(白石 拓:作家・サイエンスライター)

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1600回超の有感地震、周辺のプレート構造は?

 トカラ列島が揺れに揺れています。トカラ列島近海はもともと地震が多い領域で、群発地震も過去に何度も発生しています。しかし、今回の群発地震は「群」を抜いて回数が多く、住民たちは毎日眠れない夜を過ごしておられることでしょう。

 群発地震とは「どれが本震かという区別ができず、同じような大きさの地震が狭い地域で、ある期間に集中して発生する現象」をいいます。今回の群発地震は6月21日から始まり、7月7日17時までに、震度1以上の有感地震の数は1607回に達しました。

 群発地震は比較的小さな揺れが続くのが一般的ですが、時折マグニチュード5(以下、M5と表記)から6クラスの中地震が起こる場合もあります。今回のトカラ列島でも、7月3日にM5.5、最大震度6弱の非常に強い揺れの地震が十島村(としまむら)の悪石島(あくせきじま)で発生しました。

 地震の規模を表すマグニチュードの値に比べて、最大震度が大きかったのは、震源が近くて、しかも浅かったことが理由です。このときの震源の深さは約20kmでした。そしてその後も、M5を超える地震が頻発しています。

 鹿児島県の本土から沖縄、そしてその先まで、大小さまざまな多数の島が弧をなして連なっています。このような地形を島弧(とうこ)といい、海洋プレートと大陸プレート(以下、プレートをPと表記)の沈み込み帯に沿って、火山活動によって形成されました。南西諸島の島弧を琉球弧といいます。

 日本列島には、海洋Pである太平洋Pとフィリピン海P、大陸Pである北米PとユーラシアPの4枚のプレートが集まっています。このうち、南西諸島を生み出したプレート境界はフィリピン海PがユーラシアPの下に沈み込んでいるところで、南西諸島はユーラシアPに乗っています。このプレート境界は南海トラフとつながっており、九州本土以南の部分を琉球海溝(または南西諸島海溝)と呼びます。

 つまり、南海トラフと南西諸島海溝はひと続きなのですが、「トラフ」と「海溝」と呼び方が異なっています。これは、沈み込み帯にできた溝の深さの違いで区別されているもので、「水深がおよそ6000m以上の深い溝を海溝と呼び、それより水深が浅い溝をトラフと呼んでいます」(連載第1回「南海トラフ地震を正しく知る①」参照)。また、このことはプレートの沈み込み方が場所によって異なることを示しています。

大地震を起こす力がたまる前に起こる小地震

 ところで、トカラ列島がどこにあるのか、図表3に南西諸島の区分けを紹介しました。九州本土以南の島弧を総じて南西諸島(図中の赤線で囲んだ部分)と呼びますが、かなり範囲が広いので、いくつかに区分されて名称が付けられています。

 トカラ列島は大隅(おおすみ)諸島と奄美(あまみ)群島にはさまれた位置にあり、この3つを合わせて薩南諸島といい、鹿児島県に属します。そのうち、トカラ列島には悪石島を含め7つの有人島(無人島は5つ)があり、すべて十島村に属し、合計で668人(2025年6月30日現在)が暮らしています。

 トカラ列島より南にある沖縄諸島と先島(さきしま)諸島(尖閣諸島、宮古列島、八重山列島を合わせた呼び名)と大東諸島沖縄県に属します。

 南西諸島のような島弧は、プレート運動によってプレート境界で形成された地形なので、地震が多くて当然といえます。日本列島近海には千島列島や伊豆・小笠原弧などの島弧もあり、どちらも地震が頻発していますし、巨大地震も発生しています。

 では、トカラ列島の群発地震はどのような原因で起きているのでしょうか。地震学者たちはトカラ列島付近のでこぼこな海底地形や地殻構造の複雑さ、フィリピン海Pの沈み込みに由来するマグマやガスの影響など、さまざまな仮説を考えています。しかし、何せ深い海の底あるいは地中のことなので、メカニズムを特定することはなかなかできません。

 しかし、そもそも論をいえば、ほとんどの地震が起こる根本原因はプレートどうしが衝突する際の力です。その応力がプレートから離れた活断層の岩盤を破壊し、断層がずれることで生じているのが今回の地震です。このような地震を「内陸地震」または「活断層地震」といいます。

 トカラ列島周辺には活断層が多数あることがわかっています。これらの断層のうちどれか1つまたは複数が、大規模に一気にずれれば大地震が起こります。しかし、大きな力がたまる前に、活断層の一部が小規模にあちこちでずれることが繰り返されると、小地震が数多く発生することになります。ちびちび力が解放される、これが群発地震の正体です。

 地震はおおまかには内陸地震と海溝型地震に分かれます。海溝型では、2011年に発生した東日本大震災東北地方太平洋沖地震)のように巨大地震(M9.0)が起こることがあります。

 それに比べると内陸地震は小さな規模の場合が多いですが、1995年阪神・淡路大震災兵庫県南部地震)はM7.3で甚大な被害をもたらしましたし、それ以後も数々の大災害を引き起こしてきました。トカラ列島悪石島と小宝島(こだからじま)では、7月4日から島外避難を開始しました。

 トカラ列島の群発地震について、巷(ちまた)で「トカラの法則」という言葉がささやかれています。これは、トカラ列島で群発地震が起こると、本土で大地震が起こるというものです。それには科学的根拠があるのか。「トカラの法則」が唱えられた背景と真実性について、次回取り上げます。

(編集協力:春燈社 小西眞由美)

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トカラ列島の悪石島 写真/共同通信社