
一般社団法人フィリピン・アセットコンサルティングのエグゼクティブディレクターの家村均氏がフィリピンの現況を解説するフィリピンレポート。今回は、内需に支えられ好調を維持するフィリピンの製造業の動向と、安定成長が見込まれる銀行融資の現状について解説していきます。
好調な製造業、内需が牽引
2025年5月の製造業生産量指数(VoPI)は前年同月比4.9%増と、2ヵ月連続のプラス成長を達成し、過去10ヵ月で最も高い伸びを記録しました。この数値は前年同月(4.2%増)および前月(4.3%増)を上回るものです。特に、製造業全体の約19%を占める食料品が15.7%増と全体を力強く牽引し、次いで輸送機器も13.5%増と好調でした。
この結果、2025年1〜5月の平均成長率は1.8%となり、前年同期の1.7%をわずかに上回りました。工場の稼働状況を示す平均設備稼働率も76.9%へと上昇し、前月(76.7%)および前年同月(75.2%)から改善しています。
輸出には外部環境の不透明さが残るものの、堅調な家計消費が国内の製造業を下支えしています。実際に、5月の貿易収支は、輸出が5ヵ月連続で増加(前年同月比15.1%増)した一方、輸入は4.4%減少しました。これにより貿易赤字は32.9億ドルと3ヵ月ぶりの低水準に縮小しています。
一方で、今後の見通しにはいくつかの懸念材料が存在します。米国のトランプ大統領が計画する関税は、フィリピンの輸出や工業生産に影響を及ぼす可能性があります。もっとも、フィリピンは近隣諸国より関税水準が低いため、相対的に有利な立場にあり、米国との通商交渉の進展次第では、さらなる需要拡大も期待できます。
しかし、関税発動の判断が先送りされている状況は、世界貿易の先行き不透明感を強め、企業の投資意欲を減退させています。これは中長期的な生産の伸び悩みにつながる懸念材料です。こうした状況を反映し、景気の先行指標であるS&Pグローバルの製造業購買担当者景気指数(PMI)は、5月に50.1へと低下(4月は54.3)しており、今後の製造活動がやや鈍化する兆候もみられます。
銀行融資は安定成長の見通し
S&Pグローバル・レーティングは、フィリピンの銀行融資が今後2年間で年11〜13%成長すると予測しています。その背景には、フィリピン経済が輸出への依存度が低く世界的な関税変動への耐性を持ち、消費者ローンが順調に増加していることがあります。この安定した事業環境を追い風に、ローンの伸びはその後さらに加速し、約18%に達するとの見方も示されています。
フィリピン中央銀行のデータでも、5月の商業銀行の貸出残高は前年比11.3%増の13.37兆ペソと、4月の11.2%増から加速しました。特に、利回りが高く収益貢献の大きいクレジットカードやパーソナルローンといった無担保消費者ローンの急成長が見込まれます。企業向け融資は安定化する見通しで、インフレや借入れコストが低下するなか、銀行資産の健全性は今後2年間維持されると予測されています。
ただし、無担保ローン比率の上昇は、不良債権の増加につながる可能性があります。実際に、4月の不良債権比率は3.39%と前月からわずかに上昇し、無担保ローンの延滞率も上昇傾向にあります。
また、S&Pは銀行セクターのリスクとして、不動産セクターへの大きなエクスポージャー(投融資)を指摘。オフィスやコンドミニアムの空室率上昇、不動産デベロッパーの借入依存の高まりを挙げています。地政学的緊張や原油価格の上昇といった外部要因も、インフレ圧力を通じて融資需要を冷え込ませる可能性がありますが、フィリピン企業の外債比率は比較的低く、通貨安への耐性も備えていると分析されています。

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