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 たった一度の少額取引のために、コンプライアンスチェックや書面の取り交わしなど、30万円相当ものコストをかけて取引先登録をしなければならないのは、何かおかしい――。

 フィンテックスタートアップのCandex(キャンデックス)グループが、2025年7月8日、日本市場でのビジネス本格始動に伴う事業戦略説明会を開催した。同社が解決するのは、購買/支払い業務で発生する“テールスペンド”という問題だ。

大手多国籍企業を悩ませる“テールスペンド問題”とは

 2011年に米国で創業したCandexは、現在52カ国でビジネスを展開している。ソニー、日立エナジー、デル・テクノロジーズ、シスコ、フィリップモリス、3Mなど、現時点で135社の多国籍/エンタープライズ企業を顧客に持つ。

 Candexが解決に取り組むテールスペンド問題とは、そうしたバイヤー企業の調達/支払い業務において「少額の支払い先(サプライヤー)が大量に存在する」ことで生じる“無駄なコストや手間”を指している。ラッピン氏は次のように説明する。

 「大手の多国籍企業では、取引先サプライヤーの80%に支払う支出額が、全体のわずか5%程度にすぎないことがある(つまり少額の取引先が大多数を占める)。しかし、そうしたサプライヤーの支払い先登録には(大手取引先と同じように)数カ月かかる。しかも、その後に取引が継続しないサプライヤーが40%以上を占める」

 支払い先として登録できるまでには、取引額の大小にかかわらず、担当部署をまたいだコンプライアンスチェックや承認、支払いシステムへの登録といった作業が必要だ。たとえ一度かぎり、数万円の少額支払いであっても、支払い先登録に「(1件あたり)30万円(相当)の追加コストがかかっている。それはあまりにおかしい」とラッピン氏は指摘する。他方で、取引先のサプライヤーには、フリーランス(個人)や小規模企業まで含まれるが、支払いまでに数カ月を要するために不満がたまる。

 もうひとつ、多国籍企業ならではの問題として「各国の税制度や法制度の違い」もある。取引先の所在地(国)ごとに異なる対応が必要となる。こうした各国の制度の違いに対応するために、さらに手間がかかる。

小口サプライヤーへの発注/支払いを仲介、窓口を一本化

 このテールスペンド問題に対して、Candexが提案するソリューションはシンプルだ。そうした小口サプライヤーとの取引はすべてCandexが仲介するかたちで、バイヤーは取引先をCandexに一本化する。これにより、バイヤーではCandexだけを取引先に登録すればよく、サプライヤーもより迅速に支払いを受けられる。Candexは、取引1件あたり3%の仲介手数料を受け取る。

 バイヤーでは取引先がCandexに変わるだけなので、既存の調達プロセスは一切変わらない。また、Candexは主要な購買発注システムに組み込みができるため、システム変更の必要もない。さらに、サプライヤーが経済制裁の対象になっていないか、マネーロンダリングに悪用されていないかといったコンプライアンスチェックについては、すべてCandexが代行するかたちだ。

 なお、取引先のサプライヤーには「登録依頼メール」が送信され、オンラインでサプライヤー登録、発注内容の承認、取引規約への同意、支払い先口座の登録、バイヤーへの請求ができる。請求に基づいてバイヤーがCandexに支払いを行うと、Candexからもすみやかに(平均1.2日以内に)サプライヤーへの支払いが行われる。

シンプルなサービスなのに「競合がいない」理由

 このように、Candexが提供するサービスの仕組みはシンプルだ。しかし、現状では「競合はいない」とラッピン氏は強調する。競合が現れない理由は、Candex自身も“多国籍展開”しているからだという。

 「たとえば、Candex Japanは日本の法人であり、日本の銀行口座を持っており、日本国内で納税している。同じように、ベトナムにはベトナムの、オーストラリアにはオーストラリアの現地法人があり、それぞれ各国の税法にのっとって運営している。これにより、バイヤー(である多国籍企業)は、現地のサプライヤーに支払うのと同じようにCandexに支払うことができる」

 通常、国境をまたいでサプライヤーに発注する場合は、事前に相手国の税制などのルールを調査し、それにのっとって取引を行う必要がある。しかし、Candexを利用することで、その手間も省けるわけだ。Candexでは、顧客企業の求めに応じるかたちで展開国を拡大してきた。現在は、52カ国に現地法人や現地拠点を構え、サービスを展開している。

多国籍企業の多い日本市場へのアプローチを本格化

 日本法人であるCandex Japanは2022年に設立されたが、今回あらためて本格展開を開始することとなった。ラッピン氏は、日本市場固有の課題として、「そもそもテールスペンド問題がまだ認識されていない」、新規取引先登録に手間がかかるため「少額取引でも同じサプライヤーを続けざるをえない」、そして「法規制が厳格」という3点を挙げる。こうした課題、さらには「日本特有の商慣行」にも合わせるかたちで、日本におけるビジネスを展開していくという。

 Candex Japan 代表の北本大介氏は、日本法人の立ち上げから今日まで「非常に慎重に準備をして、人(社員)を選び、しっかりと基盤を作ったうえで、今回の本格展開を開始する」と説明した。同社によると、すでに国内でも20社以上の顧客企業があるという。今後のビジネス目標については、具体的な獲得社数については明言を避けつつ、次のように説明した。

 「日本には、他国に比べても非常に多くのグローバル企業(多国籍企業)がある。そうした企業に、Candexのサービスをできる限り多く採用していただくのが、日本チームとしての目標だ」(北本氏)

 このコメントを補足するかたちで、ラッピン氏は次のように日本市場での展開状況を説明した。

 「まず最初のフェーズとして、現状の顧客である135社に対して日本でのサービスを提供していかなければならない。ただし、直近の2カ月ほどは、日本国内のエンタープライズターゲットにして、アプローチをし始めているところだ」(ラッピン氏)

購買業務の無駄なコスト“テールスペンド”を解決 Candexが日本市場へ本格参入