HHIの分析により、日本銀行を含めた場合の日本国債市場は極めて高い寡占度にあり、異次元緩和を経て市場が「政策管理下」に置かれた構造が明らかとなりました。市場が特定業態に過度に依存する状態では、構造的なリスクの顕在化を契機に連鎖的な保有行動の変化が起こりやすく、市場の流動性や価格安定性に脆弱性が生じるリスクがあります。本稿では、ニッセイ基礎研究所の福本勇樹氏が、金融政策の正常化局面におけるリスク要因について詳しく解説します。

2022年12月以降、日銀は政策を転換

2022年12月以降、日本銀行の金融政策は大きな転換点を迎えた。イールドカーブ・コントロール(YCC)政策の柔軟化、そして2024年3月の撤廃、さらに同年7月以降の利上げにより、日本国債市場でも金融の正常化が進みつつある。

こうした政策の転換は、単に金利水準の変動にとどまらない。長らく日本銀行が支えてきた日本国債市場において、今後誰が日本国債を保有し、市場構造が金利ボラティリティや価格発見機能にどう影響を及ぼすかという、より本質的な問いを投げかけている。

本稿では、この市場構造の変容を市場寡占度(集中度)という視点から定量的に捉える手法として、ハーフィンダール・ハーシュマン指数(HHI)を用いる。HHIはもともと産業組織論の分野で市場競争の度合いを測る指標だが、本稿ではこれを応用し、日本国債の保有構造における「集中の度合い」を把握する。

とりわけ、本稿では日本銀行を含めたHHIと、除いたHHIの両面から分析を行う。これは、かつて最大の買い手であった日本銀行が今後存在感を後退させていくなかで、「脱・日本銀行」後の日本国債市場がどのような主体に依存し、その構造がどれほど強靱または脆弱であるかを評価するためである。

後半では、主要な市場参加者である預金取扱金融機関と生命保険に焦点を当て、それぞれの保有スタンスを分析する。これらの主体は、金融規制やALM(Asset Liability Management:資産と負債の総合管理)の枠組みに強く影響されており、その保有行動は単なるインカム獲得にとどまらず、制度的要因に規定されている。

本稿の目的は、こうした制度的・構造的な制約を受けた保有行動の全体像を、HHIというシンプルな指標を通じて可視化することにある。日本国債市場における構造的な集中の実態と、その背後に潜むリスクを明らかにすることで、今後の政策や規制設計の議論に資する知見を提示したい。

HHIによる日本国債市場の寡占度分析

HHIとは?

日本国債市場の構造的な集中度を定量的に把握するために、本稿ではハーフィンダール・ハーシュマン指数(HHI: Herfindahl-Hirschman Index)を用いる。HHIは、ある市場における各プレーヤーのシェアの2乗を合計した値であり、0から10,000(=1002)(%2)までのスケールで表される。値が高いほど、特定のプレーヤーへの集中が進んでいることを意味する。

HHIは本来、産業組織論において市場の競争状況や寡占度を把握するために用いられる指標であるが、その応用範囲は広い。特に、本稿のように日本国債の保有構造の分析においては、どの程度の保有が一部の主体に集中しているか、またその集中が時間とともにどう変化しているかを示す上で、有効な手段となる。

ただし、HHIの数値をどう評価するかには一定の基準が必要である。参考として、公正取引委員会(JFTC)が企業結合の審査で用いるガイドラインでは、以下のような閾値が示されている1

1 公正取引委員会『企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針』(企業結合ガイドライン)において、「HHI≤ 1,500」「1,500  2,500かつHHI増分≤ 150」とするセーフハーバー(水平型企業結合において通常、競争を実質的に制限するものとはみなされない範囲)が明記されている

この基準は、あくまで水平的な企業間競争の文脈で設定されたものであり、本稿で扱う日本国債市場のような公的債券市場にそのまま適用できるわけではない。ただし、HHIの絶対値を評価する際の一つの目安として有用であり、「どの程度集中が進んでいるか」を直感的に把握するための補助的な物差しとなる。

本節では、このような背景のもとHHIを導入し、次節以降では日本銀行を含めた場合・除いた場合の保有構造における集中度の推移を順に確認していく。

日本銀行を含むHHIの推移

本節では、業態別に日本銀行を含めた形で算出したHHIの推移を確認し、日本国債市場における保有構造の変化を概観する。

日本銀行を含めたHHIは、2013年以降に急上昇した。これは、異次元緩和政策の一環として日本銀行が長期債の大量購入を開始したことによるものである。2016年以降のYCC導入後も含めて、日本銀行の保有残高が増加したことで、結果として保有構造の集中が進行した。

実際、直近の2024年12月時点のデータでは、HHIは約3,104であり、先に紹介した公正取引委員会の基準に照らせば、「高度に集中した市場」に該当する。この水準は、特定の主体が市場を支配している状態に近いことを示唆しており、価格形成機能や市場の厚みに対する懸念が現実のものとなっていることを意味する。

加えて注目すべきは、この集中度が単に一時的な政策効果にとどまらず、長期にわたって継続している点である。2021年3月以降の世界的な金利上昇傾向に伴って、YCCの維持を目的した日本銀行による日本国債購入の拡大も、HHIの高止まりに拍車をかけた。

このように、日本銀行が「最後の買い手(buyer of last resort)」として日本国債市場を支えてきた構図は、HHIの推移からも明確に読み取れる。他の保有主体の比率が相対的に低下していくなかで、日本銀行の圧倒的な存在感が市場の寡占度を一段と引き上げてきたことは疑いの余地がない。

もっとも、2023年以降は、YCCの修正・撤廃、買入減額の決定を経て、日本銀行による日本国債の保有割合は徐々に低下しており、HHIも若干ながら低下の兆しを見せている。ただし、その水準は依然として高く、直ちに「市場の自立性」が回復したとはいいがたい

このことは、日本国債市場が依然として「日本銀行の買入れ依存」の構造から脱却できていないことを示唆している。日本銀行込みでのHHIが高水準であるという事実は、政策変更時における市場の脆弱性──たとえば金利の急変動や需給の不安定化──を内包しているといえる。

日本銀行を除いたHHIの推移

本節では、日本銀行を除いたうえで、業態別にHHIを算出し、金融正常化の進展に伴い、日本銀行の市場関与が縮小した場合の、日本国債市場の保有構造について考察する。政策的には、日本銀行による日本国債の買入れは縮小傾向にあり、名目的には「日本銀行による市場支配の緩和」が意識されつつあるが、他の市場参加者による分散的な保有構造が十分に確立されているといえるのか確認する。

日本銀行を除いたHHIは、2011年から中長期的に緩やかに減少(=集中度合いが緩和された)しており、直近の2024年12月時点では約1,719となっている。この数値は、公正取引委員会の基準に照らせば「中程度の集中」に分類される。構成比率を詳しく見ると、生命保険、預金取扱金融機関という二つの主体が突出して高いシェアを占めており、HHIの大部分をこの二者が形成していることがわかる。

具体的には、2024年12月時点で生命保険が約781、預金取扱金融機関が約421のHHIを構成し、これだけで合計1,200を超える水準となる。かつては預金取扱金融機関による寡占的な保有構造が中心であったが、2011年以降はその影響力が徐々に低下する一方、生命保険の存在感が拡大している。残る数百ポイントは海外・公的年金・年金基金などその他の主体によって占められているが、その分布は分散的とはいいがたく、構造的な偏りが残存していると評価せざるを得ない。

これは、日本銀行を除いたとしてもなお、日本国債市場において「準寡占的構造」になっていることを意味している。しかも、生命保険と預金取扱金融機関という、ともに金融規制・会計制度・資産負債構造に強く影響を受ける主体に保有が集中している点が重要である。市場構造の安定性は、それらの主体が日本国債を継続的に保有し続けるためのインセンティブ──利回り、リスク許容度、金融規制等──に大きく依存している。このような制度的な制約の下では、業態ごとに似通った投資行動が選好されやすくなり、保有構造の多様性が失われるリスクが内在している。

以上を踏まえると、仮に日本銀行が今後市場から完全に撤退したとしても、残された民間主体の構造が十分に分散的であるとはいいがたく、金利の急変やリスク許容度の低下といった外部ショックに対する耐性には依然として限界がある。むしろ、「脱・日本銀行」の達成は形式的なものにとどまり、実態としては新たな寡占構造へと移行する可能性がある。

次章では、こうした構造の中核を担っている預金取扱金融機関と生命保険をとりまく構造的なリスクに焦点をあて、制度的・財務的な側面から、各主体の日本国債の保有スタンスに内在するリスクと行動制約を検討する。

市場参加者の保有構造と制度的制約

日本銀行による日本国債の大量買入れは、市場全体の需給構造を大きく変化させ、日本国債の保有主体は、日本銀行と民間の安定保有主体とに二分される構図となった。だが、2022年末以降のYCCの修正・撤廃や買入れ減額に象徴されるように、金融政策の正常化が進むなかで、日本銀行の市場関与は段階的に縮小されつつある。このような環境下において、改めて注目されるのが、民間の主要プレーヤーである預金取扱金融機関や生命保険会社の保有構造と、それに内在する構造的なリスクである。

特に重要なのは、金利の変動が債券保有者にもたらすリスクが、上昇局面と低下局面とで非対称であるという点である。債券価格の下落は、すでに債券を保有している金融機関等にとって、含み損の拡大を通じて純資産の毀損をもたらし、自己資本の増強圧力や流動性対応の必要性を高める要因となりうる。また、デュレーションの長い資産を多く保有している場合には、資本規制やリスク管理の観点から再配分を迫られる可能性もある。このため、金利上昇局面においては、長期債や超長期債の「安全資産」としての位置づけが相対的に弱まり、より短期流動性を重視したポートフォリオへのシフトが促されやすくなる。

さらに、こうした対応は、金融業態ごとに異なる会計制度や規制によっても左右されるため、単純に「市場が正常化すれば機能が回復する」とはいいがたく、金融規制に伴う対応が新たな課題となる。市場機能の回復を論じるためには、こうした民間保有主体の構造的な制約とリスクへの耐性を丁寧に見極める必要がある。

本章では、預金取扱金融機関および生命保険会社の日本国債保有の構造的特徴に焦点を当て、両者の保有行動が、日本国債市場における構造的寡占や将来的な金利変動リスクにどのような影響を及ぼし得るかを検討する。

預金取扱金融機関の保有構造:金融規制と流動性リスクへの対応

預金取扱金融機関は、日本国債市場における主要な保有主体の一つであり、長らくその需給構造を支えてきた。とりわけ地域金融機関にとって、日本国債は信用リスクの低い収益源として重視されてきた。

しかし、異次元緩和およびマイナス金利政策の導入以降、預金取扱金融機関における日本国債の保有のスタンスには変化が生じている。特に利回りの低下を背景に、資産構成の見直しが進んだ。図表4に示すとおり、近年では「安全資産」(現金・預金、国庫短期証券、国債・財投債)を預金残高で除した比率が上昇傾向にあり、50%近辺にある。特に現金・預金の比重が高まっており、その約73%を日銀当座預金が占めている。

なお、2022年前後には一時的に日銀当座預金が減少した時期があるが、これは新型コロナ対応の資金繰り支援オペ(特別オペ)の償還など、政策的な要因による資金供給の減少によるものであり、構造的な資産配分の変化ではない。総じて、預金取扱金融機関は意図的に保有資産のデュレーションを短期化させてきたといえる。

こうした資産構成の変化の背景には、以下のような制度的要因がある。

第一に、レバレッジ比率規制の影響である。日本の規制体系においては、レバレッジ比率の分母に日本国債が含まれる一方、日銀当座預金は含まれない。したがって、資本効率を考慮すれば、日本国債から日銀当座預金へのシフトは合理的な選択肢となる。とりわけ、資本効率の観点からは、レバレッジ比率の分母を圧縮しながら保有資産を維持できる点が評価される。

第二に、IRRBB(Interest Rate Risk in the Banking Book:銀行勘定の金利リスク)およびLCR(Liquidity Coverage Ratio:流動性カバレッジ比率)などの規制上、長期債や超長期債の保有は金利リスクや流動性リスクを高める要因になりうる。

第三に、満期保有目的の資産であっても、流動性リスクの回避は困難であるという構造的問題がある。特に将来的な預金流出に備え、即時に換金可能な資産の比率を高める必要性が増している。シリコンバレーバンク(SVB:Silicon Valley Bank)の破綻事例が象徴的であるが、たとえ保有資産が満期保有目的であっても、預金の流出などにより早期売却を迫られれば、含み損が顕在化し、経営の安定性を損なうリスクがある。このようなDeposit Flight Risk(預金逃避リスク)への認識は日本の金融機関にも浸透しつつあり、長期債保有に対する慎重な姿勢を助長している。

さらに、預金取扱金融機関は貸出金に対するALMを重視する傾向が強い。短期で調達して長期で運用するビジネスモデルから、受動的な貸出金(資産)と変動性の高い預金(負債)の金利リスクのミスマッチに対して日本国債などの運用で対処する方針にある。金利上昇局面では、資産サイドの金利リスクを抑制するために、長期債の保有を控える、またはデュレーションの短い資産へ資金を振り向ける傾向が強まる。

以上を踏まえると、預金取扱金融機関の日本国債の保有構造は、単なる利回り追求の結果ではなく、規制・リスク・制度対応といった複合的な要因によっても形成されている。今後、金融政策の正常化と金利上昇が一服すれば、日本国債保有のインセンティブが再構築される可能性があり、それが日本国債市場全体の需給構造に与える影響は小さくないだろう。

生命保険会社の保有構造:ALMと会計制度による保有構造の形成

生命保険会社は、日本国債市場において長期債の安定的な保有主体として位置づけられてきた。とりわけ予定利率に応じた将来の保険金支払に備える責任準備金に対応する運用対象として、安全性・流動性に優れる日本国債の保有ニーズは根強く維持されており、総じて中長期ゾーンの日本国債を中心にポートフォリオが構築される傾向にある。

実務上も、生命保険各社は、責任準備金に対する満期保有目的の長期債や超長期債を中心とした債券投資を基本としつつ、利回りの水準や運用環境に応じて、外国証券や貸付債権等とのバランスを取りながら資産構成を調整している。

生命保険会社の日本国債投資には、制度面からも一定の制約と誘因が存在する。第一に、責任準備金に関連する会計制度が、保険債務との対応関係を重視するALMを促している点が挙げられる。すなわち、長期の負債(保険契約)に対応する長期の資産として、日本国債は最も整合的な運用先の一つである。また、満期保有目的や責任準備金見合いであれば、金利変動による評価損益が損益計算書に直ちに反映されない会計処理が可能であり、金利リスクを管理しやすいというメリットもある。

第二に、経済価値ベースのソルベンシー規制(ESR:Economic Solvency Ratio やERM:Enterprise Risk Management)への移行が進むなかで、金利変動に対する耐性を示す必要が強まっている。むろん、生命保険会社によるソルベンシー対応に向けた長期債や超長期債への需要は一定の水準に達し、追加的な買い増し圧力は相対的に落ち着いているとの見方がある。

第三に、保険契約者配当の原資確保の観点から、運用利回りの一定水準の維持が求められ、利回りの低い局面では日本国債保有の動機が一時的に減退することがある。

図表5に示すとおり、生命保険会社の保険負債に対する安全資産の保有比率は、預金取扱金融機関と同様に50%程度だが、その保有比率のほとんどを国債・財投債が占めている。

コロナ禍による一時的な変動を経たものの、概して高位で安定しており、預金取扱金融機関に比べて保有スタンスの一貫性が見られる。2021年以降、保険負債に対する安全資産比率には低下傾向がみられているが、これは金利上昇に伴う日本国債等の評価額の下落に加え、満期償還後の資金が相対的に利回りの高い資産に再投資されたことなど、構造的な要因によって説明可能である。

以上を踏まえると、生命保険会社における日本国債保有は、利回りやリスク選好に左右されるだけでなく、ALMの整合性、規制対応、保険財務の健全性確保といった多面的な要因によって構成されている。そのため、市場金利の変動が直ちに日本国債の保有行動に影響を及ぼすわけではないものの、規制の変更や見直しなどの制度変更があった場合、業態全体で保有構造の転換が連鎖的に生じるリスクを内包している。

金融正常化下で浮上する日本国債市場の構造的寡占リスク

日本銀行による長期国債の大量保有は、異次元緩和以降の金融政策の中核を成してきたが、その帰結として、日本国債市場における流通市場の機能は大きく制約されるに至った。YCCの導入により、長期金利には日本銀行による事実上の上限が設けられ、市場価格を通じた金利形成メカニズム、すなわち価格発見機能は著しく低下した。こうした非伝統的な金融政策の下で日本国債市場が政策調整の主戦場とされた結果、流動性の低下や需給の偏在といった構造的な歪みが顕在化している。

こうしたなか、2022年末以降にはYCCの修正および将来的な金融政策の正常化に向けた議論が本格化し、市場参加者の間では「脱・日本銀行」に向けた模索が進んでいる。日本銀行による長期債の買入額が縮小される一方で、それを代替する民間の市場機能の再構築が急務となっている。しかしながら、この移行過程において明らかとなったのは、日本国債市場に根深く存在する制度的な寡占構造である。

第2章および第3章で詳述したとおり、現在の日本国債市場においては、預金取扱金融機関および生命保険会社という特定業態が、極めて高い保有比率を占めている。これらの業態は、いずれもバランスシート制約や規制対応上の要請を抱えており、金利リスクや流動性リスクに対する慎重な資産運用姿勢を維持している。また、会計制度、レバレッジ比率、IRRBB、LCR、およびソルベンシー規制といった制度的要因が、日本国債保有の動機形成に強く作用している。そのため、金融政策が正常化する局面であっても、単に「日本銀行の退出=市場の回復」という図式が成り立つわけではない。

さらに、日本銀行による日本国債の買入によって供給された潤沢な流動性は、結果的に預金取扱金融機関の資産構成における日銀当座預金への偏重を招いており、長期債といった価格変動性の高い資産への再投資には依然として慎重な姿勢がみられる。とりわけ、シリコンバレーバンクの破綻に象徴されるように、満期保有目的の長期債であっても、預金流出時には流動性リスクが顕在化しうるという教訓は、日本国内の金融機関にも深く共有されつつある。

一方、生命保険会社の日本国債の保有スタンスは相対的に安定しているものの、ソルベンシー対応としての長期債・超長期債への投資は一定の段階に達したとの見方もある。運用環境次第では今後も一定の買入は継続されると見込まれるが、金利水準や会計制度の変更によって保有スタンスが変化するリスクも孕んでおり、市場全体としての安定性を保証するものではない。

このように、金融政策の正常化が進んでも、日本国債市場の主要プレーヤーにおける保有余力には制度的な制約があり、単なる量的縮小以上の構造的な課題が横たわっている。「脱・日本銀行」とは、真に自律的かつ多様な市場参加主体によって価格が形成される、健全な市場構造の回復を意味すべきである。

この観点から、財務省による発行計画における年限構成の見直しに加え、日本国債保有に関わる金融規制の調整、ならびに長期安定運用を担いうる新たなプレーヤーの参入促進といった制度整備が求められる。たとえば、年金基金、海外投資家、家計といった多様な保有主体の育成によって、市場の自律性と弾力性を高める必要がある。加えて、HHIによる寡占度の分析が示すとおり、特定業態への依存が高まる市場では、一部の構造的リスクを起点とした制度的制約が連鎖的な保有行動の変化を誘発し、流動性の枯渇や金利の急変動といった脆弱性が顕在化しやすい。市場の自律性が損なわれた状態では、わずかな制度変更やリスク事象が市場全体に波及しやすい土壌となる。

ゆえに、金融政策の出口戦略として本質的に問われるべきは、単なる日本銀行の市場撤退ではなく、日本国債市場における公平かつ健全な価格形成機能を再構築することである。構造的寡占のリスクを直視し、市場インフラとしての債券市場の健全性を回復することが、真の意味での金融政策正常化の帰結といえよう。

(写真はイメージです/PIXTA)