節約以外にお金を貯める方法はあるのか。桶井道、堀田孝之『時をかける貯金ゼロおじさん 35年前に戻った僕が投資でゆっくり「億り人」になる話』(KADOKAWA)より、主人公のシンジに投資を教える会社の先輩とのやりとりを紹介する――。

■節約から次のステップへ

シンジは、投資について学ぶべく、桶狭間先輩に連絡をとった。

アンティークのテーブルとソファが並んだ「喫茶ぱにぱに」の店内は適度に薄暗く、お客もまばらなので、ここなゆっくり話ができそうだ。シンジは節約生活がうまくいっていることを伝え、いよいよ投資について教えてほしいとお願いした。

「投資信託がある!」

「なんですか、それ」とシンジは聞いた。

「複数の投資先、つまり多くの企業がひとつにパッケージ化されている商品が投資信託だ。たくさんの企業の株式が入った幕の内弁当のようなイメージだね。投資信託は、投資のプロが優良企業を選択して運用してくれるもの。だから安心。投資信託を購入すれば、そこに組み込まれている株式などに一括で投資することができるんだ。投資信託は個別株と違って、100円からでも投資できる。だから、まとまったお金は必要ない」

「そんないいものがあるんですか!」

「うん。だからシンジくんは、ネットで証券口座を開設して、NISA口座(詳しくは本書247ページ参照)のつみたて投資枠で、投資信託を毎月9万円の積立で購入する。それを35年間、続けていく。そうすれば資産はおのずと1億円になるだろう」

「マジですか⁉」

「マジです。たとえば、毎月9万円を35年間貯金したら、9万円×12カ月×35年=3780万円にしかならない(無利息と仮定)。一方、毎月9万円を積立投資して、年率5%で35年間複利運用したら、1億225万円にもなる」

「す、すみません! 複利って何ですか?」

■複利の魔法が資産を増やす

桶狭間はiPadの画面をシンジに見せた。そこには右肩上がりのグラフがある。

「複利とは、利子にもまた利子がつくこと。たとえば、100万円を投資して年率5%で複利運用できた場合、1年間で5万円の利子を受け取ることができる。そのまま放置しておくと、今度は100万円ではなく105万円に利子がつくため、受け取れる利子は5万2500円に増加する。その翌年の利子は5万5125円になる。これを長期にわたって継続して、さらに毎月の積立で元本を増やしていくと、利子は雪だるま式に増えていくんだ」

「ただし、これはあくまでシミュレーションだから。実際には、毎年必ず得をするわけじゃないからね。投資は損する年もある」

■時間が味方する長期投資

「複利の恩恵は、運用期間が長ければ長いほど享受することができる。グラフを見てもらえばわかるように、時間が経てば経つほど、運用益がググっと上がっているのがわかるだろう。これは複利のパワーが働いているからなんだ。

だから、君のように投資期間を長くとれる人は、複利の力を活用しない手はない。まとまったお金がなくても、長期にわたって投資信託をジャスト・キープ・バイイング(買い続ける)すれば、複利パワーで億り人になれるわけ。その際、途中で投資信託を換金してしまうのは厳禁だ。せっかくの複利の恩恵がそこで止まってしまうからね」

「すげえ! 複利ってすげえっすね! 長期投資したくなりました! あと、いくつか質問してもいいですか!」

「どうぞ」

「証券口座って、楽天証券とかSBI証券とかマネックス証券のことですよね」

「そう。他にもいくつかあるけど、ホームページを見て、自分が使いやすそうなものを選べばいいよ」

■口座開設は意外と簡単

「なるほど。次にNISAについてです。実はまだよくわかってなくて」

NISAって難しいことは何一つなくて、端的に言うと、NISAの口座を使えば、投資で儲けた利益に税金がかからないんだよ。NISA以外の口座で利益を上げると、約20%が税金で持っていかれてしまう。けれどNISAならゼロ円。だったら、NISAを使わない理由はひとつもない、って話。細かいことは他にもあるけど、あとは投資を始めてから自分で学んでいけばいいよ」

「え、それだけの話なんですか!」

「うん。証券口座を開設すれば、NISA口座を開設する方法はすぐにわかる。口座開設にはマイナンバーカードか、もしくはマイナンバー通知カード運転免許証などが必要だから手元に用意してね。手続きはネットで完結するし、簡単だから」

「なんだ! そんな単純な話だったんですか。すぐに開設して、投資信託を購入したいと思います!」

1週間後――。

「桶狭間先輩! ネット証券でNISAの口座を開設しました。投資信託を買おうと思ったのですが、いろいろありすぎて、何を購入していいかわかりません!」

「この間、チラッと口走ったはずだけど、メモはしてなかったようだね。

僕が提案するのは、結論から言うと、次の3つだ。

・米国株に投資するタイプ(S&P500)
先進国株に投資するタイプ(MSCIコクサイ)
・全世界株に投資するタイプ(オール・カントリー)

すべてインデックス型の投資信託(インデックス・ファンド)だね。これら3つに投資するインデックス型の投資信託をいろんな会社が出しているけど、その中から手数料が安くて、ファンドの規模が大きいものを選ぶといいよ。

そして、選んだ投資信託を毎月買い続ける積立投資をしよう。貯金にまわしていた9万円を毎月投資にまわすこと。

NISAの「つみたて投資枠」を利用すれば、年間120万円(生涯1800万円)まで投資できる。この投資で生まれた利益は非課税。つまりお得なんだ」

■日本株を買うのはダメなのか?

「毎月買い続ける以外は、何もしなくていい。株価、いや投資信託の価格は正式には『基準価額』っていうんだけど、わかりやすくするためにあえて株価って言うね。株価が下がったからといって、売ってしまうのは絶対にご法度。長期的には株価は上がっていくのだから。

そして、給料が上がったり副業で稼いだりして資金に余裕が生まれたら、投資額をどんどん増やしていこう。ボーナスとか残業代が多ければ、ぜひとも追加投資しよう。そうすれば、資産はさらに増えていく。そのまま老後までジャスト・キープ・バイイングだ」

「ちょ、ちょっと待ってください。いろいろ理解が追いついていなくて。どうして日本株じゃなくて、米国株とか先進国株とか全世界株なんですか? それにインデックス型とか意味不明なんですけど。お願いですから、話を端折(はしょ)らないで進めてもらえますか」

「解説しマッスル!」

「そういうのはいいんで、ポージングとかもいらないんで、続きお願いします」

「はい……」

■「ノーアメリカ企業デー」をやってみた

桶狭間先輩は、ひとつ咳払いしてから続けた。

シンジくんはなぜ、日本株がいいと思うんだい?」

「アメリカの会社ってよく知らないですし。アップルやグーグルくらいしかわからないです。だから、日本の会社のほうが安心なのかな、と」

「冗談よしこさん!」

「……」

桶狭間先輩は、ふたたび咳払いして続けた。

「そんなことを言う君は、アメリカ企業の製品やサービスを利用しない日を1日体験してみるがいいよ。明日は、ノーアメリカ企業デーだ。何かを利用するときは、それがどこの国の企業の製品やサービスか調べてみて。アメリカだったら使ってはダメ」

「え! めちゃくちゃ面倒くさいんですけど。アメリカの会社が良いってことはわかりましたから、話を進めましょう」

「いやダメ。実感してもらわなきゃ」と桶狭間先輩はガンコだ。

仕方なくシンジは、翌日の土曜、「ノーアメリカ企業デー」を試してみることにした。

朝起きてシンジは、パジャマからナイキのTシャツに着替えた。歯みがきの後、リステリンをブクブクやって口臭ケアをした。

念のためスマホで調べると、ナイキリステリンのメーカーであるケンビューもアメリカ企業だった。仕方なくユニクロのTシャツに変更した。口臭ケアについては許してほしい。

■スマホはもちろん、洗濯もコーヒーも「アメリカ」

いや、待てよ……。今何気なくスマホで調べたけれど、iPhoneのアップルってアメリカ企業だし、検索に使うグーグルだってアメリカ企業じゃないか。使えないじゃん。いや、それではアメリカ企業かどうかを調べる術がなくなる。

そこでシンジは、アメリカ企業かどうか調べるために、iPhoneでグーグル検索することだけは許してもらう独自ルールを打ち立てた。すでに、アメリカ企業抜きでの生活ができてないじゃないか! と自分にツッコミつつ、この「ゲーム」を続けることにした。

天気が良かったので洗濯でもしようとすると、持っていた洗剤のメーカーはP&Gだった。アメリカ企業のため、洗濯ができなかった。

腹が立ってきたのでダイソン掃除機で部屋の掃除をした。まさかと思い調べると、ダイソンシンガポールの会社だということで、かろうじて良しとした。仕上げにファブリーズをカーテンやソファーに噴射しようとするも、これもP&Gだったためあきらめた。

部屋にいるとアメリカが邪魔をしてくるため、駅前のスターバックスで投資の勉強をしようと思った。スタバの前に到着するも、「アメリカじゃん!」ということで、日本企業のドトールコーヒーに変更した。

コーヒー代をビザカードのタッチ決済で払おうとするも、ビザはアメリカ企業だった。やむなくシンジは現金で支払った。

■アメリカ企業の圧倒的な存在感

シンジノートパソコンは日本メーカー製なので使用できる。しかし、Windowsはマイクロソフト製品である。パソコンの利用は一切不可能となった。

仕方ない。スマホでインスタでも見るか。「だからiPhoneは使えないって!」と再ツッコミした。仮に日本製のアンドロイドスマホだったとしてもグーグル製のOSだからアメリカ企業だし、インスタグラムもXもアメリカのサービスなので、使うことができない。

何もかもイヤになったシンジは、マクドナルドでビッグマックコカ・コーラを買おうとしたが、当然NG。どちらの企業も日本法人があるにせよ、大元はやはりアメリカだ。

もうこの街から抜け出して、飛行機に乗ってどこかに旅立ちたいと願ったが、飛行機はアメリカのボーイングかヨーロッパのエアバスがつくっている。

アメリカ企業がなければ、シンジはどこにも行けず、何もできず、めちゃくちゃ不便であることを痛感した。不便どころか、製品の部品や原材料などまで見ていけば、アメリカ企業なしには生きていけないだろう。

アメリカありがとう。アメリカすげえ。シンジはアメリカ企業の強さを思い知った。

■時価総額ランク30社で日本企業はゼロ

数日後、「喫茶ぱにぱに」――。

桶狭間先輩はシンジの「ノーアメリカ企業デー」の話を聞いて、ケラケラ笑った。本当にまじめに取り組んだことがおもしろく、また素直なシンジの性格に好感を持った。

「実際に体感してもらったように、アメリカ企業は強力なブランド力を持っているし、イノベーションを起こすのも決まってアメリカ企業なんだ。アメリカ企業は世界中に市場を持ち、その商品やサービスをグローバルスタンダードにして、資本主義経済のトップを走り続けている。

その証拠に、世界の企業の時価総額ランキングで、30位以内にアメリカ企業は24社も入っている。時価総額とは、『株価×発行済株式数』で算出する数字で、企業の規模を評価する指標のひとつなんだ。現在、日本企業は上位30位に1社も入っていない。

アメリカ企業はガバナンス(企業統治)やコンプライアンス(法令遵守)の面でも世界的に評価が高く、プロの経営者も多い。さらに株主還元の意識が高いため、投資家は安心して投資できる環境が整っている。『会社は株主(投資家)のもの』という考えが強いんだ。

こういったさまざまな長所があるから、アメリカ企業は過去数十年、他国に比べて優位なパフォーマンスを示してきたんだ。」

■日本株との圧倒的な差

「たとえば、1990年1月から2022年8月までの、S&P500と日経平均株価のパフォーマンスを比較してみると、日経平均株価は成長していないのに対し、S&P500は12倍ほどに成長している。直近数年だけで見ると日本株は好調だけど、長期で見ればちょっと違った光景が見えてくるんだ。

米国株が優位な状況は、今後も変わることはないと思う。日本をはじめ人口減少や高齢化に悩む先進国は経済成長にかげりがあるけど、アメリカは依然、移民の流入などによって人口が増え続けている。だから、経済もますます発展することが見込まれるんだよ。

アメリカは基軸通貨のドルを持っていて、世界最強の米軍もあって、GDPも世界トップ。食料やエネルギー面で自給率が高く、国として強いのも大きい。

そして、S&P500という株価指数が優秀なんだ。赤字企業は採用されないなど厳しいルールがあって、採用されたとしても業績が悪化したら容赦なく外されてしまう。新陳代謝があって、常に優良企業だけが採用されているってわけ。

日経平均株価とかTOPIXは、赤字企業でもそれだけでは除外されないんだよね」

■新興国の成長も見逃せない

「アメリカって、まだまだ成長を続けている国なんですね。投資すべき理由がよくわかりました。でも先輩、アメリカ以外の国を無視してもいいのでしょうか?」

「いい視点だね。バブル崩壊以降、日本が長く経済の低迷にあえいでいる間に、経済成長した国もあって、日本のGDPは中国とドイツに抜かれて世界4位になった。近くインドにも抜かれると見られている。こうした経済の低迷は、少子高齢化が進んで人口が減少している国ではある程度仕方がないこと。

でも一方で、世界には今まさに人口増加や経済成長期を迎えている国が多くある。少し前の中国、今はインド東南アジア諸国、中東諸国、これからはアフリカの国々が世界経済の中で存在感が増してくるだろうね。

こういった新興国も視野に入れて、アメリカだけでなく世界中の国々に分散して投資するのもひとつの手だよ。世界中の国々の株に分散投資する投資信託は、オルカン(オール・カントリー)と呼ばれている。

もちろん、オール・カントリーだから、アメリカ以外の先進国も含まれている。日本もね。世界中に優良企業はたくさんあるからね。もし世界に投資したいけど、新興国は除きたい場合は、先進国株を選べばいい」

「納得できました。俺も米国株かオルカン、先進国株のどれかにします!」

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桶井 道(おけい・どん)
投資家(投資歴20数年)・物書き(著書6冊)
2020年に47歳で資産1億円+年間配当(手取り・以下同)120万円とともに25年間勤務した会社を退職して自由になる。それから4年で資産1.8億円+年間配当250万円まで成長させる。投資先は世界各国の高配当株、増配株、ETF、リート、投資信託など幅広く100銘柄以上持つ。現在は、両親の介護・見守りをしつつ、単行本や連載などを通じて投資に関する情報を発信している。著書に、『月20万円の不労所得を手に入れる! おけいどん式ほったらかし米国ETF入門』(宝島社)、『お得な使い方を全然わかっていない投資初心者ですが、NISAって結局どうすればいいのか教えてください!』(すばる舎)、『資産1.8億円+年間配当金(手取り)240万円を実現! おけいどん式「高配当株・増配株」ぐうたら投資大全』(PHP研究所)、『普通の人のための投資 いちばん手軽で怖くない「ゆとり投資」入門』(東洋経済新報社)、『時をかける貯金ゼロおじさん 35年前に戻った僕が投資でゆっくり「億り人」になる話』(KADOKAWA)などがある。(プロフィールイラスト=西田ヒロコ)

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堀田 孝之(ほった・たかゆき
ライター、編集者
ブックライター、書籍編集者1984年山梨県出身。横浜国立大学中退、日本映画学校卒業後、いくつかの出版社を経て独立。著書に『こども天風哲学』(オレンジページ)、『気がつけば警備員になっていた。』(笠倉出版社)、共著書に『決定版 中村天風の教えがマンガで3時間でマスターできる本』(明日香出版社)、『交通誘導員ヨレヨレ漫画日記』(三五館シンンャ/フォレスト出版)、『アニメができるまで』(飛鳥新社)などがある。

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Anne Boonkerdthinthai