先週、147円台まで上昇し、円安の流れを強めたドル円。今週は、米国のインフレ動向を示す「CPI」と、週末に迫った「日本の参院選」という2大イベントが相場を揺るがしそうです。高値圏での推移が続くなか、ドル円はさらに上値を試す展開となるのでしょうか。マネックス証券チーフFXコンサルタント・吉田恒氏が解説します。

7月15日~7月21日の「FX投資戦略」ポイント

<ポイント>

・先週の米ドル/円は一段高。この間のコアレンジを上抜けたことで、さらに上値試し続く可能性あり。

・円売りの中心は、投機円「買われ過ぎ」の修正か。円買いポジションの損失転落で円売り拡大にも要注意。

・今週の米ドル/円は146~150円で予想。

先週の振り返り=147円半ばまで米ドル一段高

「関税ショック」以降のコアレンジを米ドル「上放れ」

先週の米ドル/円は、前週に予想外に強い米雇用統計の結果を受けて米金利が大きく上昇、それに連れて一段高となった流れを引き継ぎ、147円半ばまでさらに高値を更新する展開となりました(図表1参照)。こういったなかで、テクニカルに見ると新たに上値を試す流れに入ったようにも見えなくありません。

米ドル/円の週足チャートを見ると、4月のいわゆる「関税ショック」で一段安となって以降は、142146円をコアレンジとして、それを超えたところは上下の「ヒゲ」にとどまる方向感のない展開が続いていました。先週の米ドル/円の上昇により、そんなコアレンジを上抜けた形となったわけです(図表2参照)。

金利差からかい離した円安…原因は円「買われ過ぎ」の修正?

ただこの米ドル/円の上昇は、日米金利差(米ドル優位・円劣位)からはかい離したものです。日米2年債の利回り差からすると、145円以上の米ドル高・円安は「行き過ぎ」でしょう(図表3参照)。

このような金利差からかい離した円安はクロス円では米ドル/円以上に顕著になっています。ユーロ/円は6月に入ってから一段高となり、先週は172円台まで上昇しましたが、日独金利差はその間ほぼ横這いとなったため、金利差ではほとんど説明できない円安でしょう(図表4参照)。

このように金利差で説明できる範囲を超えた円安の理由として、円「買われ過ぎ」の修正は考えられるかもしれません。ヘッジファンドの取引を反映しているCFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋の円ポジションは、買い越し(米ドル売り越し)が過去最高を大きく更新し、一時17万枚以上に拡大しましたが、7月8日時点で11万枚まで縮小しました(図表5参照)。空前の円「買われ過ぎ」修正に伴う円売りが、金利差で説明できる以上の円安をもたらしている可能性は考えられなくないでしょう。

投機円買いポジション損失拡大の懸念=円売り拡大に要注意!?

そもそも例年、夏休みが近付く中で一方向に大きく傾斜したポジションが整理される傾向があります。それは最近の場合なら、大きく米ドル売り・円買いに傾斜したポジションを縮小させるということで米ドルの買い戻しとなっている可能性はあるでしょう。

ところで、このCFTC統計の円買いポジションの損益分岐点は120日MA(移動平均線)が目安とされますが、その120日MAは7月11日現在で147円ちょうどなので、それを超えて米ドル高・円安になってきたということは、円買いポジションが含み損に転落し始めた可能性を示しています(図表6参照)。

CFTC統計の投機筋の円買い越しは、5月初めに記録したピークの17.9万枚から、先週は11.6万枚まで縮小したものの、2024年までの買い越しの最高が2016年に記録した7万枚であり、それを大きく上回っているという意味では、まだ「行き過ぎ」が懸念される状況に変わらないと考えられます。その意味では、円安がさらに進み、円買いポジションの損失拡大懸念が強まるようなら、ポジションの手仕舞いに伴う円売りが一段と広がる可能性は要注意でしょう。

今週の注目点=CPI、小売売上高など米経済指標発表相次ぐ

懸念されたほど米経済悪化せず株高の流れは続くか

今週はCPI消費者物価指数)、PPI(生産者物価指数)といったインフレ指標、また鉱工業生産や小売売上高といった景気指標など、米国の注目度の高い経済指標発表が多く予定されています。

これまでのところ、トランプ大統領の関税政策の影響で物価上昇が再燃する一方で景気は減速するといった米経済の悪化への懸念は経済指標で確認されない状況が続いており、そういったことが米国株高の背景とも考えられますが、その流れに変わりはないかを見極めていくことになります。

また今週は、20日予定の日本の参議院選挙の直前週となります。これまでのところ連立与党が参院でも過半数割れとなり、石破政権交代の可能性も高いとの見方から、それを円売り要因とする見方もありますが、そういった流れが続くか否かも注目されることになるでしょう。

今週の米ドル/円予想レンジは146~150円

冒頭でも述べたように、テクニカルには「関税ショック」以降続いてきた142146円のコアレンジを米ドル「上放れ」となったことから、さらなる米ドル上値を試す展開が続きそうです。「関税ショック」以降の米ドル/円は149円を超えられない展開が続いたので、それを越えられるかが最初の大きな目安になるでしょう。

一方で、クロス円を中心に金利差から大きくかい離した円安には行き過ぎの懸念もあります。株安が拡大するようなら、そんな「行き過ぎた円安」の修正が入る可能性もあるのではないでしょうか。以上を踏まえ、今週の米ドル/円は146~150円で予想します。

吉田 恒

マネックス証券

チーフ・FXコンサルタントマネックス・ユニバーシティFX学長

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