海外移住に興味はあるものの、国やタイミング選びで悩んでいませんか。本稿では、ドバイ在住の投資家が、住まい・仕事・投資など5つの目的別に国を使い分ける「5フラッグ理論」を解説。あなたに最適な移住先と節税にも繋がる、移住のベストタイミングを見つけるための具体的な方法を解説します。

日本人が「長期滞在先で住みたい国」はアジアが人気

2022年には日本人の海外移住者数が55万人を超え、過去最高を記録しました。その後もこの数字は年々増加傾向にあります。しかし、日本人が永住を目的として選ぶ国と長期滞在として選ぶ国は、実は異なる傾向があります。

まず、2022年に日本人が移住先として選んだ国のランキングを見るとアメリカ(約22万人)、オーストラリア(約6万人)、カナダ(約5万人)、ブラジル(約4万人)、イギリス(約2万7,000人)と、英語圏への移住が多いのが特徴です。

一方で、長期滞在者を含めた海外在留日本人の数ではアメリカに次いで中国、オーストラリア、タイ、カナダと、アジア圏の国々がランクインしています。この背景には、長期滞在の場合、日本への帰国が前提となるため、食文化などが似ているアジア圏を選択する人が増えているためだと考えられます。

海外移住をするのであればタイミングが重要

海外移住の目的は節税や教育、ビジネスなどさまざまですが、もし本気で海外移住するなら、年初ではなく年末に移住するのがおすすめです。なぜなら、住民税が課税されなくなるからです。

住民税は1月1日時点で住民票があった場所に課税されるため、12月31日までに国外へ出国し住民票を抜いておくことで、翌年の住民税納付書が届かなくなり、住民税が課税されなくなります。

住民税は年収の約10%を占めるため、高所得者にとっては大きな負担となります。もし年収1億円なら、約1,000万円が住民税となる計算です。会社を何億、何十億円で売却して個人にそのお金が入った場合でも、高額な住民税が課税されることになります。そのため、海外へ移住することは節税につながるのです。

ただし、実際に海外へ居住せずに住民票だけを抜くことは避けましょう。行政側は「本当に海外に居住しているか」は調べればすぐに把握できるためです。

芸能人が正月にハワイ旅行に行くのは住民税逃れ?

以前、芸能人がよく年末年始にハワイ旅行に行くのは、12月31日までに国外へ出国し住民票を抜くことで住民税を支払わずに済む、つまり節税のためではないかという噂がありました。

政治家の竹中平蔵氏もまた、年末に日本の住民票を抹消し、アメリカに拠点を移し、しばらくして日本の住民票を再登録するという手法を繰り返し、住民税の支払いを免れていました。

この手法は「竹中平蔵スキーム」と呼ばれ、国会で「住民税不払いが脱税に当たるのではないか?」と追及されました。しかしアメリカでの生活の実態があったため、脱税とはなりませんでした。竹中氏自身も、ある対談の中で、「海外での生活基盤があることを前提に、減税のために海外で過ごすのがいい」と話しています。

「理想の国は存在しない」 だからこそ5フラッグ理論を活用せよ

海外移住先に関して結論からお伝えすると、自分の理想が完璧にかなう国はありません。そしてどの国であっても不便なところはありますが、長く住むことで「住めば都」と感じられるようになります。そのため自分の好きな国に住むのが一番だと考えています。

筆者個人的に、最初の海外移住先としては、生活習慣が似ているマレーシアやタイがおすすめです。

人生のすべてを一つの国に依存するのではなく、5つの目的によって国を使い分けるノウハウを「5フラッグ理論」という選択肢もあります。この理論は、海外移住を検討している人にとって国選びの参考となるでしょう。5つの目的は以下の通りです。

① 住む国(住所がある国)

世界の常識では「国籍=住む国」ではありません。筆者の経験でも、ドバイの語学学校では、モロッコ人でありながらフランス生まれ、国籍はアメリカだが別の国で生まれた、といった多様な背景を持つ人々が多数在籍していました。日本人がマレーシアに移住すれば、住む国はマレーシアですが、国籍は日本のままです。このように、国籍と住む国が別であることは、今や世界の常識となりつつあります。

また、国籍によって税金の納め方が異なります。アメリカ人やフィリピン人には「全世界課税」という、世界中どこに住んでいても自国で税金を納めなければならないルールがあり、これは「属人主義」と呼ばれます。反対に、アメリカとフィリピン以外の国籍の場合、住所がある国に税金を納めることが多いです。これは「属地主義」と呼ばれます。つまり、国籍によって、国籍のある国に税金を支払うのか、現在住所がある国に支払うのかの違いがあるということです。

② ビジネスをする国

日本人が日本だけでしかビジネスを行ってはならないというルールはありません。例えば、日本人でもドバイで法人を設立して、仮想通貨事業を立ち上げ、コインを発行する事業を展開する人がいます。

なぜドバイ法人を立ち上げたのかというと、ドバイはクリプト(暗号資産暗号通貨の略称)の法整備が日本に比べて比較的緩く、ルールも整備されているからです。つまり、ビジネスをする国は日本だけでなく、海外法人を利用したり、税金の安い国や法整備の整っている国を選ぶのも賢明な選択です。

③ 投資する国

投資は経済成長が著しい国で行う方が大きなリターンを得られます。日本に住みながらドバイの不動産に投資したり、アメリカやインドの株を購入して運用したりすることができます。また、日本は投資に対する税率が高く、例えば不動産投資をする場合でも固定資産税や不動産取得税など多くの税コストがかかります。一方で税コストが少ない国もあるため、そういった国で合理的に運用していくこともおすすめです。

④ 国籍がある国

パスポートの発行国が国籍のある国です。中でも日本のパスポートは、世界で最も多くの国に入国できる「最強のパスポート」として知られています。しかし、今や国籍はお金で買うことができますし、現在の国籍を放棄して別の国籍を取得することも可能です。つまり、自分の国籍は自分で選ぶことができる時代なのです。

⑤ 余暇を過ごす国

余暇を過ごす国は「自分が何をしたいのか」によって選びます。例えば、ゴルフが好きな人はいつでもゴルフができる場所を選んだり、海が好きな人はハワイサムイ島などを選んだりするのもよいでしょう。

5フラッグ理論で「世界を使いこなす」

自分の人生を「5フラッグ理論」に当てはめることで、移住先に5つの選択肢を持つことができます。もし今すぐ日本を離れることが難しい場合でも、国籍は日本に置きながら、投資先はドバイを選び、余暇はハワイで過ごすといった選択も可能です。

また、マレーシアに居住しながらドバイで不動産投資をするなどもおすすめです。国籍や住む場所に縛られない、新しいライフスタイルを実現していきましょう。

(画像はイメージです/PIXTA)