
7月22日から24日の日程で開催予定の『CEDEC2025』において、カプコンは『モンスターハンターワイルズ』のパフォーマンス最適化に関連する講演の一部を中止とした。
(関連:【画像】大迫力!シリーズ最新作『モンスターハンターワイルズ』)
本稿では、講演を中止する判断につながったとみられる経緯から、インターネット社会の問題へと迫っていく。
■講演中止の背景に『モンハンワイルズ』PC版をめぐる安定性の問題か
『CEDEC(Computer Entertainment Developers Conference)』は、一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会が主催する、国内最大級のゲーム開発者カンファレンスだ。エンジニアリング、プロダクション、ビジュアルアーツ、ビジネス&プロデュース、サウンド、ゲームデザイン、学術研究の7分野から構成されており、約200ものセッションが設けられる。例年8月中下旬に開催されてきたが、2025年はスケジュールを1か月前倒し、7月22日から24日の3日間で行われる予定となっている。
本稿で扱う『モンスターハンターワイルズ』の一部講演の中止は、5日発表のタイムテーブルから判明したもの。当初、カプコンは同タイトルを実例に、さまざまなセッションへと登壇する予定だったが、そのうちのひとつである「『モンスターハンターワイルズ』を快適な動作に導く!パフォーマンス調整の全て」が中止となった。この講演では、ゲームのパフォーマンスチューニングをテーマに、開発チームが取り組むクオリティと動作の両立について紹介される予定だった。
中止の理由については現時点で明かされていないが、背景には『モンスターハンターワイルズ』PC版の安定性の問題があるとみられる。2025年7月時点でSteamプラットフォームにはプレイヤーからの批判の声が相次いでおり、直近30日間のデータを参照する「最近のレビュー」では、全体の88%が「おすすめしない」と評価。最低のレビューランクである「圧倒的に不評」へと分類されている。開発チームは現在進行形でこの問題へと取り組んでおり、7月1日にもフレームレートの安定性の改善や、特定条件下でゲームがクラッシュする不具合を解消する修正パッチを配信したが、いまだ解決には至っていない現状がある。
そのようななか、カプコンは7月4日、「カスタマーハラスメント(誹謗、中傷等)への当社対応について」と題されたアナウンスを発表。「ユーザーからの意見や要望は、商品・サービスの改善に欠かせない貴重な声として、真摯に受け止めている」としたうえで、行き過ぎた内容については、厚生労働省のマニュアルに基づき、法的措置を行う可能性があるとした。『CEDEC2025』における一部講演の中止は、一連の状況を鑑みたうえでの判断であると言えそうだ。
■ユーザー接点に見受けられる過激な言動。ゲーム業界でもひろがるカスハラ問題
ゲーム業界では昨今、こうしたメーカーとユーザーのすれ違いが後を絶たない。開発の複雑化にともない、不具合を含んだままリリースされる、もしくはアップデートによって新たな不具合が確認されるといったタイトルが増えているが、そのような状況に対し、直接影響を受けることになるユーザーの一部が強く反発している実態がある。
プラットフォームのレビューやX公式アカウントの投稿などに代表される彼らとの接点には、過度に激しい語調の批判も少なくない。メーカー側に大きな落ち度がないタイトル(もちろん落ち度があるならば仕方ないと看過できるわけではないが)においても、類似する例が散見されてしまっている現状だ。今回の講演の中止は「過激なユーザーを刺激しないため」「関係者の安全を守るため」に取られた、カプコンの未然の対応と考えることもできる。仮に心配するようなことが何も起こらなかったとしても、メーカー側が“最悪の事態”に配慮しなければならないこと自体が、大きな問題であると言える。
このような傾向は、インターネット社会の匿名性によって助長されている面もあるのではないか。顔を合わせたコミュニケーションではないからこそ、彼らは場合によっては無自覚に強い言葉を使い、自身の掲げる正義にのっとって、“悪”と位置づけるメーカーを過剰に糾弾してしまう。「関係性も含めた物理的な距離を超えて人と対話できる」という利便性の副作用が、誹謗中傷の一般化という形で現代の悪習として顕現してしまっているような気がしてならない。
また、言葉をぶつけられた側の泣き寝入りが常態化している事実も問題を根深くさせている。こうした現状によって、「許容範囲」と「犯罪」の境界が曖昧になっている可能性もある。その行き着く先は、第三者的存在によって個々の行動がコントロールされる社会だ。被害者側からの牽制、誹謗中傷に対抗するための手続きの簡略化などはその一例である。
2022年2月には、「顧客等からの暴行、脅迫、ひどい暴言、不当な要求等の著しい迷惑行為」に対し、判断基準や企業が取れる行動などを明示した「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」が厚生労働省より発行されている。そうした動きがひろがるにつれ、直近ではカプコンのように、地方自治体や企業が個別で指針を示す例も増えてきた。それでも歯止めが効かないのであれば、より強硬な策、たとえば、SNSの非匿名化なども考慮しなければならないのかもしれない。
私たちの自由な暮らしは本来、規制のない場所に成り立っていたはずだが、今日では、ルールに定められていなければ/事件化しなければ問題がないと考える人が増えてしまった。そのような言動/行動に対する指針は、非文明的と考えられはしないだろうか。
『CEDEC2025』におけるカプコンの講演中止には、現代社会の課題が映し出されている。構成する私たち一人ひとりには、そのあり方を自分自身で省みることの重要性があらためて問われているのかもしれない。
(文=結木千尋)

コメント