
「呪術廻戦」TVシリーズ第一期(2020-2021年度)、劇場版「呪術廻戦0」(2021年)をはじめ、数々の話題作を手掛けている朴性厚(パク・ソンフ)監督による完全オリジナルアニメーション「BULLET/BULLET」(バレットバレット)が、7月16日(水)よりディズニープラスのスターで配信。同配信版を再構築した「前編・弾丸疾走編」が7月25日(金)より、「後編・弾丸決戦編」が 8月15日(金)より劇場でも全国公開される。このほど、同作の監督と原案を務めている朴監督にインタビューを実施。制作秘話やアニメーションとの出会い、今後作ってみたい作品などについて語ってもらった。
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■舞台は文明が崩壊して荒野となった“近未来”
同作は、不当に奪われた品を取り返す“盗み屋”でもあるジャンク屋の少年・ギア(CV:井上麻里奈)が主人公。文明が崩壊して荒野となった近未来を舞台に、あることを機に世界を揺るがす秘密を知ったギアと仲間たちが共に世界を変える戦いに挑む姿を描く。
――今作は構想10年ということですが、どんなことをきっかけにアイデアが生まれたんですか?
実際は10年以上前になるんですけど、あるときにデモをやっている光景を見ていて、何であんなことをやっているのかなと。目的が分からなかったから疑問に思っていたんです。ただ、話を聞いてみると、世の中に対しての不満や不公平感など、自分が思っていることをしっかりと表に出せているんですよね。
それは、とても健全なことなのかもしれないなと思い、そういう衝動や行動をベースに何か作りたいと思ったのがきっかけです。
――形にするまでには長い時間が必要だったんですね?
自分の中にずっと一つのテーマとしてあって、それを世に出すためにはどういう形で作ればいいのか。シリアスな感じで表現しても、伝えたいことやメッセージが見ている人にはなかなか届かないかもしれないと思ったときに、“B級ギャグ”っぽさを織り交ぜたらエンターテインメントとして楽しみながら幅広い層に分かりやすくメッセージが伝わるんじゃないかなと思いました。
できればもっと早く作りたかったですけど、結果的に10年ぐらい掛かってしまったという感じです。
――主人公のギアは15歳ですが、キャラクター設定で意識した点はありますか?
15歳という年齢はいろいろ好奇心を持っているだろうし、自分が思ったことを恐れずにはっきり言えるような気がしました。だからこそ、ギアの周りにはいつでも味方になってくれる家族のような存在が必要。それで、個性豊かな“大人”たちと行動することにして、ギアが自分の思いを表現しやすい環境を作りました。
――確かにギアの周りには個性的なキャラクターが多いですね。
どこか凸凹感がある設定が好きで、主人公が人間なら周りにいるのは動物がいいよねとか、人間と動物のそばにロボットがいたら面白いかもと、アイデアはどんどん膨らんでいきました。
――4つの人格を持ったロボット「Qu-0213」は、人格ごとに違う声優さんが演じていて面白い試みですね。
みんなから「こんなに豪華な声優さんを起用していいの?」って言われるんですけど(笑)。お姉ちゃん的存在を含め、いろいろな人格があって優しく見守る家族のような感じがギアを取り巻くキャラクターというイメージにぴったり。
全部違う声優さんに演じてもらうことによる絶妙なバランス感を楽しんでもらえたらうれしいです。
――キャスティングと言えば、ギアと行動を共にするシロクマ役の山路和弘さんは、かなり前の忘年会でオファーされたとか?
もう、シロクマは山路さんしかいないと思いました。山路さんには「シロクマでごめんなさい」と謝ったんですけど(笑)、「シロクマでも何でもやります」と仰ってくださって。
アフレコの現場で思ったのは、カッコいい役を演じているときよりも楽しそうだなと。当たり前ですけどめちゃくちゃ上手でしたし、山路さんのシロクマは大好きなキャラクターです。
――声の芝居で演者さんたちにリクエストしたことはありますか?
「こういうふうに演じてください」とお願いしたことはほとんどなかったような気がします。今回のポイントは“チーム感”。劇中でギアも「チーム」という言葉を大事にしていますけど、制作過程においてもそれが必要だなと。シナリオ、構成、キャラ作りetc…、オリジナル作品ということもあり、みんなで意見やアイデアを出しながら作っていきました。
――アクションやカーチェイスのシーンは迫力満点ですね。
子どもの頃から車が好きだったので、いつかカーチェイスをやってみたいと思っていました。実際にスタントマンが運転する実写ものと違って、アニメは車が回転した後の表現なども全部想像したり、いろいろな動画を参考にするしかなかったんです。
それはとても難しい作業なので「頭文字D First Stage」(1998年)で監督を務められた三沢伸さん(カーアクションディレクター)にお願いをして迫力あるシーンを作っていただきました。三沢さんもノリノリで参加してくださって、ほぼお任せ状態。とてもテンポがあってスピード感のあるカーチェイスが展開されていると思います。
■「リン・ミンメイというキャラクターに引かれました」
――疾走感という意味では、ちゃんみなさんが歌う主題歌「WORK HARD」も作品の世界観にぴったりですね?
アニメの曲ということを意識せずに、ちゃんみなさんが作品を見て感じたことをそのまま表現してもらえたらと思っていました。結果的にとてもすてきで、今までのアニメにはないようなオープニング曲になりました。
――ちなみに、朴監督が最初に触れたアニメはどんな作品だったんですか?
僕は「超時空要塞マクロス」(1982-1983年) が大好きで、リン・ミンメイというキャラクターに引かれました。実写だったら演じている俳優さんに会えますけど、リン・ミンメイはアニメだから直接会うことはできない。そのファンタジー感にどハマりしたんです。
自分の中で妄想を膨らませてそれを楽しむのがアニメの良さ。中学2年生の頃から、将来はアニメの監督になりたいと言っていました。
――ものづくりをする上で大切にしていることはありますか?
誰と作るのかということが結構大事だなと。スタッフ、キャストも含めて人と人とのつながりの中で作っていく。やっぱり、自分たちが楽しんでいないと、そういう感じが見ている人に伝わってしまうんですよね。ちゃんとコミュニケーションが取れるのか。お互いに人間として尊敬できるのか。その関係性が作品にも表れるような気がします。
■「呪術廻戦」の反響に驚き
――今回もそうですが、今や世界に配信されることが当たり前の時代。そんな中で、いろいろな国の人たちが楽しめる共通のテーマは何だと思いますか?
もちろん国によって文化は違うと思うんですけど、やっぱりギャグはどこでも通じるんじゃないかなと。特にB級ギャグが(笑)。「BULLET/BULLET」は自分でも楽しく作れたので、皆さんにも楽しんでいただけたらいいなと思っています。
――朴監督は「呪術廻戦」(TV1期&劇場版)も手掛けていますが、やはり反響は大きかったですか?
正直なところ、こんなに反響があるとは思っていませんでした。原作の漫画は大人気ですけど、あんなにいろいろな国で見てもらえるとは想像していなかったです。これでいいのかなっていう不安な部分もあったのでびっくりしていますね。
――今後、どんなアニメを作ってみたいですか?
やっぱり、B級ギャグ満載の楽しい作品も作りたいし、スポーツものやアクションものにも興味があります。僕は男子校だったので、日本の漫画「BOYS BE…」の世界観に憧れていて。
桜の木の下で告白をするとか、男女共学だとこんな恋愛があるのかって、もうファンタジーなんです。だから、そういう恋愛ものにも挑戦したい。何でもやりますから、お仕事ください!(笑)
◆取材・文=小池貴之

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