
「◯◯党の◯◯さんが駅前で選挙演説をするから、聞きに行ってほしい」
仕事中に管理職から"サクラ"として演説を聞くよう要請されたという相談が、弁護士ドットコムに寄せられました。相談者は、断れば今後の仕事に影響するかもしれないと思い、しぶしぶ駅まで足を運んだといいます。
相談者によると、勤務先の会社は、その政党とつながりがあり、会社のイベントにその政党の議員が出席することもあったそうです。
業務命令に見せかけた"政治活動の強制"とも受け取れるこのケース。会社の管理職が部下に特定政党への関与を求める行為は、法的に許されるのでしょうか。今井俊裕弁護士に聞きました。
●強要があれば憲法や公選法に違反の可能性──職場で特定政党や候補者の演説を聞きに行くよう、上司に「指示」された場合、それに従う義務はあるのでしょうか。
選挙に関連して、特定政党の候補者の演説を聞きにいくよう求める会社の指示に、法的な強制力はありません。
そもそも、こうした行為が労働契約上の「業務」に含まれることはなく、そのような命令は無効です。
さらに、従業員には憲法19条で保障された思想・信条の自由があります。特定政党の演説を聞くかは、あくまで個人の自由であり、たとえ勤務先であっても強制は許されません。
加えて、演説を聞くことを実質的に強要した場合、公職選挙法に違反する可能性もあります。
──では、従業員に有給休暇をとらせたうえで、その休暇中に政治活動をさせることは可能でしょうか。
有給休暇は、従業員が労働から離れて自由に使える時間であり、会社が休暇中の従業員に特定の活動を命じることは認められません。
●断ったことによる不利益は違法──もし従業員が断ったことで不利益を受けた場合、どうなりますか。
演説を聴きに行くように命じられた従業員が、これを拒否しても、その命令自体が無効であるため、これを理由に懲戒処分を下すことはできません。
また拒否したことを人事考課において不利に扱うことも違法です。
さらに、こうした無効な命令が繰り返されれば、嫌がらせやハラスメントと評価される可能性があります。度が過ぎる場合には、会社に損害賠償などの法的責任が生じることも考えられます。
【取材協力弁護士】
今井 俊裕(いまい・としひろ)弁護士
1999年弁護士登録。労働(使用者側)、会社法、不動産関連事件の取扱い多数。具体的かつ戦略的な方針提示がモットー。行政における、開発審査会の委員、感染症診査協議会の委員を歴任。
事務所名:今井法律事務所
事務所URL:http://www.imai-lawoffice.jp/index.html

コメント