参議院選挙の投開票が7月20日に行われます。駅周辺や市街地などに設置された掲示板には、候補者の選挙ポスターが貼られていますが、中にはポスターが破かれたり、落書きをされたりするケースがあります。こうした行為に対し、SNS上では「ひどい」「品がない」「悪質な犯罪行為」など、怒りの声が上がっています。

 もし選挙ポスターを破ったり、選挙ポスター落書きをしたりした場合、どのような法的責任を問われる可能性があるのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

選挙ポスターの破損は民主主義の根幹を揺るがす犯罪

Q.そもそも、公共の掲示物を破ったり、掲示物に落書きをしたりした場合、どのような法的責任を問われる可能性があるのでしょうか。

佐藤さん「一般的に、掲示物を破ったり、掲示物に落書きをしたりした場合、器物損壊等罪に問われる可能性が高いです(刑法261条)。器物損壊等罪の法定刑は『3年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金もしくは科料(1000円以上1万円未満の金銭を支払わせる罰)』です。

落書きの程度が軽く、消すことができる程度であっても、軽犯罪法違反に問われる可能性があります(軽犯罪法1条33号)。軽犯罪法違反の法定刑は『拘留(1日以上30日未満刑事施設に拘置する罰)または科料』です」

Q.では、もし選挙ポスターを破ったり、選挙ポスター落書きをしたりした場合、どのような法的責任を問われる可能性があるのでしょうか。また、一般的な掲示物を破損した場合よりもより重い罪に問われる可能性があるのでしょうか。

佐藤さん「破ったり、落書きをしたりしたものが『選挙ポスター』の場合には、公職選挙法違反(選挙の自由妨害罪)に問われる可能性があります。公職選挙法225条2号は、選挙に関し、『交通もしくは集会の便を妨げ、演説を妨害し、または文書図画を毀棄(きき)し、その他偽計詐術等不正の方法をもって選挙の自由を妨害』した場合、『4年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金』に処すると定めています。

先述のように、一般的な掲示物を破ったり、落書きをしたりした場合に問われる器物損壊等罪の法定刑が『3年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金もしくは科料』なので、選挙ポスターを破ったり、選挙ポスター落書きをしたりした場合には、より重い罪に問われる可能性があることになります」

Q.なぜ一般的な掲示物の破損よりも選挙ポスターの破損の方がより重い罪に問われる可能性があるのでしょうか。

佐藤さん「選挙ポスターを破損することは、物理的にポスターが使い物にならなくなるだけでなく、選挙の自由を妨害する行為です。選挙という民主主義の根幹を揺るがす犯罪であることから、より重い刑罰が科せられることになります」

Q.選挙ポスターの破損に関する事例、判例について教えてください。

佐藤さん「選挙ポスターを破るなどして逮捕されたり、刑事裁判になり有罪判決を受けたりする事例は複数存在します。例えば、2024年7月の東京都知事選でも、候補者のポスターを破ったとする公職選挙法違反(選挙の自由妨害罪)容疑で逮捕者が出ています。

また、2024年10月の岡山県知事選で、選挙ポスターを破り捨てたとして、選挙の自由妨害罪に問われた男性に対し、裁判所は求刑通り『罰金25万円』の判決を言い渡しています。判決理由で、裁判官は『衝動的にポスターを破ったり、カッターナイフで切ったりしており、短絡的かつ粗暴な犯行。規範意識の低さは深刻』と指摘しています」

オトナンサー編集部

選挙ポスターを破ったり、落書きをしたりした場合、どのような法的責任を問われる?