
台湾有事をめぐる緊張は、米中関係や半導体などのサプライチェーン、資源の安全保障にまで波及し、世界経済に重大な影響を与えかねません。特に、第二次トランプ政権の誕生がそのリスクを一段と高めていると指摘されています。本記事では、エコノミスト・エミン・ユルマズ氏の著書『高金利・高インフレ時代の到来!エブリシング・クラッシュと新秩序』(集英社)より一部を抜粋・再編集し、台湾情勢を含む地政学リスクとその経済的な意味について詳しく解説します。
台湾有事のリスクが最高に高まる理由
ところで、台湾問題について、トランプは今後どのような対応を見せるのだろうか? 私が一番危険だと感じたのは、選挙キャンペーンのとき、「中国が台湾に対して有事を起こすならば、米国に輸出する中国製品に200%の関税を課す」と宣したことだった。
これは一見米国の脅しに見えるが、中国はまったく動じないはずだ。ここははっきり言っておくが、中国にとってはそんな関税云々はどうでもいいことなのだ。プライオリティが違うからに他ならない。中国製品が米国から200%の関税を課されたとしても、中国にとっては、台湾を“奪還”するほうが重要だからだ。
いま中国が台湾に対して有事を起こさない唯一の理由とは、これが第三次世界大戦のトリガーとなり、米国と戦闘状態に陥ることを避けているためだろう。仮に敗れた場合、中国共産党政権の崩壊につながりかねないという恐怖感があるのだろう。その恐怖を方程式から外したときに中国は動く。私はそう考えている。
中国が台湾に侵攻しても、米国は関税でしか“応戦”しない。トランプとのディールの末に中国がそう判断したとき、中国は行動に移すはずだ。
したがって、台湾の行く末はトランプ次第で、中国側にいつ青信号が灯るか分からないという話なのだ。第二次トランプ政権の4年間は、台湾有事のリスクが最高に高まるときだと考えたほうがいい。
しかしながら、改めてニュートラルな目線で米中貿易を見てみると、確かに米国側は膨大な対中赤字を抱えている。米国の追加関税は中国にとって痛手だが、米国も中国に農作物などを大量に輸出している。米国がさらに追加関税を課すならば、中国も報復関税で対抗するのは、火を見るより明らかである。
加えて、米国はEV(電気自動車)生産に必要なレアアースを中国に頼ってきたことも、懸念材料となるだろう。ウクライナとロシアとの停戦交渉において、米国がウクライナのレアアースの提供を強く求めたことの背景には、そんな米中対立の深刻化があるからだろう。しかし、いくらトランプ流のディールとはいえ、国民の命がかかっている交渉に資源の取引を条件にしたことに関しては、世界中の人々が多大な違和感を覚えたことだろう。
しかし仮に米中が互いにサプライを完全に打ち消し合うとどうなるのか? 米国はそれらに耐えられるのかというと、耐えられない可能性のほうが高い。いま台湾有事が起きれば、半導体のサプライチェーンが完全に止まり、AI(人工知能)産業は間違いなく大打撃を被り、米国経済のバブルは大崩壊するだろう。
トランプ政権維持のカギを握るエヌビディアの盛衰
半導体といえば、真っ先に出てくるのがエヌビディア(NVIDIA)だが、巷の称賛とは逆に、私自身は市場の評価ほどには高く買っておらず、どこか危うさを秘めた企業だと考えている。
社長兼CEOのジェンスン・フアンは“市場操作”がきわめて巧みな人物として知られる。これはかねてより私が指摘してきたことだが、同社の対シンガポールの売上が異様に大きい。昨年の決算によると、1年間で約3倍に膨れ上がった。知ってのとおり、シンガポールには半導体産業はないし、メインは金融センターである。
同社決算の地域別売上を見ると、シンガポールは第三位だった。これにはカラクリがあって、同社では“請求先”で分けているのだ。つまり、対シンガポールの売上は“エンドユーザー”がシンガポールではないことを意味する。
もうお分かりだろうが、エンドユーザーは中国なのだ。迂回して中国に流れていっている。これで米国の半導体規制から“逃れて”いるわけだ。
こうした手口はこのところ、大問題になりつつある。これが世界に晒されるときには、米国株バブルが吹っ飛んでしまう可能性すらあるだろう。つまり、時限爆弾さながらの様相となっている。これが半導体バブルの現実である。
もし民主党が共和党の第二次トランプ政権を潰すために、このエヌビディアによるイカサマ(?)を追求し、それがもし真実だったとしたら、半導体市場に冷水を浴びせることになり、とんでもない結果となるだろう。
エコノミスト エミン・ユルマズ

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