三井住友銀行三井住友カードが提供するモバイル総合金融サービス「Olive(オリーブ)」は、前倒しで黒字化も果たして好調だ。直近の利用数は600万を突破しており、さらなる新サービスとして個人のローンサービス「マネーアシスト」の提供を開始するなど、さらなる攻勢を仕掛けている。

○さらなる機能向上でサービスを強化

Oliveは、2023年3月にスタートし、「総合金融サービス」として口座、決済、証券、保険といったあらゆる金融サービスが1つのIDとアプリで利用できる点が特徴で、三井住友カードマーケティング本部長の伊藤亮佑氏は、「敷居が高いといわれる金融サービスが、1つのアプリで簡単に便利に、安心して使ってもらえて、結果としてお客様の生活が豊かになるお手伝いができるというコンセプト」と話す。

2025年3月に500万アカウントを突破し、取材時点(7月15日)までに600万を突破。伊藤氏は、「SMBCグループのサービスだけでなく、SBI証券やライフネット生命といった業界ナンバー1のパートナーと最高のラインナップを目指す」という戦略が奏功していると指摘する。

直近では、マネーフォワード(2024年12月)、Vトリップ(2025年3月)、PayPay(2025年5月)、Olive Infinite(2025年6月)と矢継ぎ早に機能追加の発表をしており、新たなマネーアシストの提供でローン機能も統合する。

銀行口座の利用者は、給与口座、住宅ローン口座など、用途ごとに複数の口座を使い分けており、Olive以外の口座も利用している例が多い。そうしたユーザーに対してOliveへの統合を促すのは難しいとして、複数口座を使いやすくするマネーフォワードとの提携を行った。

他社・他行の口座残高や明細を取得してOliveのアプリ上に表示し、さらに証券口座を含む他行の口座間でも残高の移行を、マネーフォワード経由で行えるようにする計画。

複数口座をOlive経由で扱えるようにすることで、結果としてOlive口座からの預金流出も考えられるが、伊藤氏はそれ以上に、Oliveを中心に預金が行き来する「粘着性の高さ」がメリットにつながるとの考えを示す。

PayPayとの提携では、Oliveの技術的な特徴であるフレキシブルペイを活用。これはデビットカード、クレジットカード、ポイント払い、キャッシュカードという4つの機能を1枚のカードで実現するというもので、今後、新たにPayPay残高による支払いモードを追加する。

これまでOliveは、国際ブランドを使ったカード決済は世界中で行えたが、現在の日本では「カードのみ」「複数決済が可能」という加盟店に加え、「PayPayのみ」という加盟店も多い。そうした加盟店でもOliveが活用できるように、PayPayOlive口座を接続してチャージや出金の優遇を行うことで、無料で入出金できるようにする。

こうした取り組みによって、PayPay加盟店ではPayPayで支払いをして、割り勘をしてPayPayに送金された残高をOliveに出金する、PayPay残高を海外のカード加盟店で利用する、といった使い方を可能にする。

こうした提携以外にも、Oliveの機能向上を継続する。現在は口座、決済、証券の機能がOliveに統合されているが、「その他の金融商品がまだ揃っていない」と伊藤氏。

住宅ローンや外貨、カードローンなどの機能がないのが課題だと伊藤氏は話す。そうした課題に対応する新サービスとして提供されるのが「マネーアシスト」だ。これは、Oliveに統合されたスマホローンサービスで、調査で浮かび上がったユーザーのお金に関する不安を踏まえて開発されたサービスだ。

これまで、ローンやリボ、分割払いといったファイナンスを利用したことのある人は14%にとどまっており、65%の人は使ったことがなかった。それに対して、お金のやりくりに不安を覚える人は7割に達していたという。

ローンの利用に関しては、恐い、不安といった感覚を抱えている人が多いというのが現状だと伊藤氏。そうした中でお金に困った時の対処としては、「支出を我慢する」「貯蓄を切り崩す」「積立を止める」といった行動が多いという。

特に後者2つの行動について伊藤氏は「もったいない」と話し、安心して使えるローン商品が必要と判断した。以前はクレジットカードも「恐い・不安」という声が多かったが、最近は多くの人が一括払いなら安心して使えるようになった。

そうした習慣をローン商品にも取り込めないかと開発したというのがマネーアシストで、5万円までであれば無金利で借入可能で、翌月に一括払いで返済するという商品設計となっている。

1カ月に5万円以内であれば、何度でも借り入れが可能で、翌月は金利もかからずに一括で返済されるため、クレジットカードの支払いのようにローンを組むことができる。利用はすべてアプリ上から行える。

臨時で数万円が必要なときに、余裕がないので貯蓄や積立を取り崩すよりは、一時的に借り入れをして、翌月返済するならば、金利も発生しないのでメリットがある。Olive口座に入金されるため、たまたまカードの返済が多かった月に、リボ払いにするよりは借り入れをして翌月に回す方が金利的にも有利、といった使い方も考えられる。

月会費や初回などの条件もなく、5万円までとはいえ何度でも金利が発生しないというのは国内初のサービスだと伊藤氏は言う。

なお、フレキシブルペイクレジットモードやマネーアシストの翌月の返済時に口座残高が足りない場合に、全額をカードローンの借入枠として自動で借り入れして返済するバックアップ機能を設定することもできる。こちらは18.0%の金利が発生するが、あくまでオプション。バックアップ機能を設定せずに残高が不足した場合は、通常の延滞時の対応となる。
○幅広い年代で拡大するOlive、さらなる一手は

Oliveの利用者層を見ると、新規口座開設の半数が20代以下と若い層が多いが、Olive開始前後の新規口座開設数だと、40代以上は伸び率が高くなっており、幅広い年代に支持されている。完全な新規口座の開設と、既存の三井住友銀行口座の移行は「半々ぐらい」(伊藤氏)だという。

40代以上からの声を集めると、「Oliveに資産を預けたいけれどもメリットが少ない」「カード利用が多いけどプラチナリファードでは不十分」といった声があったという。

これに対して、最上位サービスとして「Olive Infinite」を提供。特に「抜群の経済価値」をアピールしており、ゴールドカードで最大1万円のところ、最大11万円の還元を提供する。証券口座のカード積立ではゴールドが最大3.0%の還元だが、その倍となる最大6.0%の還元率を誇るサービスとなっている。

他にも「異次元の多様な経済価値」として、コンシェルジュデスクやプライオリティパス、アートや食の体験イベントやサッカーなどの世界的な大会への招待といった様々なサービスも用意する。

富裕層の資産活用において、人に相談したいというニーズも残っているとして、「フレキシブルコンサルティング」も提供する。有人・無人、対面・非対面とチャンネルを選択し、さらに税務や不動産といった従来の銀行ではなかった相談も専門家チームが対応することで、様々な相談に答えられる体制を整える。

こうしたOliveのサービスは、メガバンクを抱えるSMBCグループという金融グループが提供するという点も1つの特徴だ。様々な決済・金融サービスがアプリ1つで利用できるというものだと、PayPayや楽天ペイメントなどもあるが、祖業が通信だったりECだったりと、コア事業が金融ではない場合も多い。

Oliveのコアは金融サービスであり、非金融サービス単体で収益を上げるというよりも、利用者の利便性やメリットを向上させて金融サービスの収益拡大につなげる戦略だ。こうした観点から選ばれているのがVトリップヘルスケアポータル、Vふるさと納税といったサービスなのだという。

Vトリップのような旅行サービスはクレジットカードと相性がよく、ラウンジや旅行保険といった特典は定番のもの。旅行のために口座に貯金をするという人も多いとのことで、Oliveとの相性の良さから選ばれた。

ソフトバンクとの提携によるヘルスケアポータルの提供では、「金融とヘルスケアで距離があると感じるかもしれない」と伊藤氏。しかし、「老後不安」のアンケートでは1位と2位で「健康」か「お金」が上げられることから、近しい関係にあるというのが伊藤氏の考え。

Vふるさと納税は、口座や決済との相性もよいが、「銀行の本分の1つである地域の魅力を伝えること、地域の活性化に貢献する」という目的にも沿ったサービスだと伊藤氏は説明する。

Oliveのサービス自体は、「2020年頃から検討してきた」と伊藤氏。当時はマイナス金利だったため、預金を集めることによる利益に頼らずに収益化できるサービスを検討してきたという。結果として、プラス金利になったことで早期の黒字化にも繋がったが、Oliveとしては金利以外の収益を重ねることで事業を拡大していきたい考え。

三菱UFJフィナンシャルグループも新たな金融サービスとして「エムット」を発表しており、Oliveに追随してきたが、伊藤氏は業界の活性化でメガバンクにとってはプラスの影響があると見ている。

今後はさらに住宅ローンなどの提供も考えられる。これまでネット専業銀行が強かった分野でもあるが、Oliveの新規口座開設で20代以下が多い点も踏まえたサービスを検討し、Oliveならではのサービスを提供していきたい考えだ。

小山安博 こやまやすひろ マイナビニュースの編集者からライターに転身。無節操な興味に従ってデジカ、ケータ、コンピュータセキュリティなどといったジャンルをつまみ食い。最近は決済に関する取材に力を入れる。軽くて小さいものにむやみに愛情を感じるタイプ。デジカメ、PC、スマートフォン……たいてい何か新しいものを欲しがっている。 この著者の記事一覧はこちら
(小山安博)

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