
東工大(現:東京科学大学)発のベンチャー「ディーウェザー」が、地上から100〜200メートル程度以下の地上付近の気象現象「微気象」のリアルタイム予測に成功。そのデータを実生活に役立てる取り組みにチャレンジし注目を集めている。
市区町村単位という狭い範囲の情報でも手軽に取得できる気象情報だが、特定の建物周辺や特定の道など、さらに狭いエリアの気象情報も存在する。
それが「微気象」と呼ばれるもの。東工大(現:東京科学大学)発のベンチャー「ディーウェザー」では、「微気象」のリアルタイム予測を行い、そのデータを実生活に役立てる取り組みを行っている。
そもそも微気象とは?
「微気象」とは、建物や人間活動などへの影響が強い、地上から100〜200メートル程度以下の地上付近の気象現象のこと。
一般的な気象情報、いわゆる天気予報と比較すると、低高度かつ狭い範囲での気温や風などの環境情報を指す。
例えば、新宿区の中心エリアで気温がどれだけ上昇しているのか、丸の内パークビル周辺ではどれだけ強い風が吹いているのかといった、限られた狭い範囲での環境情報を知ることができる。
「微気象」を調べることで、「このビルの周辺は暑く感じる」、「この場所は涼しい」といった「なんとなく」を「見える化」できる。
世界で初めて微気象のリアルタイム予測に成功
微気象の予測は「MSSG(メッセージ)」というマルチスケール大気海洋モデルで行う。「MSSG」は、空間解像度が1~数10km単位の「気象情報」から、1~数10mの「微気象」までシミュレーションできる世界唯一の気象モデル。JAMSTEC(海洋研究開発機構)で開発が始まり、2005年からは東京科学大学教授を務める「ディーウェザー」の大西領代表が主要開発者となっている。
「MSSG」では建物、樹木、人工廃熱のほか、3次元の熱放射の影響を考慮した微気象のシミュレーションが可能。他にも風向・風速や、樹木があることでどのように太陽の光が遮られ、熱が放射されるのかといった情報を可視化できるのが特徴。
しかし、従来のシミュレーション方法では、1時間先の微気象を予測するのにスーパーコンピューターでも3~4時間かかるという課題があった。いくら信頼性の高い情報であっても、それだけ時間がかかるとリアルタイムで活用することは不可能だ。
そこで大西代表らは、深層学習技術を用いたシミュレーション研究に取り組み、大幅な時間短縮に成功。性能の良いPCであれば、なんと1分程度で高解像度予測が可能になったという。
その後、2023年に「ディーウェザー」を企業。現在は「ディープテック分野での人材発掘・起業家育成事業(NEP)躍進コース3000」の補助金を活用して、世界初となる「リアルタイム微気象予測基盤」の開発に取り組んでいる。
「リアルタイム微気象予測」が日常にもたらすもの
大西代表は「リアルタイム微気象予測をクラウドサービスにし、現在の天気予報のように、微気象を確認したいエリアを押すだけで情報が取得できるようになることを目指しています」と話す。つまり「微気象予測のインフラ化」だ。
もし、「リアルタイム微気象予測」がインフラ化した場合、私たちの生活にどのような変化があるだろうか。
大西代表によると、「例えばドローンです。リアルタイム微気象予測で風の強さや向きを確認しどのようなルートを飛べばより安全なのか分かるようになるでしょう。日常の安全・安心という意味では熱中症対策にも役立ちます。何かイベントを開催する際、事前に微気象の予測データを確認しておくと、あらかじめ安全対策が可能になります」という。
一般的な天気予報では「晴れ・28度」と表示されていても、ビル周辺や通りなど場所場所で日差しや風量、気温など環境が大きく異なる。例えば、同じエリアでも熱中症リスクに差が生じるのだ。
そこで微気象のリアルタイム予測を活用すれば、「どのようなルートを歩けばできるだけ涼しく移動できるのか」といったことが分かるようになる。「渋滞を回避するルート設定」をするように、ナビアプリで「できるだけ涼しいルート」という案内ができるようになるかもしれない。
他にもビルの設計や店舗の出展など建築、いわゆる「街作り」、エネルギー分野での活用も期待できる。
インフラ化すればさまざまなサービス・機器との連携も可能になる。例えば、微気象予測を基に洗濯機が洗濯時間の提案をする――といった新しい家電が誕生する可能性もあるだろう。
微気象予測で環境と調和した未来を作る
今後のビジョンについて、「ディーウェザー」で事業開発を担う小西亮平取締役は「微気象は今後の拡大・成長が期待される分野です。私たちと同じビジョンや意欲を持つ技術者・研究者の方と協力、連携して微気象のリアルタイム予測をインフラ化したいです」と話す。
また大西代表も「微気象はもともと熱中症の研究から始まったものです。日本は熱中症のリスクが高いので、なんとかその課題を解決できないか取り組んだ研究です。そこから生まれた技術で世界をリードして、いつかは環境と調和した未来を作りたいと思います」と意気込みを語った。
「ディーウェザー」は世界で初めて微気象のリアルタイム予測に成功し、さらにインフラ化を目指している注目のスタートアップ。深層学習を利用した気象予測に対する周囲の期待も高まっており、今後の展開に注目だ。

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