「多文化共生が駄目だとは言いませんよ。けど、外国の資本とか移民に頼って国づくりをしていくのはおかしいって言っているんです」

参院選のラストサンデーである7月13日夜、参政党神谷宗幣代表は千葉県柏市の柏駅前で声を張り上げ、聴衆から歓声が沸き起こった。

定数3の千葉選挙区はこれまで、自民党が2議席、立憲民主党が1議席を分け合ってきた。しかし、石破政権への逆風が吹く中、自民が2議席を守るのは難しいとの見方が強い。

当初は国民民主党が3議席目を獲得するという前評判が高かったが、ここにきて参政党候補が急激な追い上げを見せており、議席獲得の可能性が高まっている。

自民党関係者からは「新興政党が定数3の選挙区に食い込んでくるなんて普通はありえない。大政党と渡り合うような勢力になっている」という驚きの声が上がる。

●「オーガニック」「反グローバリズム」で差別化

急速に支持を拡大する参政党。その背景には何があるのか。

筆者は2023年の統一地方選の際にも参政党を取材した。当時、約100人の地方議員を誕生させ注目を集めたが、その頃から力を入れ、他の政党と一線を画した政策の柱が「オーガニック」と「反グローバリズム」だ。

オーガニック」は、農薬や化学肥料に頼らない有機農業の推進を意味する。

参政党の「3つの重点政策」の1つ「食と健康・環境保全」には「化学的な物質に依存しない食」と明記されており、この政策にかなり力を入れていることがわかる。

参政党と言えば、もともとコロナ禍の中で反ワクチンを訴えていたことで注目を集めたが、こうした健康や食の安全に関する主張は、子どもの健やかな成長を第一に考える子育て世代に波及して、大きな運動につながっていった。

子育てに悩んでいるパパ友、ママ友に浸透していくことは、地域におけるコミュニティづくりにも直結する。

このオーガニック政策を中心に、全国各地で参政党の組織ができ上がっていき、そこから子育て中の母親で選挙に挑戦する人も出てきて、有権者の共感を得ていく。

こうした構図は、2023年の統一地方選の頃から見られていた光景だった。

●「維新」との差別化としての「反グローバリズム

だが、今の参政党の躍進はそれだけでは説明がつかない勢いがある。その理由に迫っていくために重要なのが、もう1つの政策である「反グローバリズム」だ。

具体的には、外国資本による企業買収や土地買収の規制、外国人労働者の受け入れ抑制などが挙げられるが、これらを打ち出した背景には、日本維新の会との差別化を図るという意味合いもあった。

今でこそ勢いに陰りが見えている日本維新の会だが、昨年の衆院選国民民主党が台頭するまでは、自民でも立憲でもない第三勢力と言えば維新と言われていた時期もあり、実際に2023年の統一地方選では約600人もの首長や地方議員を当選させた。

そんな維新の政策の柱は規制改革で、大企業など既得権益が牛耳ってきた業界の規制を見直して、新興企業による参入を進めて自由競争を加速させることによって、日本経済を再興させていこうという社会観があった。

しかし、そうした自由競争では外国資本がどんどん日本に入っていって、最終的には外国に侵食されてしまうかもしれない。

そのような不安に応えるかたちで、維新に対する「アンチテーゼ」のように政策を打ち出したのが、参政党だったのだ。

●「日本人ファースト」が有権者の不安に刺さる

当時、参政党関係者は取材に「現在の保守政党はどこもグローバリズムを容認したうえで国際競争力を高めようとする新自由主義的な考え方だが、参政党はもっと保護主義的な立ち位置を取っている」と語っていた。

この「反グローバリズム」は、現在の参政党キャッチコピーである「日本人ファースト」というスローガンに直結する。それが、有権者が抱えている不安に刺さったと言えるだろう。

近年では、ロシアによるウクライナ侵攻を機に原油価格が高騰し、世界的な物価高が発生。各国が物価高対策のために高金利政策に舵を切る中で、低金利を続けてきた日本は乗り遅れて円安による物価高を招いた。

世界経済の荒波に日本が吞み込まれたような形だが、さらに去年から今年にかけては「令和の米騒動」が発生。主食として国産のお米を食べることもままならない状態が続いている。

●身近に外国人が増えたことへの不安も背景

かたや、埼玉県川口市クルド人などの外国人コミュニティをめぐる議論も沸騰している。

そもそも、日本政府は人口減少が進む中、特定技能制度の拡大によって外国人労働者をどんどん受け入れる「事実上の移民政策」を取っており、2024年の日本人の人口は前年と比べて89万8000人減った一方で、外国人の人口は34万7000人も増えた。

2024年の外国人による犯罪件数は2万1794件で、ピークである2005年の4万7865件から大幅に減少しているものの、直近2年間では増加傾向にある。

円安によるインバウンド増加によるオーバーツーリズムも全国的に問題となっており、最近では、外国人による交通事故を防ぐために、政府が外国免許切替制度の厳格化を打ち出した。

実際に外国人がどれだけ日本の治安を乱しているかは議論があるが、ただ、身の回りに外国人が増えたことによる不安感、体感治安が悪くなっていると感じている日本人は少なくないだろう。

参政党の躍進が示すもの

厚労省は、2070年には日本の人口が現在の約3分の2となる8700万人にまで減少すると推計しているが、外国人が占める割合は全体の1割、つまり10人に1人が外国人になるとしていて、軋轢はさらに強まっていくことが予想される。

リベラル勢力は「共生社会」を掲げて外国人との融和を図るが、そういった綺麗ごとでは済まない社会情勢に突入することも考えられるだろう。

こうした不安や不満が席巻する中で、参政党の主張が大きく共感を集めるようになり、これまで党が全国各地に根付かせていった組織の力と相まって、政治的なうねりになったと言える。

もちろん、外国人労働者の数を抑えていくのならば、足りない労働力はどのように補っていくのか、日本の人口が急激に増えることは考えにくく、参政党の主張にもさまざまな課題がある。

しかし、現在の自公政権のままでも、本当に日本が持続可能な国づくりができるのかは疑わしい。

人口減少という現在進行形の国難の中で、日本はどのような社会を目指していくべきなのか──。

参政党の躍進は、そうした問いを私たちに突きつけているのかもしれない。

(記者VTuberブンヤ新太)

参政党の「日本人ファースト」はなぜ刺さる? 支持率急伸が映す有権者の不安