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 楽楽シリーズなどのSaaSサービスを展開するラクスは、2025年7月10日、AI戦略に関する発表会を開催。あらゆるサービスでAI機能を提供しつつ、社内活用も推進するという“全方位”でのAI戦略を示した。

 あわせて、同日から提供開始した「メールディーラー」のAIエージェント機能や、「楽楽販売」や「楽楽明細」におけるAI機能の実装計画についても披露している。

 ラクスの取締役である本松慎一郎氏は、「上場企業として、AI活用を業績の向上に結びつける必要がある。社内活用は利益創出に、AI機能は売上に寄与させていく。『やらなければならないからやる』のではなく、『自社の成長につながる』という理解のもとで、AI活用を推進する」と強調した。

国内最大級のSaaS企業として進める“全方位”のAI活用

 ラクスのAI開発は、2017年3月より始まっている。「楽楽精算」にて、交通費精算の入力予測を導入。2023年10月には同じく楽楽精算でAI-OCR機能を、2024年10月には「メールディーラー」に生成AIによるクレーム検知機能を実装した。そして、2025年からは、本格的に開発リソースを投入し、AI機能の実装を加速させていく方針だ。

 本松氏は、「顧客の生成AIに対する期待が非常に高まっている。ラクスはSaaS企業として成長してきたが、AIへの対応を誤れば、同じような成長ができないかもしれない。我々を含めて、AI活用が企業の競争力と収益構造を左右する」と語る。

 ラクスのAI活用は、特定の領域に絞らず、社内外含めて「全方位」で進める方針だ。各サービスにAI機能を搭載するだけではなく、社内においてもAI活用を推進。顧客と社員の生産性向上を図る。

 社内では、「収集・分析・要約」「コンテンツ作成」「アイディア創出・企画立案」「業務自動化」の4つのユースケースを整理して、それぞれの領域でAI活用を浸透させている。既に、社内アンケートでの利用率は「97.9%」に達成しており、「仕事においてAI利用が前提になっている」(本松氏)状態だという。

 サービスへのAI実装は、各サービスで同時並行的に進めていく。「ラクスのSaaS事業者としての強みは、豊富なリソースだ。走り出しは小回りがきくスタートアップ企業が有利だが、中期的にはリソースをつぎ込める事業者が差異を生み出せる。加えて、これまで培ってきた業務改善のノウハウも、AI機能の提供において強みになる」と本松氏。

 2025年に入ってからは、6月にメール配信システム「配配メール」で「AIヘルプ機能」を提供開始。これは24時間365日、問い合わせ対応をするチャット型AIで、「あいまいな表現にも対応して、知りたいことまでラクにたどり着ける」のが特徴だという。サービス開始から2~3週間経ったが、既にユーザーの自己解決率は向上しており、問い合わせ発生数を20%削減できる見込みだという。

 2025年度内には、経費精算システム「楽楽精算」において、AIエージェント機能を提供することも、既に発表している。第1弾として、領収書をアップロードするだけで、過去の経費や精算履歴、運用ルールをもとに、経費精算の伝票を記載してくれるエージェントを実装予定だ。

メールディーラーでは「メール作成」「マニュアル確認」をなくすエージェント

 メール共有管理システム「メールディーラー」でも、2つのAIエージェント機能を展開していく。

 2025年7月10日から提供を開始したのが、「メール作成エージェント」だ。メールでの問い合わせに対して、回答内容の要点を指定するだけで、AIエージェントが適切なメール文面案を生成してくれる。日本の商習慣にあった返信文が生成され、メール作成時間を短縮できる。

 加えて、2025年10月に提供予定なのが、「回答自動生成エージェント」だ。こちらは回答の要点を補足する必要なく、ナレッジデータに蓄積されたマニュアルやFAQ、過去の対応履歴をもとに、最適な回答を自動生成される。

 同エージェントで、メール作成だけではなく、前工程となるマニュアルなどの確認作業も短縮でき、問い合わせ対応業務を半分に改善できる見込みだという。

 新規の問い合わせパターンを自己学習する「自動学習エージェント」や、ウェブ上のQA対応を自動化する「顧客対応エージェント」も開発中であり、2026年度に提供される予定だ。

楽楽シリーズへのエージェント実装は?

 楽楽精算以外の楽楽シリーズでも、AIエージェント機能を順次、投入予定である。

 販売管理システムである「楽楽販売」では、2025年に「データベース(DB)構成提案AI」を、2026年には「システム要件化アシストAI」を、2027年には「要件自動設定AIエージェント」を提供予定だ。同サービスは、企業の販売管理業務にあわせてノーコードでシステムを構築できるのが特徴だが、これまでラクスが支援してきた業務フローのシステムへの反映を、AI機能でも支援する。

 まず第一弾として、業務フローを理解してDB構成を提案する機能を提供。その後、システム要件の設計や環境構築まで対応していく計画だ。「上流設計をステップバイステップで、AIエージェント化することを目指していく」(本松氏)

 電子請求書発行システムである「楽楽明細」では、請求データの加工を不要にする「AI-OCRでのPDF読み取り」機能を2025年度に実装。2026年度以降には、請求書発行時の「メール文の自動作成」機能を提供する。

 2025年7月にリリースされたばかりの「楽楽債権管理」では、請求と入金データを「AI照合して自動消込」する機能や、督促メールを自動作成・送付する「督促AIエージェント」を、2026年度以降に提供予定とした。

 本松氏は、「AIは、ラクスが価値提供できなくなるぐらい進化する可能性のある、リスクをはらんだ技術でもある。しかし、この変化をポジティブに捉えて、より価値のあるものを顧客に届けていきたい」と締めくくった。

楽楽販売・楽楽明細にもAI機能を投入 ラクスが“全方位”で進めるAI活用