
トランプ政権は、OECDが推進するグローバル・ミニマム課税やデジタルサービス税など、アメリカ企業に不利とみなす外国の課税制度に対し、強硬な報復措置を打ち出しました。2025年度予算調整法案「OBBB」の成立により、新たに設けられた内国歳入法第899条で、これらの税制を導入した国を「差別的外国」と定義し、源泉徴収税率の段階的引き上げなどの追加課税を可能としています。日本企業のアメリカ現地法人も影響を受ける恐れがあり、国際税務の新たな緊張が予想されます。
「アメリカ企業を差別する国」に対抗措置を明言
トランプ大統領は、アメリカ市民やアメリカ企業に対して差別的と見なされる税制を導入する国々に対し、徹底した対抗措置を講じる方針を明確にしています。日本国内では関税にばかり注目が集まっていますが、実際には税制面での報復措置がより制度的に具体化しつつあります。
2025年度の予算調整法案「One Big Beautiful Bill(OBBB)」は、共和党多数の下院で可決され、成立しました。この法案には、OECDが推進するグローバル・ミニマム課税制度の一部として導入される国際課税ルールであるUTPR(Undertaxed Payment Rule)や、欧州各国で導入されているデジタルサービス税(DST)などに対して、アメリカ企業への不当な課税であるとする姿勢が反映されています。
その中核となるのが、内国歳入法(Internal Revenue Code)に新設された第899条(Section 899)です。この条文では、UTPR、DST、さらにイギリスの「利益移転税(DPT)」を「不公正外国税(Unfair Foreign Tax)」と定義し、これらの税を導入する国を「差別的外国」とみなす内容となっています。
段階的に源泉税率を引き上げ
第899条では、差別的外国に居住する個人や法人に対し、アメリカ国内の資産から得られる利子・配当・ロイヤルティなどの支払にかかる源泉徴収税率を、現在の水準から毎年5%ずつ引き上げ、最大で20%まで増加させる措置が導入されました。 特筆すべきは、アメリカと租税条約を締結している国に対しても、条約による軽減措置にかかわらず同様の税率引き上げが適用される点です。これにより、日本をはじめ、グローバル課税やデジタル課税を導入している国々は、直接的にアメリカの報復課税の対象となる可能性があります。
外国人オーナー企業への追加課税も強化
さらに、新法では、外国人が50%以上の株式を保有するアメリカ法人に対して、従来のBEAT(Base Erosion and Anti-Abuse Tax)に加え、追加的な課税措置を設ける内容も盛り込まれています。 このため、トヨタ、パナソニック、日本製鉄といった日本企業のアメリカ子会社も対象となり得ます。これらの企業は今後、税務面での戦略を見直す必要に迫られる可能性があります。
今回の税制改正は、要するに「アメリカ人、アメリカ企業、アメリカ国内の投資に対しては、外国政府は課税を控えよ。そうでなければ報復課税を受ける」という明確なメッセージにほかなりません。 トランプ大統領の政策は、「アメリカ人の雇用と投資を守るためには、あらゆる手段を用いる」という考え方に基づいています。この姿勢は、課税問題においても変わることはないようです。
アメリカの信託制度を活用する動きも
こうしたなか、外国人や外国法人が、自国の課税当局からの影響を回避するためにアメリカに信託を設け、そこに資産を移して運用するという動きが注目されています。 アメリカの信託は、税法上「アメリカ人」として扱われるため、今回の第899条の対象とはならないと見なされる可能性があります。今後、こうした信託制度の活用が進むかどうかも、国際税務上の注目点となりそうです。
税理士法人奥村会計事務所 代表
奥村眞吾

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