
映画『ジョン・ウィック』シリーズの最新作『バレリーナ:The World of John Wick』が8月22日に公開だ。新しいノンストップ・キリングアクションと、危険だが魅力的なアンダーグラウンドの世界を心待ちにする人は多かろう。映画公開までに過去作を再度鑑賞するのもよいが、ビデオゲームで似たようなシチュエーションを味わうのも乙である。ちょうど良いタイミングだ。6月21日に発売した『Suit for Hire』(Steam)で、ノンストップ・キリングアクションの主役になろう。
(関連:【画像】ジョン・ウィックになりきれ! 暗殺アクション『Suit for Hire』のスクリーンショット)
主人公は「スーツ」と呼ばれる暗殺者である。タイトルのとおり、雇われたスーツは近接格闘術とピストルの合わせ技「ガン・フー」を駆使して仕事をこなす。パワーアップ要素は一切なし。最初から強い主人公がスキルで戦い抜くゲームだ。
上から見下ろす画面で主人公は小さいが、戦闘中のモーションはまさにジョン・ウィックでなじみ深い。ショットガンでふっとび、刀で切断欠損するなど、リアクションが細かく効果音も心地よい。どこかしら見覚えのあるロケーションにもニヤニヤできる。物騒なクラブから美術館、豪邸での大立ち回りだ。それっぽいサントラも加わり、銀幕チックな暗殺者の世界をかもし出す。
これだけ映画っぽく作ってあるのだから、押し寄せる敵の数も映画級である。そして主人公はバットでも銃弾でもくらえば死ぬ。手に汗を握るアクション映画を自分でプレイするとすぐにやられてしまうのは当然だ。だからこそ、一瞬を生き抜くことに没頭できる。その先に仕事を終えた静寂があり、ジョン・ウィックになりきれたカタルシスがある。
■一流暗殺者の視点にようこそ
『Suit for Hire』の特色はトップダウン画面とサードパーソン画面の切り替えである。この視点変更はゲーム中の演出ではなく、プレイヤーが任意で切り替えできる。視点を使いこなすとサードパーソンシューターの利点が加わるのである。「スーツ」と呼ばれる暗殺者ならではの視点だ。
トップダウン画面はカメラが上から主人公を見下ろす。周囲の敵位置がわかるので、見えない位置からの攻撃を避けるアクションを再現できる。壁の向こうの敵も見えているので、ドアごと撃ち抜いて倒すのもカンタンだ。しかし、この視点では画面外の敵を攻撃できない。そんなときにサードパーソン画面へ切り替えよう。主人公を発見できていない、無防備な敵の群れを狙撃できるぞ。
攻撃面は達人だが耐久性はもろい。基本的には1発で死ぬ。本作はステージクリア型で敵配置が決まっており、何度も死んで敵の不意打ちや増援を覚えていくゲームだ。ここで、敵配置を覚える過程に視点変更が役立つ。シーンごとに使う視点を考えると、敵配置を自然と覚えられるのだ。死に覚え以外でも攻略できるのはありがたい。
本章で紹介した視点切り替えは他のゲームにもあるが、敵配置が視点切り替えに無頓着だという作りの粗さが独自のプレイ感を生みだしている。画面外への先制攻撃はプレイヤーの特権なのだ。エイムアシストもあわせて活用してもらいたい。ハードコアなトップダウンシューターを、画面外の敵を攻撃するルール破りで生き延びよう。
■スーツはこだわりのオーダーメイドで
前章で述べた視点切り替えをはじめ、スキルは多数用意してある。その一方で、スキルをすべて使うように強いていない。敵より早く撃ち、敵の攻撃をよければ何とかなる。あとはおまけなのだが、プレイヤーが腕前にあわせて使うスキルをチョイスすると自分好みの画面映えを得られる、というのが面白い。なりきりアクションとして遊びやすいのだ。
さすれば、どこまで“なりきれるか”が見どころとなろう。そこはスキルの複合技でカバーした。ドッヂボタンを長押しするダイビングは跳躍中に銃を撃てる。ガードする相手はキックで崩すもよし、つかんでもよし。つかみからは敵の攻撃を防ぐ盾にもできるし、壁にぶつけることもできる。そうした複合スキルにモーションが用意してある。
ただし、そのスキルをすべて使うには指が足りない。デフォルト設定のボタンアサインが使いづらい、というのも難易度に輪をかけている。ゲームの作りが粗いといえばそれまでだが、偶然にも操作系を作る遊びを生みだした。アクセスしやすいボタンに使いたいスキルを割り当てる。これは、パークスロットにスキルを割り振るのとほぼ同義だ。
弾が切れる、敵に囲まれる、こうしたピンチで生存力が試される。そして失敗を通じて自分の欠点に気付くのだ。欠点を補うスキルをボタンに割り振る。操作系を何度も組み直す。こうしてスーツと呼ばれる暗殺者はオーダーメイドの操作系を得て、自分で描いたアクション映画の主役になるのである。この、なりきりアクションの過程はオンリーワンのプレイ感だ。
■欲を言えば、欺瞞も絆も欲しかった
『Suit for Hire』はB級アクション映画ならではの風味がつまったトップダウンシューターだ。プレイヤー自身が欠点を知る成長を経て、殺しのスタイルを確立していくのがたまらない。視点切り替えやキーアサインの作りが粗い、という偶然が功を成した体験なのだが――アクションにこだわったから幸運をつかめたのだ。
もちろん作りの粗さが万事に良く働いたワケではない。ゲームボリュームの配分には難がある。全7章の第2章までは物語を感じさせるステージ順で、ボス戦も用意してあるが、残り5章はそれらがない。尻すぼみ感がいなめない配分だ。スーツの世界を堪能できるストーリーも欲しかった。とはいえ、アクションは一級品なのでB級アクション映画に求めるモノは満たしている。
あとはどれだけ殺しのスキルを楽しめるかにある。その仕掛けが、各ステージのチャレンジ、カッコイイアクションで敵を倒す目標だ。達成するとコスチュームを入手できる。ジョン・ウィックっぽいコスチュームの他には、ビデオゲーム界の暗殺者エージェント47、白タキシード&蝶ネクタイのジェームズ・ボンドなど、袖を通したくなる衣装が用意してあるぞ。仕事のスタイルをきめて衣装を整えたなら、あとはカメラを回すのみ。アクションシーンを撮る遊びにふけろう。よーい、アクション!
(文=野村光)

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