
2025年4月13日から開幕した大阪・関西万博も、7月13日には、会期の半分を迎え、いよいよ後半戦に入ったところだ。当初は1日の来場者数が10万人を割り込み、出足が懸念されたが、いまでは15万人を超える日も増え、累計来場者数は1000万人を超えた。最近では、Osaka metro中央線の夢洲駅に直結する東ゲートの混雑緩和を行うために、比較的空いている西ゲートからも入場できるように、東ゲートからの徒歩ルートを設置したり、ゲート間を結ぶシャトルバスの運行を開始したりといった措置が講じられている。
西ゲートからの入場する人の増加にもつながっているが、その西ゲートから約5分の場所にあるのが、「フューチャーライフ万博・未来の都市」パビリオンである。
全長150メートル、幅33メートルという最大規模のパビリオンとなっており、未来社会ショーケース事業として、12の企業や団体が出展し、15の体験型アトラクションを展示している。大阪・関西万博のテーマである「いのち輝く未来社会のデザイン」を、日本の企業が、どう具現化するのかといったことを示したパビリオンだといってもいいだろう。
現地を訪れて、同パビリオンのプラチナパートナーの1社であるクボタの「食と農」をテーマしたアトラクションである「だいちといのち まもりそだてる」を体験してきた。その様子をレポートする。
「フューチャーライフ万博・未来の都市」を入ると、最初に見ることができるのが、テーマ展示コーナーである「40億年・幸せの旅」である。長さ92メートルのカービングビジョンには、地球誕生から狩猟社会によるSociety 1.0を経て、これから訪れるサイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたSociety 5.0の実現に向けた変遷を示し、人類が地球課題の解決に向き合ってきた様子を紹介している。
さらに、その先には、2つのコモン展示が用意され、「未来との対話」では、Mirai Clipと呼ぶ4つのキューブに、家族と家の絆、移動や物流、健康と医療、エンタテインメントと教育という4つのテーマで、未来の姿を映し出している。また、「未来の都市探訪」では、ロボットヘッドに搭乗しているような映像を通じて、4つの課題と、その解決方法を体験できる。高さ5.5メートルのロボットヘッドは環境負荷低減のためにダンボール素材を使用しているという。
「フューチャーライフ万博・未来の都市」パビリオンの一番奥にあるのが、クボタのブースである。
全長20メートルを超える天幕と、前面の大型LEDスクリーンを一体化した映像空間を実現しており、地球と人にやさしい未来の「食と農業」の研究所をイメージしているという。展示コンセプトは「地球と人にやさしい、未来の“食と農業”の研究所~Kubota Germination Lab~」としており、Society5.0時代の未来の農業経営シミュレーションを、参加者がゲーム感覚で楽しむことができるほか、未来の農業ロボットなども展示している。
クボタ KESG推進部 推進第二課の関根正海氏は、「気候変動の影響や、世界的な人口増加、農業従事者の減少など、食や農業を取り巻く課題は多い。世界中のすべての人に、幸せなごはんを食べてもらうにはどうするのかということを考える場にしている」と位置づけた。
この考え方を具現化しているのが、メインとなる中央エリアに用意した「食と農業」をテーマにしたシミュレーションゲーム「PLANET KEEPERS」である。持続可能なフードシステムを支える未来の農家を疑似体験できるもので、農業経営という観点から体験できる点が興味深い。
参加したプレーヤーは、世界中のすべての人に、地球にやさしく、幸せなごはんを届けるためには何が必要かといったことを考えながら、最適な解決策を選択。これにより、未来の食と農業の仕組みを確立し、課題を解決していくマルチエンディング型ゲームとなっている。作ることだけでなく、食べること、届けることを含めて、農業全体を捉える内容である点もユニークだ。
手元のタッチパネルを使用して、選択することでゲームが進行することになる。まずは、、穀物、野菜、果物のなかから作る作物を選択。さらに、農業経営スタイルを「たくさん」、「こだわり」、「やさしい」のなかから選択したり、どんな人たちに食べて欲しいといったことを選んだり、どんなアグリテックを活用するかを選択しながら、ゲームを進めていくことになる。「たくさんの人の毎日の食を支えたい」、「子供たちに栄養価の高い食事を食べて欲しい」、「大切な日の特別な食事で思い出を作りたい」といった食を作る立場として、重視するポイントも選ぶことになる。
ゲームの途中では、気候変動の影響のほか、食が豊かになることで発生する生態系への影響、温室効果ガスの排出量の増加、フードロスなどの課題も指摘し、地球環境にやさしい農業に取り組む重要性にも触れる。また、形が悪い野菜などを含め、収穫した作物をしっかりと消費したり、人の健康や社会の環境に配慮しながら、多くの人に作物を届けたりするために、パートナーを選ぶといったことも行う。
これらの選択の結果から導き出させれる成果をもとに、プレーヤーごとに満足ポイントと環境ポイントが加算され、参加した9人の合計点数が、それぞれに100万ポイントを超えると、ゲームをクリアすることになる。
実は、このシミュレーションゲームは、クボタは開設している北海道ボールパークFビレッジ内の農業学習施設「KUBOTA AGRI FRONT」で使用している農業経営シミュレーションゲーム「AGRI QUEST」をベースに開発している。
「AGRI QUESTは、作ることと売ることのバランスを考えながら、5年間の経営を体験することになるが、PLANET KEEPERSでも、作ることと、売ることの両面を捉えながら、よりシンプルにゲームを楽しめるようにしている。こだわりの農業にするのか、大量に生産するスマート農業にするのか、あるいは販路は、大手スーパーマーケットで売るのか、高級レストランに売るのかといったことも考えてもらうことになる。農業をよりリアルに、身近に感じてもらうことを目指したい」とした。
実際にプレーヤーとして、PLANET KEEPERSに挑戦してみたが、子供たちにも直感的でわかりやすい操作を通じて、農業に関心を持ってもらえるシミュケーションゲームになっていると感じた。
Kubota Germination Labでは、Society 5.0時代の「食と農業」の実現に向けて、開発に取り組んでいる様々な技術も紹介している。
自分の農地の気候風土に合わせて、育てやすい苗を適切に選定したり、作物の受粉を自動で行ったりする「育みロボット(種苗選定ロボット/受粉ロボット)」や、農場における水の使用量を天候や生育状況に応じて自動でコントロールする生育水管理システム「ウォーターコントローラー」、作物が食べる人に届くまでの時間も計算して、一番おいしく食べることのできる収穫時期を判断する適正収穫判断システム「採れどきスキャナー」、土の中の微生物の力で発電を行う「土壌発電システム」、撮影した画像をもとに、農場全体の生育、生産アドバイスを行う分析監視ドローンの「ファームウォッチャー」のほか、農場の土の状態を分析し、データ化することで、作物が生育しやすい土づくりを提案するアドバイスシステム「土壌活性システム」、気候変動や病虫害に備え、丈夫で安全な品種にする品種改良システム「品種改良インキュベーター」のパネル展示を行っていた。
これらの技術は、中央エリアで行われたシミュレーションゲーム「PLANET KEEPERS」のなかでも、利用できる未来の技術として登場しており、プレーヤーは、これらのアグリテックを選択することができた。
Kubota Germination Labのなかで注目を集めているのが、未来の汎用プラットフォームロボット(Versatile Platform Robot)のコンセプトモデルである可変型完全無人ロボ「Type:V」だ。今回の大阪・関西万博での展示が世界初公開となる。
Type:Vは、農業や様々なフィールドにおいて求められる各種作業を、完全無人化する未来のプラットフォームロボットで、多様なアイテムを駆使するとともに、データに基づく精密な農作業を実現。農業従事者の減少が加速するなか、いまだに多く残っている手作業を代替するほか、土木作業や建設作業も完全無人化できるという。
同社では、「未来の食を守るための次世代のプラットフォームロボット」と位置づけおり、地球の限界を示す「プラネタリーバウンダリー」に対して、人々の豊かな社会と地球環境の持続可能性を両立した状態を表現する「プラネタリーコンシャス」につなげることができるとしている。
Type:Vでは、作物の間隔や生育状況、作業内容に応じて、車体の高さや幅などを変形(トランスフォーム)し、各作業に適したインプルメント(作業機)を自動で付け替えることができる。これにより、これまでの農業機械の枠に収まらず、1台で多くの用途に使用することができる。稲作では、トラクタやコンバインといった用途別機械で行っていた耕起、中間管理、防除、収穫といった作業を1台で担うことができるだけでなく、野菜などの各種作物への対応、農業以外の様々な作業にも対応できるという。しかも、これらの作業は完全無人での自動運転を行うことが可能だ。
「オムニホイールにより、前後だけでなく左右、斜めにも移動できる構造となっている。圃場の端の部分の刈り取りなどでも、効率的に作業を行える」という特徴も持つ。また、「Type:Vの展示を見た来場者の意見を研究所にフィードバックするといったことも行っている」という。
ブース内では、多目的フレンドリーロボの「Type:S」も展示を行っている。Type:Sのベースとなる「KATR」は、2025年1月に、米ラスベガスで開催された「CES 2025」のクボタブースに初めて展示され、話題を集めていたものだ。CES Innovation Awards 2025のIndustrial Equipment & Machinery部門において、Best of Innovationを受賞している。
Type:Sは、4本の脚を柔軟に曲げ伸ばしすることで、果樹園などの傾斜地や凹凸のある地形でも機体を水平に保ちなから、荷物の運搬や高精度の管理作業ができるのが特徴で、様々な用途に対応したアタッチメントを取り付けることも可能だ。現在、クボタ社内だけでなく、他社との共創を通じて、ロボットアームをはじめとして、様々なアタッチメントを開発しているという。
クボタブースでは、大型スクリーンを通じて、群制御システムによって、複数台のType:VやType:Sが協調して自律作業を行い、完全無人の状態で、効率が高い作業を行えることも示してみせた。
クボタは、1970年に開催した大阪万博において、「夢のトラクタ」を展示して話題を集め、そこで発表した斬新なコンセプトや、数々の機能がその後実用化され、現代のトラクタでは当たり前になっているものも多いという。Type:VやType:Sも、2040年以降の未来には、普通に田畑で見ることができる日が訪れると期待しているという。
Kubota Germination Labの入口にあるのが、「いつものごはん」のエリアである。
ここではSociety1.0からSociety4.0までの食事を、「弁当」に見立てて変遷を表現するというユニークな展示を行っている。それぞれの時代の食文化やライフスタイル、農業生産、フードシステムなどの背景を捉えながら、食と社会の変遷や価値の広がりを視覚的に伝えている。
約4500年前は、狩猟採集で食料を得ていた時代で、火を使って、シカ肉やイノシシ肉、貝などを調理するようになったことで食事の品数が増加。約1800年前の弥生時代になると人口が増え始め、米を作るようになり、ごはんとおかずを食べるスタイルが完成したという。さらに、飛鳥時代には仏教の伝来とともに、肉食ができずに、魚、野菜、穀物で食事が構成されるように変化し、江戸時代には調理技術の発展とともに、お寿司屋やてんぷらが登場。蕎麦も食べられるようになったという。明治以降になると、牛鍋やトンカツが食べられるようになり、さらにオムライスなどの洋食も登場しはじめ、昭和に入るとインスタントラーメンのほか、ハンバーガーやフライドポテトなどのファストフードが増加。現在は、様々な食材がUber Eatsで届けられる一方で、健康な食事にこだわる人が増えているという様子を表現してみせた。
クボタ KESG推進部推進二課の西口達也氏は、「これまでに人はなにを食べてきたのか、そして、100年後にはなにを食べているのか。そうした観点から、食と農業の未来を考えてもらうための展示になっている」とした。
大阪・関西万博のKubota Germination Labの展示について、クボタの関根氏は、「小学校中高学年以上の子供たちから、大人にまで楽しんでもらえる展示内容となっている。すでに、老若男女を問わず、多くの人に体験してもらっている。修学旅行や校外学習で訪れる子供たちも増えている」としながら、「米の価格が高騰したことをきっかけに農業に対する関心は高まったが、一般的には、日常生活のなかでは、食そのものは、当たり前のことになっており、食や農業について深く考える機会が少ないのが実態である。Kubota Germination Labの体験を通じて、食と農業を考えてもらったり、目を向けてもらえたりするきっかけにしたい。クボタがSociety 5.0時代の『食と農業』で目指しているのは、プラネタリーコンシャスである。子供たちが、将来の農業のどの部分に協力できるのか、どんなことに携わっていけるのかといったことも考えてもらえればうれしい」とする。
Kubota Germination Labの「Germination」には、発芽や芽生えという意味がある。プラネタリーコンシャスの実現に向けて、大阪・関西万博のKubota Germination Labへの参加者が、新たな気づきや新しい考えが芽生えることを期待しているという。
(大河原克行)

コメント