●出家するつもりで寺の門をくぐろうとすると…
テレビ画面を注視していたかどうかが分かる視聴データを独自に取得・分析するREVISIOでは、6日に放送されたNHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(総合 毎週日曜20:00~ ほか)の第26話「三人の女」の視聴分析をまとめた。

○「俺ゃ、おていさんのことつまんねえって思ったことねえですぜ」

最も注目されたのは20時38~40分で、注目度77.9%。蔦重(横浜流星)とてい(橋本愛)が結ばれるシーンだ。

「おていさん!」蔦重のもとを離れ、出家をするつもりのていが寺の門をくぐろうとすると、後ろから蔦重の大きな声が響いた。蔦重は息を切らしながら、寝床を変えるから戻ってほしいとていを引き止める。蔦重はていが同じ部屋で寝ることを不服に思い出ていったと考えているのだ。

しかし、その考えはまったくの的外れだった。ていが耕書堂を去ったのは、自分が江戸一の目利きと評される蔦重の妻にはふさわしくないと考えたからである。喜多川歌麿(染谷将太)たち絵師のような才能もなく、蔦重の母・つよ(高岡早紀)のような客の懐に入り込む術も持たないつまらない自分は、耕書堂の女将にふさわしくないとていは思いつめていたのだ。

女将には華やかで才に長けた吉原一の花魁のような方がふさわしいと言って蔦重に背を向けるてい。しかしそんなていに、蔦重は「俺ゃ、おていさんのことつまんねえって思ったことねえですぜ」と優しく微笑んだ。蔦重はていの好きなところをいくつも挙げたあとで、「おていさんは、俺が俺のためだけに目利きした俺のたったひとりの女房でさ」と言って、ていに向かって手を伸ばした。蔦重の心からの言葉に、ていの決意は揺らいだ。そして、ていは蔦重の手を握り返し耕書堂に戻った。その日の夜、2人はついに結ばれ、本当の夫婦となったのであった。

○「やっと分かりあえてほっとした」

注目された理由は、仮面夫婦だった蔦重とていが、本当の夫婦となるいきさつに視聴者の注目が集まったと考えられる。

冷夏と浅間山の噴火により米価が高騰し、食に困窮した蔦重の実母・つよが日本橋の耕書堂に押しかけたことで、ていは自室をつよに譲り、蔦重とていは寝床を共にすることになる。そして耕書堂の実力を目の当たりにして、自分が耕書堂の主である蔦重の妻として劣等感を抱き出家を決意した。ていは帳簿を付けることができ、細かな目配り気配りもできるので商家の女将としてのスキルを十分に持ち合わせているが、どうも自己評価が低いようだ。

SNSでは「蔦重からていさんへ改めてのプロポーズ、とてもよかった」「ていさんの魅力を蔦重はしっかりわかっていたんだな」「女心に鈍い蔦重と奥手なていさん、やっと分かりあえてほっとした」などといった、真に結ばれた2人にコメントが集まった。

一方で、蔦重とていの関係を複雑な感情で見守る歌麿も注目されている。日本橋に来たものの何もすることがなく、米価上昇を理由に去ろうとする歌麿だが、理由は別の所にあった。昔から変わらずノンデリな蔦重は歌麿の心境を察せず、単純に遠慮していると考えて引き留めていた。SNSでは「歌麿の心の切なさを考えたら本当にしんどい」「蔦重を祝福しながら頭から布団をかぶる歌麿が健気すぎる」「蔦重とていさん夫婦が好きだけど、歌麿が不憫でならない」と、歌麿に同情する声も多く上がっている。

つよは歌麿のことを念者と勘ぐっていたが、念者とは男色関係における兄分という意味。年長で相手を寵愛する側の人を指す。若衆と呼ばれる年少の相手と対になる。江戸などの都市部では、建設業や商業で働くために地方から多くの男性が出稼ぎに来ており、女性人口よりも男性人口が圧倒的に多い男余りの状態だった。こうした背景もあり、江戸時代は今よりも男色が一般的だった。

史実でも蔦屋重三郎は若い美少年が客を取る陰間茶屋に通っていたようだ。平賀源内(安田顕)も有名な男色家だった。また今回、歌麿が描いた絵の中に「千代女」という名があったが、喜多川千代女は歌麿の門人の一人。細かな素性は不明だが、門人という説のほかに妻、もしくは歌麿の別名という説もあるが、『べらぼう』では別名説を採用したようだ。

●ピース又吉演じる宿屋飯盛が初登場
2番目に注目されたのは20時25分で、注目度75.2%。ピース・又吉直樹演じる宿屋飯盛の初登場シーンだ。

耕書堂ではていとみの吉(中川翼)が歌麿に助言を受けながら系図作りに苦心していると、蔦重が大田南畝(桐谷健太)と見慣れない男を引き連れて帰ってきた。「歌! 仕事だ、仕事!」いつもながら蔦重は騒々しい。見慣れない男は宿屋飯盛と名乗り、3人は打ち合わせのため席についた。

蔦重は正月に狂歌集を出そうと考えているという。正月にめでたいという内容の狂歌集を出すことで、本当にめでたい世にしようという考えのようだ。「俺たちゃ、米一粒作れねえこの世の役立たずじゃねえか。そんな俺たちができることってな、天に向かって言霊投げつけることだけだろ。でよ、歌だけじゃあめでたさに欠ける。ここはひとつ、絵もどんとぶつけて黄表紙仕立ての狂歌集にすんだよ」という蔦重の熱弁に、ていとみの吉は聞き入った。今から作り始めたのでは正月に間に合わないと言っていた歌麿も首を縦に振る。蔦重の行動力にみなあ然としながらも、最後には感服するのであった。
○「雰囲気が違い過ぎて一瞬分からなかった」

このシーンは、ピース・又吉直樹の初登場と、インパクトのある役名に視聴者の関心が集まったと考えられる。

米の値が下がらない現状を憂いた蔦重と南畝が思いついたのは、めでたい内容の狂歌集を正月に出して言霊で米価を下げるという方法だった。思い立った蔦重は早速、南畝とともに制作に取り掛かるが、その際に南畝が連れてきたのが又吉扮する宿屋飯盛だった。SNSでは「又吉直樹さんがべらぼうに出てた! 『何もしない散歩』で言ってたヒゲを剃った理由ってこれだったんだ」「雰囲気が違い過ぎて一瞬分からなかった」「髷姿も似合っているな」と又吉さんが話題を集めた。

宿屋飯盛は、江戸時代後期に活躍した狂歌師・戯作者・国学者で、本名は石川雅望。狂名「宿屋飯盛」は、旅籠屋を営んでいたことに由来していると言われている。 鹿都部真顔(しかつべのまがお)・銭屋金埒(ぜにやのきんらち)・頭光(つむりのひかる)とともに狂歌四天王と称されている。一時、家業に関する冤罪で江戸を追われたが後に復帰し、狂歌界を再びけん引した。国学者としては、『源氏物語』の注釈書である『源註余滴』などを記している。

ピース・又吉直樹は、吉本興業に所属する大阪府出身の45歳。お笑いタレント、俳優、芥川賞受賞作家と様々な活躍をしている。大河ドラマは2018年『西郷どん』以来2度目の出演。『西郷どん』では第十三代将軍・徳川家定を怪演し話題を呼んだ。『べらぼう』で田沼意次を演じる渡辺謙は『西郷どん』で、薩摩藩第十一代藩主であり島津氏第二十八代当主・島津斉彬を演じており、2度目の共演となった。

ちなみに、『西郷どん』では2人とも15回「殿の死」でそろって死亡により退場している。また、九郎助稲荷(綾瀬はるか)が語った通り、江戸時代は米の消費が現在よりもずっと多かった。現在の成人男性が1日に食べるご飯の目安量は、約2合(約300g)だが、江戸時代の成人男性は、1日に平均で約5合(約750g)の米を食べていたそうだ。少し糖分の摂りすぎかもしれない。

●系図と置手紙を残して耕書堂を去る
3番目に注目されたシーンは20時34分で、注目度74.9%。ていが系図と置手紙を残して耕書堂を去るシーンだ。

「おていちゃんがいないんだよ」蔦重の母・つよはそう言って、ていが置いていったという手紙と系図を蔦重に差し出した。手紙には「つたないものですが、お約束の系図、出来上がりました。皆様のご多幸と蔦屋の繁盛を心よりお祈り申し上げます」と記されていた。蔦重はていの作った系図を畳に広げてみると、そこには蔦重が長年にわたり築いてきた仕事の数々が見事に整理されていた。その精緻な出来栄えに、蔦重は言葉を失い、歌麿は息をのんだ。次の瞬間、蔦重は何かを思い出したように立ち上がり、そのまま部屋を出ていってしまった。ていの行き先に思い当たったようだ。

先ほどまでにこにことしながら系図を眺めていたつよは、無言で外へ向かおうとする息子に「ちょいと」と声をかけたが、蔦重の耳には届かなかった。
○「蔦重と店のことを考えて去ろうとするなんて…」

ここは、思い詰めた様子だったていの行動に、視聴者の関心が集まったと考えられる。

恋愛感情はなく、お互いの実利のために夫婦となった蔦重とていだが、一緒に暮らすうちにていは蔦重の持つ商才や人脈の広さに圧倒されていく。幼い頃から大店の一人娘として過ごしてきたていは、敏感に蔦重の才覚を感じ取ったのだろう。自分は蔦重にふさわしくないと思い詰め、耕書堂から姿を消してしまった。

SNSでは「蔦重と店のことを考えて去ろうとするなんて、ていさん健気すぎる」「一度、店を潰したのを経験しているから潰さないように必死なんだな」「蔦重や歌麿が見とれるほどの系図を作れるのは十分すごいよ!」と、ていの奥ゆかしさや才覚に視聴者のコメントが集まった。

ていが出て行くきっかけのひとつとなったつよだが、初回から飛ばしていた。蔦重の義母・ふじ(飯島直子)が「人たらし」だったと言うだけあって、ていを初めは「おていさん」と呼んでいたのに手紙を届けに来た際には「おていちゃん」と親しげな呼び方に変わり、距離を一気に縮めていた。蔦重が義父・駿河屋市右衛門(高橋克実)に「人の懐に入るの、恐ろしくうまくねえですか?」とぼやいてたが、多くの視聴者が「鏡を見ろ!」とツッコミたくなったのではないか。つよの人たらしのスキルは、息子にしっかりと受け継がれている。

つよは史実でも記録が残されており、江戸出身で広瀬津与という名前だった。蔦重が7歳の時に夫・丸山重助と別れて、蔦重は商家であった喜多川氏の養子となっている。その後、蔦重が日本橋に進出した際に、津与と重助は呼び寄せられ、家族として再び同居している。蔦重は津与を深く敬愛しており、1792(寛政4)年に津与が病で亡くなった際、大田南畝に碑文の執筆を依頼している。この「実母顕彰の碑文」は、蔦重の菩提寺である浅草の正法寺にあったが、震災や戦災の被害によって今はなくなっている。ドラマでは今後この母子はどのように描かれるのか大変興味深い。

つよを演じる高岡早紀は、アオイコーポレーションに所属する神奈川県出身の52歳。大河ドラマは2014年『軍師官兵衛』以来、2度目の出演となる。つよの職である髪結いは、男性と女性でその業態が大きく異なっていた。男性の髪結いは髪結床や床屋と呼ばれる店を構え庶民の身だしなみを支えていた。一方、女性の髪結いは男性とは異なり店を構えることは少なく、主に顧客の家に出向いて髪を結う出張髪結いの形が主流だった。裕福な武家の奥方、大店の女将、遊女、芸者などが主な顧客だったようだ。料金は1回あたり約200文。1両が4,000文で、1両は現在の貨幣価値で約10万円だから、髪結いの料金は約5,000円。現在とあまり変わらない。髪結いができるつよは、耕書堂の経費削減に貢献できる人材といえそうだ。

タイムリーすぎる米問題も話題に
第26話「三人の女」では、前回に引き続き1783(天明3)年の様子が描かれた。

晴れて日本橋通油町へ進出した蔦重が米不足に頭を悩ましているところに、実母・つよが耕書堂に転がり込んでくる。また、ていは耕書堂の女将としてふさわしくないと葛藤した末に耕書堂を去ろうとするが、蔦重の本心を聞き、その想いを受け入れ2人は本当の夫婦となった。一方、幕府では田沼父子が米価の高騰を抑えるべく尽力していたが、意知(宮沢氷魚)に不吉な影が忍び寄る。

注目度トップ3以外の見どころとしては、和歌山藩・第九代藩主・徳川治貞(高橋英樹)の初登場のシーンが挙げられる。渡辺謙を一喝する姿は貫禄に満ちあふれていた。徳川治貞は1728(享保13)年に、和歌山藩第六代藩主・徳川宗直の次男として生まれた。紀州藩の支藩である伊予西条藩(現在の愛媛県)の第四代藩主・松平頼邑の養子となり、松平頼淳と改名して1753(享保13)年西条藩主となる。1775(安永4)年、和歌山藩第八代藩主だった甥の徳川重倫が隠居した際、重倫の嫡男である岩千代(後の徳川治宝)がまだ幼かったため、すでに藩主としての経験が豊富だった治貞が、重倫の養子という形で和歌山藩主を継いだ。

この時、将軍徳川家治から偏諱を授かって治貞と名乗った。名君と名高い熊本藩八代藩主・細川重賢と並んで「紀州の麒麟、肥後の鳳凰」と賞され、紀麟公と呼ばれた。和歌山藩の財政を再建するため、率先して綿服と粗食を行った。冬には火鉢の数を制限するまでして、亡くなるまでに10万両もの蓄えを築いた実績から倹約殿様とも呼ばれている。紀州徳川家は、御三家の一角として将軍家を支えた家柄で、徳川家康の十男・頼宣を祖とし、和歌山城を居城としていた。家格では尾張家に次ぎ、歴代将軍の中では徳川吉宗徳川家茂の2人を輩出した。

徳川治貞を演じる高橋英樹は、千葉県出身でグレープカンパニーに所属。御年81歳だ。言わずと知れた時代劇の大御所で、大河ドラマは1968年『竜馬が行く』、1971年『春の坂道』、1973年国盗り物語』、1977年『花神』、1990年『飛ぶが如く』、2001年『北条時宗』、2005年『義経』、2008年『篤姫』、2015年『花燃ゆ』以来10度目の出演になる。『北条時宗』では毛利季光役として北条時頼役の渡辺と共演している。『篤姫』では、島津重豪(田中幸太朗)のひ孫にあたる島津斉彬を演じている。渡辺も『西郷どん』で同役を演じたので、W斉彬の共演となった。

そしてヘイトを集めつつある意知も注目を集めている。若年寄への就任も決まり、誰袖(福原遥)と距離を近めるなど、公私ともに充実している意知だが、2人の人物から恨みを持たれ始めた。意次への拝謁を切望し続ける佐野政言(矢本悠馬)と、誰袖に一方的な想いを寄せる松前廣年(ひょうろく)だ。ラスト直前で3人がすれ違うシーンは恐ろしいものがあったが、その直後には一橋治済(生田斗真)も映し出され、まさに不穏さMAXとなった。意知の運命やいかに。

また、タイムリーすぎる米問題も大きな話題となっている。価格は前年の倍、後手に回る幕府の対応、安く手に入るのはおととしの米…古古米。現在と驚くほどリンクしている。

きょう13日に放送される第27話「願わくば花の下にて春死なん」では、蔦重が大文字屋市兵衛(伊藤淳史)から誰袖の身請けが暗礁に乗り上げていることを聞かされる。一方、松前道廣(えなりかずき)は、一橋治済に蝦夷地の上知を取りやめるように願い出る。

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【お詫び】7月6日に公開した第25話放送の注目シーン分析記事において、使用したデータが別の放送回のものであったことが分かりました。当該記事はすでに削除しております。
(REVISIO)

画像提供:マイナビニュース