俳優の横浜流星が主演を務める大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)。13日放送の第27回「願わくば花の下にて春死なん」では、佐野政言(矢本悠馬)と田沼意次(渡辺謙)の息子・田沼意知(宮沢氷魚)のやりとりが深く描かれ、佐野が意知を斬りつけようとする展開で幕を閉じた。この回の演出を担当した大嶋慧介氏に制作の裏側を聞いた。

江戸時代中期の吉原を舞台に、東洲斎写楽、喜多川歌麿らを世に送り出し、江戸のメディア王にまで成り上がった“蔦重”こと蔦屋重三郎(横浜流星)の波乱万丈の生涯を描く本作。脚本は、『おんな城主 直虎(17)以来、8年ぶり2度目の大河ドラマとなる森下佳子氏が手掛けている。

第27回の前半では、意知は親身になって佐野に寄り添い、佐野は感謝していたが、意知に関する悪い噂を耳にしたり、吹き込まれたりして、次第に意知を恨むように。そして、意知への殺意が芽生え、ついに刀を抜いて斬りかかろうとする悲劇の始まりが描かれた。

大嶋氏は、意知を信頼していたところから斬りかかるに至るまでの佐野の変化を同じ回で描くことが「第27回の中で一番難しかった点」だと打ち明ける。

「あの瞬間、佐野はなぜ刀を抜いたのかというのが一番大きな難問で、矢本さんとお芝居の積み上げ方をかなり相談しました。ただの人殺しに見えたくなかったですし、これがあったからだ原因と結果をとわかりやすくもしたくなかったんです。見終えた後になんでだろうと少し残るように、あくまで1人の人間がそうしてしまったんだなと見えるように心がけました」

意知役の宮沢とも密に話し合いを行った。

「このときの意知はどういう気持ちなのか、佐野にお役を与えるときはどれぐらいの申し訳なさなんだろうとか、そこの匙加減を。官僚として優秀な部分と人としての部分のバランスがどちらかに偏っているキャラではないと思っていて、宮沢さんが今まで作り上げてきた意知像に加え、意知の人間らしい面も見せたいと意識しました。誰袖(福原遥)に対してとか、父上に対してとか、こういう一面があったんだと」

佐野の心の変化は、「1点というより、積み上がっていくように見せたい」と考えたという。

「騙されているけれど、吹き込まれていることは本当のこともある。系図をダメにしたり、吉原に通っていたりというのも本当で全くの嘘ではない。佐野の中に妬みもあって、いろんなものが積み上がった時に刀を抜くところまでいったのかなという風に見えるように。層が重なってそこに届くようなイメージで演出しました」

意知のことを信じたい気持ちもあり、揺れ動く佐野の心。大嶋氏は「世間の評判や周りの声を聞く中で、信じたい、でも陥れられたのかもしれない、という揺れが出るといいなと思いました」と語った。

今回、いろいろなシーンで桜が象徴的に登場したが、すべて森下氏が脚本に書き入れていたそうで、「桜とその中で起こる悲劇。桜がなるたけ佐野の心情と連動するように心がけました。佐野親子が桜の花を咲かせようとしている話でもあるので、佐野の心情に寄り添った桜をその都度うまく表現できたらいいなと。咲いている桜に自分は絶対届かないというところまで持っていくために、枯れた桜をかなりしつこく撮りました」と桜の重要性を語っていた。

(C)NHK
(酒井青子)

画像提供:マイナビニュース