子育て本著者・講演家の私が聞いた、ある親子の話です。幼稚園から帰ってきた子どもを着替えさせると、ズボンから園のおもちゃのブロックが出てきました。「それ、どうしたの?」と聞くと、「先生に貸してもらった」と子どもは答えました。しかし、事実ではありませんでした。本当はブロックが欲しくて、勝手にポケットに隠し、持ち帰ってきたのです。「うちの子は泥棒と同じことをしている。将来が心配だ」と親御さんは思いました。どうして子どもはこのような「うそ」をつくのでしょうか?

子どもがうそをつく「4つの理由」

「またうそをついた」「うちの子なんて、毎日うそをついています」と話す保護者も少なくありません。素直な子に育ってほしいと願う親にとって、子どものうそはとてもショックなものです。しかし、子どもがうそをつくのには理由があります。

【願望が事実と混ざってしまう(妄想型)】

私は保育園で仕事をしているのですが、ある日、一人の子が「昨日、ママとパパとディズニーランドに行ったんだ」と話しました(これは事実でした)。すると、昨日ディズニーランドに行っていないはずの子たちが、「昨日、私も行った!」「僕も昨日行った!」と次々に言い出しました。

これはうそをついているわけではなく、「自分も行きたかった」「自分も過去に行ったことがある」という願望や記憶が入り交じり、あたかも現実のように思って口にしてしまっているだけなのです。

だから、「うそをつくんじゃない!」と叱ることはありません。むしろ、「行きたかったんだね」「楽しかった記憶があるんだね」と思ってあげましょう。

【注目を集めたい・かまってほしい(かまって型)】

注目されたい一心で、わざとらしいうそをつく子もいます。

例えば、「僕は昨日、アメリカのディズニーランドに行ってきたんだ!」と、明らかにあり得ない話をする子がいます。これは「すごいね」「いいなあ」と言ってもらえることを期待しての発言です。

このタイプの子は、注目を浴びたくて「かまってさん」になっています。こうした子に対しても、「うそをつくんじゃない!」と真っ向から叱るのは逆効果です。真剣に答えたり、大げさに反応したりすると、「うそをつけばかまってもらえる」と誤学習してしまいます。

ではどうするかというと、完全に無視するのではなく「ふうん、そうなんだ」と軽くあしらいましょう。このくらいがちょうどいいのです。すると、「大げさに言っても注目されない」と気付き、見え透いたうそは自然と減っていくのではないでしょうか。

【怒られたくない・失敗を隠したい(自己防衛型)】

叱られるのが怖くて、とっさにうそをついてしまう子もいます。

先述のブロックの例もそうです。「自分が欲しくて思わずポケットに入れてしまった。でも叱られたくないから『先生が貸してくれた』とうそをついた」のです。

また、例えばジュースをこぼしたときに、「最初からこぼれてた」「弟がやった」と事実でないことを言って、自分のミスを隠そうとすることもあります。

これは、以前に叱られた経験から、「また怒られるかも」と防衛本能が働いているのです。責められたくない、嫌われたくないという気持ちが、「うそ」という形で表れているだけです。

こうしたときは、「誰がやったの!」と追い詰めるのではなく、「あら、ジュースがこぼれているね。自分で拭いておいてね」と冷静かつ淡々と伝えるのが効果的です。自分の行動に責任を取らせつつ、過度に叱らないことで、正直に話せる環境が整っていきます。

【うその裏にある心の叫び(SOS型)】

一見、うそをついているように見える行動の裏に、子どもの“心の叫び”が潜んでいることもあります。

例えば、保育園で友達の靴を隠した後、「ここにあったよ」と、さも自分が見つけてあげたかのように振る舞うのです。これは、「褒めてもらいたい」「注目されたい」「かまってほしい」というメッセージである場合です。

赤ちゃんが生まれて、親の関心が下の子に集中しているときや、日頃あまり褒められていない子がこうした行動を取りやすいといえます。

「なぜうそをついたのか?」を問い詰めるより…

 大人はつい、目に見える「悪い行動」に反応してしまいますが、実はその裏にある「寂しさ」「見てほしい」という子どもの気持ちを受け止めることが大切です。そして、よい行動や、当たり前にできていることを見逃さず、「ありがとう」「助かったよ」とポジティブな注目を与えていくことが、最も有効な“しつけ”になります。

「狼少年」の寓話をご存じでしょうか。羊飼いの少年が、うそをつき続けたために、最後には誰にも信じてもらえず、本当に困ったときに助けてもらえなかった――という話です。

 これは「うそをつき続けると信頼を失う」という教訓の物語ですが、見方を変えると、その少年はいつも孤独で、誰かにかまってほしかったのかもしれません。もし、周囲の大人がもっと彼に関心を寄せていれば、そんなうそをつく必要はなかったかもしれません。

 子どものうそは、大人のうそとは少し違います。それは未熟な心の発達過程であり、時に願望や不安、寂しさの表れでもあります。

「なぜうそをついたのか?」を問い詰めるより、「この子は今、どんな気持ちでうそをついたんだろう?」と、背景に目を向けるとよいと思います。

子育て本著者・講演家 立石美津子

子どもの「うそ」、実はむやみに叱るべきではない?