
「世帯年収の平均は536万円」と聞くと、日本人の多くが「自分は平均以下なのか」と感じるかもしれません。しかし、実際には一人暮らし世帯の急増や高齢者世帯の拡大、そして所得格差の広がりなど、家族とお金をめぐる日本社会の実態は、平均値だけでは見えてこない複雑な現実を抱えています。
単独世帯、40年で倍増し35%に。主流になった「おひとりさま」
日本の家族のかたちは、いま大きな転機を迎えています。厚生労働省が2024年6月に公表した『国民生活基礎調査』によると、全国の世帯数は5,482万5千世帯となり、そのうち約1,900万世帯(34.6%)が単独世帯でした。調査開始年の1986年には18.2%にとどまっていたことを考えると、約40年でほぼ倍増したことになります。かつては少数派だった「ひとり暮らし」が、今や社会の主流となっています。
一方で、「夫婦のみ」や「夫婦と未婚の子」といった核家族世帯は減少傾向にあります。そのなかで存在感を高めているのが、「高齢者世帯」です。調査では、全世帯の31.4%を占めており、家族構成の多様化とともに、日本が高齢社会に深く入り込んでいる実態を映し出しています。
特に注目されるのが、65歳以上の高齢者が含まれる世帯が全体の50.3%を占めているという点です。つまり、2世帯に1世帯は高齢者を含んでいる計算になります。なかでも最も多いのは「単独世帯」(32.7%)で、次いで「夫婦のみ」(31.8%)、「親と未婚の子」(20.4%)が続いています。こうしたデータからは、高齢化が進むなかで、「個」として老いを迎える人が増えていることが読み取れます。
さらに、単独高齢者世帯では、女性が64.0%と高い比率を占めており、さらに85歳以上の女性が25.6%で最多となっています。これは、女性のほうが男性よりも平均寿命が長く、配偶者に先立たれる可能性が高いことが主な要因と考えられます。こうした高齢単身女性の増加は、年金制度や医療・介護、終末期の生活支援の在り方と密接に関係する重要な社会課題です。
また、「親と未婚の子のみの世帯」の増加も、現代社会の変化を象徴する現象です。晩婚化や未婚率の上昇、非正規雇用の拡大といった背景から、成人後も実家を出られない、あるいは出ない選択をする人が増えています。こうした世帯の拡大は、住宅政策や都市計画、福祉施策において新たな視点を求める要因となっています。
平均所得536万円の裏側。中央値との乖離が示す「見えない分断」
家族構成の変化に加え、所得面でも社会の分断が浮き彫りになっています。2023年の1世帯あたりの平均所得は536万円となり、前年比で2.3%増加しました。一見すると景気回復の兆しのようにも映りますが、実情はそう単純ではありません。
注目すべきは所得の中央値。410万円にとどまり、全世帯の62%がこの水準以下で生活しています。つまり、平均値を引き上げているのは一部の高所得層であり、多くの世帯は依然として厳しい家計状況に置かれているということになります。
年齢別にみていくと、最も平均所得が高いのは「50~59歳」の世帯主を持つ世帯で、約750万円となっています。次いで「40~49歳」(740万円)、「60~69歳」(約612万円)と続きます。一方で、「29歳以下」の世帯は336万4千円、「70歳以上」では239万3千円と、若年層と高齢層の低所得化が顕著です。特に若年層では、キャリア初期の賃金水準の低さや、非正規雇用の多さが影響していると考えられます。
また、収入の内訳にも大きな違いがあります。高齢者世帯では所得の63.5%が公的年金や恩給によるものであり、稼働所得は25.3%に過ぎません。これに対し、全世帯平均では稼働所得が72.9%、公的年金は21.0%となっており、高齢世帯が年金への依存度が高いことが明らかです。今後の物価上昇や医療費の増加に対する耐性が弱いという課題も浮かび上がります。
一方で、児童のいる世帯の平均所得は820万5千円と最も高くなっています。共働き世帯の増加が背景にあると考えられます。実際、児童のいる家庭で「母親が就業している」割合は80.9%と過去最高を記録。正規雇用が34.1%、非正規雇用が36.7%を占めており、育児と就労の両立を支える制度が徐々に整い、その成果が出始めていると考えられます。
しかし、雇用の質という観点では依然として課題が残っています。特に女性の就業は非正規に偏る傾向が強く、生活の安定性や将来的な所得格差を考慮すれば、さらなる改善が求められるでしょう。
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