
本稿では、ニッセイ基礎研究所の上野剛志氏が、緊迫化する中東情勢が及ぼすドル円への影響について詳しく解説します。
ドル円143~145円へやや円安に
2025年6月の月初に1ドル143円台半ばでスタートしたドル円は、足元で145円台前半とやや円安に振れている。堅調な米雇用情勢を受けたドル買いや、米中貿易枠組み合意を受けたリスク選好の円売りに加え、直近では米利下げ観測がやや後退し、ドルの支援材料になった。6月のFOMC後のパウエル議長会見で早期利下げに慎重な姿勢が維持されたためだ。
日米中央銀行ともに、トランプ関税を巡る不確実性の高さを理由に様子見する方針を示唆していることから、今後数カ月はドル円の方向感が出にくそうだ。そうしたなかで、米国と一部主要国との協議が進展して関税の緩和が行われたり、相互関税上乗せ分の発動が再延期されたりすることで、リスク選好的な円売りが優勢となる場面が想定される。
ただし、関税の劇的な緩和は見込みづらいうえ、米経済指標において関税の悪影響が次第に顕在化してくることや、大規模減税法案を巡って米財政赤字への懸念が燻ることなどがドル高の進行を阻む。従って、3ヵ月後の水準も現状並みの1ドル145円前後と予想している。
なお、6月にイスラエルとイランの軍事衝突が勃発し、緊迫感が高まっている。中東情勢が緊迫化した際のドル円への影響を考えると、センチメントの面では、緊迫化に伴って「リスク回避の円買い」と「有事のドル買い」が発生しやすくなり、両者の力比べとなる。最近ではドル買いがやや優勢になっている。一方、原油価格上昇を通じて原油のほぼ全量を輸入する日本の貿易赤字拡大に繋がることは実需の円売り材料になる。実際、2022年にはウクライナ侵攻を受けて原油が急騰したことが急激な円安の一因となった。中東情勢の緊迫化が長引き、原油価格が上昇・高止まりすれば、円安材料として存在感を高めていく可能性が高い。
6月月初1.5%近辺でスタートした長期金利は、足元で1.4%台前半とやや低下している。超長期国債の発行減額への思惑や中東情勢の緊迫化に伴う安全資産需要などが金利を抑制した。
ただし、今後も長期金利は高止まりそうだ。一部主要国の関税緩和などを受けてリスク選好的な債券売りが予想されるほか、参議院選を巡って国債増発が意識されやすいためだ。粛々と進む日銀の国債買入れ減額も債券需給緩和に働く。内外の景気減速懸念が金利を一定程度抑制するものの、3ヵ月後の水準は1.5%前後と予想している。

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