールズバーは、キャストの素人っぽさと距離感の近さから、客が交際していると勘違いしやすく、リスクが高い構造といえます。

●客からのつきまといを防ぐには

──事件を未然に防ぐために、どのような法的手段や対応が考えられますか。

客が恋愛感情に基づいてつきまとう場合、まず警察に相談し、状況に応じてストーカー規制法に基づく禁止命令や警告、刑事告訴を検討します。

また、弁護士を通じて、民事上の接近禁止命令や損害賠償請求をする方法もあります。

ただし、被害を未然に防ぐには、事業者による対策が欠かせません。キャストはアルバイトや従業員として雇用されていても、客とのトラブルが「自己責任」とされてしまいがちです。しかし、客の執着は、ある日突然始まるものではなく、前兆や性格から察知できる場合が多いです。

店側は、キャストが相談しやすい体制を整え、キャストから相談があった場合には、該当客を出禁にしたり、キャストの送り迎えを徹底するといった対応が考えられます。また、必要に応じて、警察や顧問弁護士に迅速に相談するなどの対応も求められます。

【取材協力弁護士】
松本 典子(まつもと・のりこ)弁護士
歌舞伎町キャバクラ嬢として働いているときに弁護士を志す。国際基督教大学教養学部理学科生物学専攻卒業。予備試験経由で司法試験合格。東京弁護士会所属。企業法務を中心に、男女問題、相続、刑事事件等幅広く取り扱う。現在はテーマパーク業界を中心とした横断的な法律問題や個人情報保護に注力している。最近の趣味は、筋トレ有酸素運動
事務所名:松本中央法律事務所
事務所URL:https://www.m-laws.jp/

ガールズバーでまた犠牲者、常連客の「恋愛感情」引き金か? 色恋営業と距離感の近さが招くリスク 元キャバ嬢弁護士が解説