
ネット上の誹謗中傷や炎上、その対策をテーマとした『炎上・誹謗中傷シンポジウム』が7月4日、東京都港区で開かれた。元フジテレビのアナウンサーでタレントの渡邊渚さんや、SNSの総フォロワーが500万を超えるインフルエンサーのMINAMIさんらが登壇し、それぞれの経験や思いを語った。
渡邊さんは「家族や友人にまで殺害予告が向けられる」と被害の深刻さをうったえ、MINAMIさんは「意味なく書き込む人もいるので、深く考えすぎないという考え方も必要になる」と話した。
●卒業アルバムや住所をさらされた経験も現在18歳のMINAMIさんは、小学生の頃にTikTokを始め、その後、YouTubeでも動画をアップするようになった。
はじめはファン中心の視聴だったが、人気が増すにつれ、フォロワー以外にもオススメ動画として表示されるようになっていく。すると「死ね」「ブス」といった誹謗中傷が多く寄せられるようになったという。
「今でも覚えていますが、なんでこんなことを言われるんだろう? と思いました。悪いことをしていなくても、こういうアンチコメントが来るんだなって。理解し難いという記憶でした」
さらに、匿名でやり取りできるLINEの「オープンチャット」を中心に、卒業アルバムの写真や自宅住所をさらされる被害も受けた。
動画に書き込まれるコメントの中には、誹謗中傷のような内容も多い。そうしたコメントにも「いいね」ボタンを押すことができるため、「文字を書かなくても、そういうアンチコメントにいいねボタンを押す人も一緒なんじゃないかと思います」と語った。
同世代の誹謗中傷に悩む若者たちに対するメッセージとして「なんの意味もなく思ったことをぽんぽん書く人がほとんどだと思います。なので、深く考えすぎないという考えを少しでも持ってもらいたいと思います」と呼びかけた。
●殺害予告でコメント欄を閉鎖2024年8月にフジテレビを退社し、タレントに転身した渡邊さんは、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を公表しながら情報発信を続けている。SNSでは同じ病気を患った人から温かいメッセージが届き、それに救われたとの思いも明かす。
しかし、誹謗中傷が相次いだことから今年5月、インスタグラムのコメント欄を一時的に閉鎖せざるをえなくなった。
「ひどいときは数十件、人格を否定するような言葉や、根拠のない噂を本当のことのように書かれて、それを信じた方が攻撃してくることが続いた時期がありました」
さらに、中傷だけではなく、殺害予告など深刻な被害にも直面している。
「脅迫や殺害予告のようなもの。家族や学生時代の友人を殺しに行くとか、自分の著書に包丁が刺されている写真を送りつけられることは何度かありました」
警察に相談しているとはいえ、外出への不安を感じるだけでなく、取引先の会社にまで中傷の影響が及んでいると明かす。
法的措置を取る姿勢を示したこともあり、被害は落ち着いてきたが、今もまだ中傷がなくならないという。自身への誹謗中傷をPDF化し、証拠として残す精神的負担も大きいという。
多くのポジティブな言葉に励まされてきたコメント欄の閉鎖は、苦渋の決断だったが、中傷のコメントに触れることでフォロワーが傷つくことも懸念され「誹謗中傷に負けたくないと思いながらも泣く泣く閉じた」と振り返った。
●誹謗中傷対策の課題「無自覚な加害者」インターネットの問題にくわしい清水陽平弁護士は、誹謗中傷対策における課題として、手続きに要する時間、誹謗中傷かどうかの判別、そして「無自覚な加害者」をあげた。
法改正がされたとはいえ、開示請求の手続きは時間を要し、「誹謗中傷」かどうかの線引きをつけることも難しい。
手続きによって個人情報が開示された投稿者が「意見や感想を言っただけ」と思い込んでいるケースもあり、誹謗中傷の自覚をもたないことがあるという。
渡邊さんも、社会の中で自分の思いを言えない人、自らの行為を正義と思い込んでる人が中傷に及んでいるのではないかと印象を語った。
●誹謗中傷のない社会に向けて渡邊さんは誹謗中傷に苦しむ人への言葉を語りかけた。
「10の応援メッセージよりも1つの批判コメントが自分の心を苦しめてしまうことって私も経験があります。それでも、ネットでの誹謗中傷って大きな社会で見たら、ほんの一部で、そこが社会の全てじゃない。もっともっと広い世界が広がっていて、自分が生きる道はそこだけじゃないから、気にしなくていいって思います」
このシンポジウムは、弁護士ドットコムが開催した。

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