2024年度の我が国の税収は、過去最高の75.2兆円に達する見通しとなった。法人税消費税が大きく伸びた一方で、富裕層への課税も強化されつつある。資産形成・資産承継のルールが変貌するなか、富裕層は中長期的な「制度対応型」の資産戦略が求められそうだ。※本連載は、THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班が担当する。

2024年度の一般会計税収は75兆円超、5年連続過去最高を更新

2024年度の国の一般会計税収は、過去最高の75兆2,000億円に達する見通しとなった。これは2023年度の72兆761億円を上回り、5年連続で過去最高を更新することになる。

税収増の主な要因は、企業業績の回復や名目所得の増加による法人税および消費税の増収とされる。

内訳を見ると、法人税は好調な企業業績を背景に2兆円余り増加し、17兆9,101億円。消費税は国内消費の堅調な推移に加え、物価上昇の影響もあり、約1兆9,000億円増えて25兆212億円となった。一方で、所得税は定額減税の影響により約8,000億円減の21兆2,085億円となった。

金融資産の運用益に課税なら、富裕層の運用戦略も変化

税収構造の変化に伴い、分配の在り方や格差是正、財源の恒久化といった課題が重なり、富裕層を取り巻く税制環境は、今後さらに流動的になると見られる。

NISAなどの制度変更も進む。2024年から新NISAが非課税枠の大幅な拡大が注目された一方、金融所得課税の一体化(合算課税)に向けた検討も本格化している。金融資産の運用益に課税の網が広がるなら、必然的に運用戦略の転換も視野に入ってくるだろう。

相続・贈与税制の変化にも注目だ。長年活用されてきた「110万円の非課税枠(暦年贈与)」は、今後、相続時精算課税制度との一体的な運用が検討されており、形式上は存続するものの、実務上の運用や当局の監視強化によって、相続対策としての柔軟性や匿名性は一定程度損なわれる可能性がある。

また、2024年4月からスタートした相続登記の義務化により、不動産を含む資産の「見える化」が一層進展。これまで税務当局の把握が難しかった資産区分にも課税の網がかかりつつある。

よく知られるタワーマンション等を活用した評価圧縮スキームも、すでに課税強化の対象として見直しが進み、適用余地は狭まっている。不動産を多く保有する層は、度重なるこれらの制度変更により、資産防衛の難易度が上がるだろう。

富裕層に対する課税強化の傾向、今後も続く

相続問題にくわしい税理士の宮路幸人氏は、富裕層の資産形成について下記のように指摘している。

「2025年度より富裕層に対するミニマムタックスが導入され、また、金融課税の強化が検討されるなど、富裕層に対する課税強化の傾向は今後も続くものと思われます。目先の節税対策だけでなく、資産の分散や事業承継プランの見直し、また資産管理会社の設立などにより包括的な対策を講じる必要があります」

このような環境下、資産運用・保全の在り方を根底から見直す必要がありそうだ。法人を活用した資産管理や、家族信託を用いた次世代への承継戦略など、制度に則った資産設計があらためて評価されている。

海外資産への監視体制の強化が進んでいることも覚えておく必要があるだろう。OECDが主導する共通報告基準(CRS)の普及により、日本の税務当局は国外口座情報を自動的に入手可能だ。つまり、国内外から常に資産状況がチェックされている。

税収の増加は、政府がどこに課税強化の焦点を当てているかを示すサインともいえる。単年度ごとの税制変更に一喜一憂するのではなく、中長期的な「制度の傾向」に対する構えを持つことが重要だ。

THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班

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