「もし介護が必要になったら、自宅で過ごしたい」――そう願う人は少なくありません。しかし、その思いと現実の間には、大きなギャップがあることをご存じでしょうか? 本記事では、山口一夫氏の著書『シニアライフの人生設計』(ごきげんビジネス出版)より、著者の実体験とともに介護施設の実情を解説していきます。※記事内の体験談や数値(施設待機者数など)は、著者自身の2011年頃の体験に基づくものであり、現在の制度や各施設の状況とは異なる場合があります。

圧倒的に多い「介護は自宅でしてほしい」の声

あなたは将来、自分に介護が必要となったとき、どこで介護を受けたいと思いますか? 厚生労働省平成29年版高齢社会白書による「日常生活を送る上で介護が必要になった場合に、どこで介護を受けたいか」を見ると、60歳以上では男女とも「自宅で介護してほしい」人が最も多く、男性42.2%、女性30.2%と男性のほうが自宅での介護を希望する割合が高くなっています。

自宅以外では「介護老人福祉施設に入所したい」(男性18.3%、女性19.1%)、「病院などの医療機関に入院したい」(男性16.7%、女性23.1%)、「介護老人保健施設を利用したい」(男性11.3%、女性11.2%)が多くなっています。

あなたは「介護老人福祉施設」と「介護老人保健施設(老健)」の違いをご存知でしょうか? いちばんの違いは、老健が高齢者のリハビリを目的とした短期間(通常3〜6か月)の入居に対して、介護老人福祉施設は一度入居すれば終身利用が可能なことです。

2つの施設はとてもうまく連携しています。私の父もその連携に助けられました。

通常は、自宅で介護を受けていた高齢者がなんらかの病気で入院をすると、1〜2週間で筋肉が衰えてしまい、リハビリの治療なくして自宅へ戻ることはほとんど不可能となります。

父は熱中症が原因で入院となりましたが、入院中に地域包括支援センターからの紹介で退院後に老健へ入りました。しかし、短期間しか入所できないため、そのあいだ、自宅に戻るか、介護老人福祉施設へ入るか、決めなければなりません。父の場合は介護老人福祉施設を探すこととなりました。施設を探すにあたり、地域包括支援センターから2つの大切な助言を受けました。

1つ目は、父に介護認定を再度受けさせ、当初の要介護1よりも介護度の高い認定を取得すること。これはあとでわかったことですが、介護度が高い人のほうが優先的に介護老人福祉施設へ入れる仕組み(入所のためのポイント計算式)となっているためです。

2つ目は、人気の高い特別養護老人ホーム(特養)の場合、入所待ちの人が何百人もいるため、できるだけ多くの施設を訪問して入所申請書を出すことでした。

待機者が多い特養に入れたワケ

介護認定について、父の場合は熱中症で一時的に弱っていたこともあり、病院で再認定を受けた結果、要介護5の認定を受けることができました。介護老人福祉施設への申請については、民間の施設と特養のなかから27施設を選び出し、今後検討を進めやすいように一覧表を作成。

一覧には、

1.施設名

2.地域

3.住所/電話番号

4.施設の定員

5.担当者名

6.現在の待ち人数

7.申請年月日

8.現在の父の待ち順位、

9.施設情報(開所年度、施設の雰囲気、現入所者たちの状況、従業員の教育レベル)

などを書き込めるようにしました。

私たちの第一希望は、父が住んでいた市内にあるA特別養護老人ホーム(以下、特養A)でした。2011年の11月3日に入所申請書を提出したところ、11月末時点の待機者が426人いるとのことでした。私たち家族にとって特養Aは、立地、施設、従業員のレベル(質)、費用、などすべての面で第一志望でしたが、待機者が多いため入所はあきらめていました。ところが、12月に入ると特養Aから「至急、父や私たち家族と面談したい」と連絡が入ります。その時点の待ち順位は426人中28番目といわれました。

ここで覚えていただきたいことは、待機順位は単純な申請順位ではなく、提出した申請書を施設側が審査したあとに決まることです。何やら待機順位を決める計算式があるようで、介護候補者の年齢、介護度(要介護1〜5)、病気の有無、現住所(施設と同市か否か)、などから加点・減点されて最終的に決まるようです。

後日、父と私たちは30分ほどの面接を無事に終え、幸運にも第一希望の特養Aから入居承諾の連絡を受けました。結局、私はそれから父を約7年間支援して91歳で見送りました。

この経験から皆さまにお伝えしたいことは、要支援者や要介護者を一生懸命に支援することも大切ですが、決して無理はしないことです。つまり、難しいことはプロにまかせるくらいの割り切りも大切です。そのほうが、介護を受ける側も、支援する側も、心にゆとりができて長続きするものだと経験から考えるようになりました。

最後に、施設の選択に際しては、できるだけ足を使って施設の環境やサービスの実態を確認することが大切です。施設のハード面の良し悪しだけでなく、サービスや従業員教育の質なども確認しましょう。とくに開設3年未満の場合、施設は新しくて綺麗ですが、従業員の人数が十分でないことや、教育が行き届いていないこともあるため注意が必要です。

平成29年版高齢社会白書、第2節高齢者の姿と取り巻く環境の現状と動向、2高齢者の健康・福祉 https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2017/zenbun/pdf/1s2s_03.pdf 2024年9月アクセス

山口 一夫 ライフデザイン講師