接待交際費は代表的な経費項目でしょう。ただ、この接待交際費について知らないと損をする“落とし穴”が潜んでいることは意外と知られていないようです。今回、税務調査に特化した税理士法人松本の代表税理士である松本崇宏氏が、知らないと税務調査で指摘されてしまうかもしれない「接待交際費」計上のポイントを詳しく解説します。

接待交際費と領収書の関係

まず、接待にかかった費用は、接待交際費として計上する場合と会議費として計上する場合があります。1人あたりの金額によって、接待交際費として扱うのか、会議費として計上するのかが変わってくるのです。

接待交際費として計上できる金額とは

接待交際費は、経費として計上することが認められています。個人事業主の場合は、接待交際費に上限は設定されていません。しかしながら、法人の場合には接待交際費として計上できる金額には上限があります。法人の接待交際費の上限額について確認していきましょう。

資本金100億円を超える企業の場合

まず、期末の資本金の額や出資金の額が100億円を超える企業の場合、接待交際費は一切、経費として認められません。

資本金が1億円を超え、100億円以下の企業の場合

期末の資本金の額や出資金の額が1億円を超え、100億円以下の企業の場合、接待交際費として計上できるのは、接待交際費のうち、飲食がともなう費用の50%までです。

資本金が1億円以下の企業の場合

期末の資本金の額や出資金の額が1億円以下の企業の場合、経費として計上できる接待交際費は、次のいずれかの額となります。

  1. 接待交際費のうち、飲食に関連する費用の50%
  2. 年間800万円

接待交際費として計上できる1人あたりの額

接待交際費に関連するルールは2024年に改正されています

2024年3月まで、接待を伴う飲食を行った場合、接待交際費として計上できるのは1人あたりの飲食費が5,000円超となるケースと決められていました。

しかし、2024年4月から、接待交際費として認められるのは1人あたりの飲食費が1万円超になる場合と改正されています。

交際費等の範囲から除かれるもの……飲食その他これに類する行為(以下「飲食等」といいます。)のために要する費用(専らその法人の役員もしくは従業員またはこれらの親族に対する接待等のために支出するものを除きます。)であって、その支出する金額を飲食等に参加した者の数で割って計算した金額が10,000円以下である費用(注)

(注)令和6年3月31日以前に支出された飲食等に係る費用についての基準金額は、5,000円以下になります。

国税庁「No.5265 交際費等の範囲と損金不算入額の計算」より抜粋

接待交際費として計上できない額

接待交際費として計上できるのは、取引の関係者をもてなすために支払ったお金が対象です。したがって、従業員のためだけの食事会や社員旅行などは、接待交際費としては計上できません。

また、接待交際費のルールの変更にともない、1人あたりの金額が1万円以下の接待費用は、接待交際費として計上できなくなりました。しかし、この場合は会議費用などの勘定項目を使い、経費として計上することが可能です。ただし、この規定を適用するためには、次の事項を記載した書類を保存しておかなければなりません。

  • 飲食のあった年月日
  • 飲食等に参加した得意先、仕入先その他事業に関係のある人の氏名や名称、関係性
  • 飲食に参加した人数
  • 飲食にかかった費用、飲食店の名称、所在地
  • その他飲食に要した費用であることを明らかにするための事項

領収書には人数を書かないといけない?

取引先を含めた飲食費であって、1人あたりの金額が1万円以下であるものについては、上にご紹介した内容を記載した書類の保管がなければ、経費計上が認められません。そのため、接待交際費として処理する場合も、会議費として処理する場合も領収書には人数を書いておいたほうが安心でしょう。

人数が記載されていないと接待交際費なのか判断できない

領収書に人数を書かなければならないというルールがあるわけではありません。しかし、領収書には金額のみが記載されており、参加者の人数が記載されていることはありません。そのため、参加人数によって1人あたりの飲食費が変わり、接待交際費として扱うのか、会議費として扱うのかを領収書だけでは判断できないのです。

たとえば、5万5,000円の飲食費の領収書があった場合、取引先も含めた参加人数が5人だった場合、1人あたり1万1,000円の飲食費を使ったということになるため、接待交際費として計上できます。

しかし、参加人数が6人だった場合、1人あたりの飲食費は9,166円となり、接待交際費からは除外されます。したがって、領収書に人数を記載する、または領収書に参加人数を記載したメモを付けないと、1人あたりの金額を算出できないのです。

領収書にウソの人数を書く理由

前述のように、接待交際費には上限額が設定されています。一方で、会議費には上限額が設定されていません。1億円を超え100億円以下の資本金の企業の場合、接待交際費として計上できる額は、接待飲食費の50%までです。仮に、800万円の接待飲食があった場合、経費として計上できる額は半分の400万円までになってしまいます。

そのため、なかには、クライアントを接待し、飲食をした費用を全額経費計上しようと、会議費として扱いたいと考える企業も出てくるでしょう。接待飲食にかかった費用を経費として計上できれば、所得額から経費を差し引けるため、所得額の圧縮にもつながります。

そこで、飲食の場に参加した人数を偽り、1人あたりの飲食費が1万円以下になるよう調整をするケースがあるのです。領収書に実際の参加者よりも多い人数を記載すれば、1人あたりの飲食費が1万円以下となり、会議費として全額、経費として計上できるようになってしまいます。

領収書にウソの人数を書いたら税務調査でバレる?

領収書にウソの人数を書き、1人あたり1万円を超える飲食費を1万円以下に見せかける行為をした場合、税務調査で不正がバレることになるでしょう。

まず、税務署では、申告書の内容をチェックし、なんらかの不正やミスをしているという疑いを抱く納税者を、税務調査の対象として選ぶ傾向にあります。なぜなら、正しく申告をしている納税者に対して調査をしても、不正を正すことはできないからです。

提出された申告書の内容を見た場合、接待交際費の額は少ないものの、同業や同程度の規模の他者と比べ、会議費の額が大きすぎる場合などは、不正を疑われる可能性があります。

税務調査が実施される際には、領収書まですべてチェックされると考えておいたほうがよいでしょう。もし、領収書に記載されている人数が疑われる場合、どのような目的で開催された食事会だったのか、参加した人数だけでなく、参加者の名前まで確認される可能性があります。

参加者の名前や食事会の開催目的などについて、スムーズに答えられない場合、不正をしているのではと捉えられる可能性が高くなります。その場合には、領収書に記載されているお店や参加したと主張する人が所属する取引先などに、調査が及ぶ可能性もあるのです。

飲食費の領収書にウソの人数を書いた場合は、かなりの確率でバレると考えておいたほうがよいでしょう。

ウソがバレるとどうなる?

領収書にウソの人数を記載して、接待交際費として計上すべき額を会議費として計上していた場合、不正に納税額を低く見せかける行為となります。その場合、次のようなペナルティを課せられる可能性があります。

修正申告を求められる

税務調査によって、領収書にウソの人数を記載したことがバレると、指摘事項を修正し、正しく申告をし直すよう求められます。この申告内容を修正する行為を修正申告といいます。

繰り返しになりますが、法人の場合は接待交際費として計上できる額には上限があります。そのため、申告修正を行い、本来は接待交際費として計上しなければならない費用を会議費として計上すると、会議費として不正に計上していた分が減り、納税額が不足する場合があります。

資本金が1億円を超え100億円以下の場合、接待交際費として計上できる額の上限は、接待飲食費の50%です。

資本金2億円の企業が、領収書にウソの人数を記載するなどして、接待交際費として計上すべき2,000万円を会議費として計上していたと仮定します。この場合、修正申告を行うと、接待交際費のうち、経費として計上できる額は1,000万円となります。

そのため、課税所得額が1,000万円増加します。課税対象となる所得額が増加すれば、当然、課せられる税金も増えるため、納税額が不足する事態になるのです。

過少申告加算税が課せられる

申告内容に誤りがあり、納税額が不足していた場合、ペナルティとして過少申告加算税が課せられます。

過少申告加算税の税率は原則、不足分の税金に対し、50万円以下の部分については10%、50%を超える部分については15%です。したがって、税務調査時に不正や誤りを指摘され、修正申告を行うと、不足分の税金に加え、ペナルティ分の税金の納税も求められ、本来よりも多い税金の支払いが必要となります。

悪質な場合は「重加算税」が課せられる場合も

重加算税とは、悪質な仮装隠蔽行為が見られた場合に課せられるペナルティです。

領収書にウソの人数を記載し、経費を偽る行為は、単純に仕訳の方法を間違えたといったミスではありません。接待交際費として計上すべき額を会議費として計上するために領収書にウソの参加人数を記載するという不正行為です。

そのため、場合によっては過少申告加算税ではなく、より税率の重たい重加算税が課される可能性もあります。

過少申告加算税に代えて課せられる場合の重加算税の税率は原則、35%となります。

延滞税が課される

延滞税とは、納税が遅れたことに対する利息の意味合いを持つ税金です。延滞税は、納税が完了するまで、日割り計算によって課され続けるという性質があります。

一般的に税務調査では、1年分だけを対象に調査を行うことはありません。基本的には過去3年分、誤りや不正がバレた場合には、5年または7年分の調査が行われます。したがって、税務調査で領収書の人数の不正がバレると、最大7年分についての税務調査が行われ、最大で7年分の延滞税の納税が求められる可能性があるのです。

延滞税の税率は、2022年から2025年12月31日までのあいだは、納期限の翌日から2ヵ月を経過する日までが年2.4%、納期限の翌日から2ヵ月を経過する日の翌日以降については年8.7%です。7年分の延滞税となると、かなりの高額になる恐れがあるでしょう。

取引先からの信頼を失う可能性もある

領収書にウソの参加人数を書き、会議費として計上していたことが税務調査でバレると、取引先からの信頼を失う可能性もあるでしょう。

領収書に記載された参加人数に疑いがある場合、調査官は取引先に対して反面調査を行う可能性があります。反面調査を拒否することはできません。

また、税務調査のように事前通知のあとで反面調査が行われるわけではないため、取引先に迷惑をかける恐れもあります。

そのため、領収書の参加人数を偽るという不正がバレると、取引先との信頼関係が崩れ、事業の売上にもマイナスの影響を与える可能性もあるのです。

税務調査で領収書の人数を指摘されないためには

少しでも納税額を低く抑えたい、会社の利益を高めたいと考えるのは、当然のことです。しかしながら、接待飲食費に関連する領収書の参加人数を偽る行為は、不正行為に該当します。

不正が税務調査でバレると、追徴課税がなされるだけでなく、取引先からの信頼を失墜する恐れもあるなど、さまざまなリスクが生じます。

税務調査で領収書の人数について指摘をされないためには、正しく経費を計上することが大切です。取引先と開催した食事会の領収書には、参加人数や参加者の名前、参加者の所属、参加者との関係、食事会の開催目的を記載したメモを一緒に保管しておくようにしましょう。

1人あたりの飲食金額が1万円以下であることが証明できれば、会議費として計上していても、税務調査で指摘を受ける恐れはありません。

不要な疑いを抱かれないためにも、日頃から取引先との食事会などに関連する領収書には、人数を含め、記載しなければならない事項を忘れずに記載しておくことが大切です。

接待交際費→会議費への“偽装”は絶対NG

法人の場合、接待交際費として計上できる額には上限があります。また、1人あたりの接待飲食費が1万円以下であれば、会議費として計上が可能です。そのため、1人あたりの金額が1万円以下になるよう、領収書にウソの人数を書き、何とか会議費として経費を計上しようとするケースがあります。

しかし、領収書に不正な人数を書いた場合、税務調査でバレるリスクが高くなります。税務調査で不正がバレると、追徴課税がなされ、本来よりも多くの税金を支払わなければならなくなる恐れがあります。加えて、取引先からの信頼を失う可能性もあるなど、大きなリスクが潜んでいます。

接待飲食費の領収書にウソの人数を書く行為は不正行為です。飲食に関連する領収書には参加人数だけでなく、参加者の名前なども正しく記載したメモを付けるようにしましょう。

松本 崇宏

税理士法人松本 代表税理士

お客様からの税務調査相談実績は累計5,000件以上。国税局査察部、税務署のOB税理士が所属し、税務署目線からの視点も取り入れ税務調査の専門家として活動。多数の追徴税額ゼロ(いわゆる申告是認)の実績も数多く取得。

税理士法人松本

税務調査特化税理士法人として全国6ヵ所(渋谷、錦糸町、新宿、横浜、柏、大阪)にオフィスを構え、“成功報酬型”税務調査サポートを提供する税理士事務所では国内No.1の規模を誇る。国税局に勤めていた、いわゆる「国税OB」が複数名所属。税務調査相談実績は累計5,000件以上。一般業種より税務調査が厳しいといわれる風俗業界の税務に10年以上特化し、追加徴税額ゼロ円の実績も多数。

(※写真はイメージです/PIXTA)