
何かと心配が絶えない、ひとり暮らしをする高齢の親。知らぬうちにトラブルに直面してることも珍しくありません。何気ない日常に潜むリスクについて見ていきましょう。
穏やかな年金生活に潜んでいた小さな「違和感」
都内在住の高橋健太郎さん(50歳・仮名)。数年前に母親が亡くなり、車で片道2時間ほどのところにある実家には、父である勝さん(82歳・仮名)が一人で暮らしています。物価高が連日ニュースを賑わすなか、月16万円の年金で慎ましくも穏やかな日々を送っていると考えていました。
半年以上ぶりにあった勝さんは、顔色は良く、足取りもしっかりしているように見えます。しかし、健太郎さんはこの数ヵ月、父の様子に小さな変化を感じ取っていました。電話での会話がかみ合わないことが増え、同じ話を繰り返すことも多くなったのです。年相応のことだろうと自分に言い聞かせつつも、一抹の不安は拭うことはできず。そこで、仕事で実家近くに行くことを口実に、立ち寄ってみることにしました。
「親父、夏前にエアコンのフィルターを掃除してやるよ」
健太郎さんの提案に 「いや、大丈夫だ。まだそんなに汚れていない」というものの、 「すぐ暑くなるから。夏が来てからじゃ遅いから」と、半ば強引に実家に押しかけました。
健太郎さんはリビングでちょっとした違和感を覚えます。サイドボードの上に、見慣れない健康食品の瓶がいくつも並べられていたのです。どれも同じメーカーのもので、ラベルには「OOの恵み」「XXサポート」といった、高齢者の心をつかむような文言が並んでいます。
「親父、これ、どうしたんだ?」
「ああ、これか。体にいいと勧められてな。おかげで最近、調子がいいんだよ」
勝さんはそう言って笑いますが、その笑顔はどこかぎこちなさを感じます。家の中を注意して見渡すと、キッチンや寝室にも同じ種類のサプリメントや健康ドリンクが無造作に置かれています。その数は、一人で消費するには明らかに多すぎる量に感じました。
健太郎さんの胸騒ぎは、徐々に確信に変わっていきました。この家には、何か自分が知らない秘密が隠されている。そう直感したのです。
床下に隠されていた大量の段ボール…その数に絶句
「親父、床下の収納、最近見た? 湿気がこもってカビがスゴイことになっているって、テレビでやっていたぞ」
健太郎さんは、あえて普段は開けることのない場所の点検を提案しました。案の定、健太さんは「そこは大丈夫だから」「何も入っていない」と拒みます。その必死な姿に、疑念はさらに深まりました。
半ば強引に床下収納の蓋を開けた健太郎さんは、言葉を失いました。そこには段ボール箱、箱、箱。恐る恐る一つを手前に引きずり出してみると、側面にはリビングで見たものとまったく同じ健康食品メーカーのロゴが印刷されていました。さらに箱の隙間に無造作に挟み込まれていた、事務的な茶封筒が目に留まります。中から出てきたのは、何枚にもわたる明細書の束。そこに印字された数字を見た瞬間、健太郎さんの血の気が引きました。
「800,000円」「1,250,000円」――。
ゼロがやたらに多い請求額。
「親父……これ、全部そうなのか?」
問い詰める健太郎さんの声に、勝さんはうつむいたまま、か細い声で「ああ……」と答えるます。中身はすべて、高価なサプリメントや栄養ドリンクのセットです。とてもではありませんが、年金月16万円の父が、購入するはずのない金額でした。
高齢者を狙った健康食品の販売トラブルは後を絶ちません。特に、高齢者の場合、判断力の低下により、過量であることに本人も気づかないというケースも珍しくありません。
消費者庁『令和6年版 消費者白書』によると、高齢者の消費生活相談件数は増加傾向にあり、特に認知症を患っている高齢者本人がトラブルに巻き込まれるケースが増えているとされています。
健太郎さんが経緯を聞くと、「最初は親切な人からの電話で、断れなくて……」と勝さん。「1回だけ」と考えていたものの、それが定期購入の契約だったことを、あとで知ります。解約を申し出ても「もう次の分が発送準備に入っている」「解約するなら違約金がかかる」などと言われ、なすすべもなく商品を受け取り、支払いを続けていたのです。
公益社団法人日本訪問販売協会は、通常、過量には当たらないと考えられる分量の目安*として、健康食品では「原則、1人が使用する量として1年間に10ヵ月分」としています。
*この目安を超えた販売分量が直ちに過量に該当するものと考えるのではない
すぐに消費者ホットラインに電話し、地域の消費生活センターへ相談の予約を入れた健太郎さん。問題の解決に向けて動き出したといいます。
[参考資料]
公益社団法人日本訪問販売協会『通常、過量には当たらないと考えられる分量の目安について』
「通常、過量には当たらないと考えられる分量の目安」について

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