
パフォーマンスを追求したV6ハイブリッド
3.0L V6ツインターボエンジンに、3基の駆動用モーターが載るフェラーリF80。ハイブリッドと呼べるが、もちろん、燃費を追求したシステムではない。同社の技術者、ステファノ・ヴァリスコ氏は、パフォーマンスだけを求めて開発したと認める。
【画像】フィオラノには速すぎる F80 V12エンジンのフェラーリたち V6 HVのSF90 XXも 全142枚
カーボン製シェルの直後にマウントされる、駆動用バッテリーは2.3kWhと小容量。クオリファイ・モードで飛ばせば、試乗したミサノ・サーキット1周で充電は尽きるはず。とにかく、F80は桁外れに速い。ロケット級に。
ターボへ内蔵される電気モーターによって、ターボラグは皆無。アイドリングの900rpmから凄まじくパワフルで、9200rpmまで勢いは衰えない。0-100km/h加速が2.15秒なだけでなく、0-200km/h加速は5.75秒。ラ・フェラーリは、6.9秒だった。
V6エンジンは、通称ピッコリーノV12の6気筒版。V12へ迫る音響が目指されている。鋭く回り、簡単にレブリミットへ当たる。プロのドライバーでも、そうらしい。8速デュアルクラッチATも世界最高峰。シフトアップは瞬間的で、シフトダウンは理想的だ。
ピッチとロールを見事に抑制 衝撃吸収性に唸る
ミサノ・サーキットには、マップで眺めるとストレートでも、実際は超高速コーナーという区間がある。そこでは、ダウンフォースの効果が如実だった。ピッチとロールは見事に抑制され、感覚的に傾きを感じられる程度。縁石での衝撃吸収性に唸る。
ステアリングホイールは、望ましい重さで安定。ロックトゥロックは、フェラーリらしく2回転とクイックだが、反応は終始リニア。過敏でも神経質でもない。低速コーナーでは、精緻な旋回性へ魅了される。
ブレーキのフィーリングもいうことなし。ブレーキ制御のトルクベクタリングの効きをうっすら感じるが、テールスライドは巧みに抑制。フロント側の2基のモーターが、ストレート目がけてライン補正しようとする。この方が、最速ラップを刻めるからだろう。
別の意味で印象的だったのが、外で見ている時の静かさ。ストレートエンドでは220km/hを超えているはずだが、聞こえるのは空気を切り裂く「シュゴォー」という音だけ。騒音規制を踏まえたものだが、超音速戦闘機のようだったとカメラマンは話していた。
アウディR10 TDIと運転体験は近いかも
すべての電子アシストを切ると、一転して自由度が増す。コーナーでは、ほんのり定常的なアンダーステア。パワーを掛けると、安定したオーバーステアへ推移する。フロントアクスルの限界を察知し、強制的な介入があるまで、その状態を続けられる。
ドリフトにも興じられるが、F80の意図とは違う。8割程度の努力で、大半のモデルより遥かに速く周回できる。電気の存在感が強く、ドラマチックさは薄いかもしれないが、圧倒的なパフォーマンスに心が打たれる。
筆者が持つ記憶の限りでは、ル・マン・プロトタイプのアウディR10 TDIと運転体験は近いかもしれない。つま先が持ち上がった運転姿勢に、精緻で手応えのある操縦系、水平に握るステアリングホイール、暴力的ではない加速など。
ロードカーとしての魅力は、想像以上。ダンパーは3段階に調整でき、乗り心地はしなやか。全幅は広いが、神経をすり減らすほどではなく、没入感は深い。なお、任意にダウンフォースは調整できない。旋回中の低下などは、望ましくないからだろう。
望外に速く公道へ見事に対応 これが「正解」
フィオラノ・サーキットで、ラ・フェラーリより5.0秒もラップタイムを削ったF80。同社の製品マーケティングを率いるマッテオ・トゥルコーニ氏は、魅力度の高いV12エンジンなら、顧客を一層満足させられただろうと認める。
「でも、空力特性は損なわれるでしょう」。とも話す。最高の性能を追求したF80での採用は、見送られたという。「伝統に忠実でなければなりません。これがベストです」。確かに歴代の特別なフェラーリは、モータースポーツとの結びつきが強い。
V6ハイブリッドという決断は、電動化へ取り組む姿勢や、ハイパフォーマンス・モデルを現代に生み出そうという意欲を感じるものだ。だが、ハイブリッド・フェラーリの魅力向上を体現したほど、「最高」だといえるだろうか。
歴代一のドラマチックさは、享受できないかもしれない。しかし、499Pのようにサーキットで望外に速く、公道にも見事に対応してみせる。これがマラネロの「正解」なのだと、筆者は理解した。多くのことを考えさせる、ハイパーカーではあるが。
◯:驚愕のサーキットでの速さ 驚くほど快適な一般道での乗り心地 公道用モデルとしての完成度
△:歴代の特別なフェラーリ以上の、壮大な感動はないかもしれない
フェラーリF80(欧州仕様)のスペック
英国価格:310万ユーロ(約5億3320万円)
全長:4840mm
全幅:2060mm
全高:1140mm
最高速度:349km/h
0-100km/h加速:2.2秒
燃費:7.4km/L
CO2排出量:307g/km
乾燥重量:1525kg
パワートレイン:V型6気筒2992cc ツインターボチャージャー+トリプル電気モーター
使用燃料:ガソリン
駆動用バッテリー:2.3kWh
最高出力:1200ps(システム総合)
最大トルク:86.5kg-m/5500rpm(エンジンのみ)
ギアボックス:8速デュアルクラッチ・オートマティック(四輪駆動)

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