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 Datadogが2025年6月、米ニューヨークで年次イベント「DASH 2025」を開催した。オブザーバビリティ領域からスタートした同社は現在、セキュリティなど他領域にも事業を拡大しつつある。同イベントでも「Bits AI」ブランドでSRE、開発、セキュリティ分析を支援するAIエージェントが発表されたほか、内部開発者ポータル(IDP: Internal Developer Portal)も発表した。

 この記事では、会期中に開催された記者向けのラウンドテーブルで、Datadogの共同創業者でCEOを務めるオリビエ・ポメル氏が語った内容をまとめる。

売上高は25%成長、顧客数は3万社超えと好調なビジネス

 Datadogのビジネスは好調だ。2025年第1四半期(1~3月期)の売上は、前年同期比で25%増となる7億6200万ドルだった。現在の顧客企業は3万社以上を数え、そのうちARR(年間経常収益)10万ドル以上の大口顧客は3770社と、前年比で13%増加している。今年7月には「S&P 500」インデックスにも組み込まれた。

 同社では売上の約30%をR&Dに投資している。中でも「AIおよびAI周辺領域のビジネスが、今後数年間の市場成長を牽引する」(ポメル氏)という見方からAI投資には積極的で、「ほぼすべてのチームにAIイニシアティブがある」と説明した。

「AIインフラ運用」「モデル監視」「コード生成検証」と包括的なAI戦略

 注力するAIを、具体的にDatadog製品でどう活用していくのか。その問いに対しては“4つの切り口”を打ち出した。

 まずは「顧客のAIインフラの運用支援」だ。ポメル氏は、GPUやエンベディング専用データベースといった「“AI専用のクラウドインフラ”という新しいカテゴリが生まれつつある」ことを指摘する。今回のDASHで新たに発表した「GPUモニタリング」のように、AIインフラの設定とモニタリングを支援する機能を展開していく方針だ。「Datadogの顧客には、CursorなどのAIネイティブ企業が多い。AIインフラ支援の分野ではさまざまなことを行っていく」(ポメル氏)。

 2つ目は「モデルの監視」。ポメル氏は、AIアプリの“非決定論的な性格”(同じ入力を与えても、必ずしも毎回同じ結果が得られるとは限らない特徴)を指摘したうえで、「LLMを使ってアプリを構築する企業は、モデルの安全性を確認し、想定どおりに動いているかどうかを理解しなければならない」と述べる。Datadogでは昨年「LLM Observability」を発表したが、今回のイベントでは新たに「AIエージェントモニタリング」などを追加し、監視機能を強化した。

 3つ目は「コード生成でのAI活用」。AIによるコード生成技術が急速に進化/普及しているが、それに伴って「コードの検証、動作の安全性、開発者とのインタラクションといった点で、新たな課題が出てきている」と指摘する。「(コーディングの)パイプライン全体の再設計が求められている」(ポメル氏)。

 最後の4つ目は「これまで不可能だった作業の実現」だと述べた。具体的には、AIエージェントによる自律的なタスク実行を指している。

 「今年のDASHでは、『Bits AI SRE』『Bits AI Security Analyst』『Bits AI Dev』という3種類のエージェントを発表した。これまでは、何か問題が発生したときにAIが行動を起こすといったものだったが、よりプロアクティブに問題を防ぐ。(これらのエージェントは)ときには人の介入が不要なレベルにまで(自律性が)高まりつつある」(ポメル氏)

「将来の業務アプリケーションになる」AIエージェントの管理に注力

 上述のAIエージェントを構築するうえでは、複数のモデル(商用モデルと独自モデル)を組み合わせているという。さまざまなAIベンダーがモデル開発競争を繰り広げており、わずか2カ月で市場のリーダーも入れ替わるため、Datadogでも定期的に商用LLMの評価を行っているという。

 ちなみにDatadogでは、DASHの開催直前に自社独自モデル「Toto」を発表している。このモデルはオブザーバビリティ向けに構築されており、時系列データにおける異常検出や予測が可能だという。ポメル氏は「一般的な時系列予測で圧倒的な性能が出ている」と胸を張った。

 AIエージェントの将来像については、企業が現在使っているSalesforce、ServiceNow、SAPといったものは今後も残るが、「AIエージェントは将来の業務アプリケーションになる」との見解を示す。そのため、現在のDatadogがAPM(アプリケーションパフォーマンス管理)で提供している機能も、今後は「エージェントを理解して管理するサービス」に進化するだろうと予測した。「将来的に、企業は(アプリケーションとは異なる)新しい方法で、(エージェントを)構築したり、購入したり、実装したりするようになるだろう」(ポメル氏)。

 もっとも、アプリケーションと比較すると、エージェントはインフラの深いレイヤーまでアクセスできること、非決定論的な性格を持つため予測が難しいことなどの違いがある。そのため、今後は「権限管理を含むエージェント管理が重要になってくる」との見方を示す。

開発者向けのIDP参入、戦略転換ではなく創業時からの思想に基づくもの

 冒頭で触れたとおり、今回のDASHでは「Datadog Internal Developer Portal(IDP)」も発表されている。開発者向けのポータルとして、開発作業に必要なツールやリソースへの容易なアクセスを提供するインタフェースだ。これまで運用担当者を主なターゲットとしてきたDatadogにとって、IDPという開発者向けサービスは新しい境地となる。

 Datadog IDPには、所有者/稼働状況/他のサービスとの関連性などの情報が一目で把握できる「ソフトウェアカタログ」、テンプレートを使って開発者が自らインフラのプロビジョニング/サービスの作成/タスクのトリガといった操作ができる「セルフサービスアクション」、セキュリティスキャンやモニタリングの設定が組織の基準を満たしているかどうかを表示する「スコアカード」といった機能が備わる。

 ポメル氏は、開発者向けのIDPの提供も「Datadog設立時のコンセプトに基づくもの」であり、戦略上の変更ではないと強調した。

 「Datadogは、『関係者全員が同じページを見る』というコンセプトからスタートしたのであり、オブザーバビリティを目的にスタートしたのではない。開発と運用を同じプラットフォームに統合するところから、セキュリティエンジニア、プロダクトマネージャーなど、それ以外のペルソナにも(ユーザーを)拡大してきた。IDPの提供も、同じ思想に基づくものだ」(ポメル氏)

 同社の顧客の多くが、IDPを自社で構築したり、オープンソースツールBackstageなど)を導入したりしており、「Datadogのプラットフォームに組み込むことで、メリットが提供できると考えた」と、提供開始の背景を説明した。

 IDPを構築するメリットは、開発者が楽になることだけではないという。ユーザーが取得したメタデータ、手作業で作成したアーキテクチャ図やランブックなどがすべてDatadogに結びつくため、「エージェントを使ってクロールし、インシデント開発にも役立つ」とポメル氏は説明する。実際に、新機能であるBits AI SREエージェントも、アラートや稼働中のシステム状態を参照するだけでなく、ランブックやドキュメントなどの情報も取り込んで、意思決定を行う仕組みだという。

セキュリティ分野では「オブザーバビリティとの統合」に優位性

 Datadogでは、2019年にSIEM市場に参入。それ以来、セキュリティ分野の機能を拡充してきた。今回のDASHでも、先述したAIエージェントのほか、LLM Observability、Cloud Securityの一般提供開始、Cloud SIEM、Workloadなどを発表している。

 ただし、セキュリティ分野には多種多様なベンダーが参入しており、競合も多い。この点について、ポメル氏は「数百ものベンダーがそれぞれのアプローチで、セキュリティの未解決問題に挑んでいるが、顧客の最終課題を解決できているかというとそうではない」と指摘する。個々のベンダーが提供する製品のカテゴリが非常に狭い(限定されている)ため、顧客は多数の製品を購入しなければならず、製品間のギャップを埋めるのも顧客企業の担当者の役割になっている。

 このようなセキュリティ市場におけるDatadogのアプローチは「統合されたプラットフォームの提供」だという。セキュリティ対策に必要なシグナルはオブザーバビリティ機能から得ており、マシンやネットワークで何が起きているのか、ユーザーやエンジニアが何をしているのか、どんなコードがどこにあるのかなどが分かると、その強みを説明した。

Datadog CEO「オブザーバビリティをAI領域にも拡大」と戦略を語る