
伝統という言葉で括られがち
今回の主役は『レンジローバー・スポーツSVエディションツー』だ。
【画像】前作は即完売!ランドローバー・レンジローバー・スポーツSVエディションツー 全53枚
クラシック・レンジローバー初期の2ドアモデルやディフェンダーを名乗る前のランドローバー・シリーズ2あたりに憧れる者としては、レンジローバーと速さがうまく結びつかない。しかし、SV(スペシャル・ビークル)と名の付くモデルを試乗する度に、その伸びしろに驚かされていることも確かだ。
英国車はとかく『伝統』という言葉で括られがちで、レンジローバーは英国王室御用達として初代の様式を半世紀以上に渡ってきちんと受け継いでいるので、その表現がピタリとあてはまる。
だがドイツ車がエンジニアリング、イタリア車がデザインを特徴とするならば、実際の英国車は伝統よりもハンドリング、もしくはビークルダイナミクスを特徴としていると考えている。
ランドローバーのハンドリングは、ジャガーを長年手がけてきたかの有名なマイク・クロスが統括してきた。2022年に彼が引退してからは、やはり有名な元ハンドリング・バイ・ロータスのマット・ベッカーがその職を担っている。
マットもずいぶんエラくなってしまったので、彼が直接的に作業しているわけではないのかもしれないが、それでもビークルダイナミクスの伝統はしっかりと継承されているはず。さあ、最新のSVはどのような仕上がりを見せてくれるのだろうか?
コワモテだった先代との違い
今回はエディションツーなので、つまりレンジローバー・スポーツSVには当然エディションワンもあった。昨年、世界限定2500台がデリバリーされ、日本向け割り当ての75台は即ソールドアウトしたらしい。
ワンとツーはスペック的にはほぼ一緒。エンジンはBMW M謹製のS63ユニット、すなわち最高出力635psを発揮するV型8気筒ツインスクロールターボを搭載する。つまりランドローバー一族で今最も注目を集めているディフェンダー・オクタと同じだが、搭載はこちら方が早かったことになる。
足回りに仕込まれた油圧連動式サスペンションシステム、『6Dダイナミクスエアサスペンション』も同様である。だがオクタと違うのは、対向8ピストンのブレンボ製ブレーキキャリパーとカーボンセラミック・ブレーキディスクなど。
さらに試乗車には、カーボン製の23インチホイールも装着されていた。ボンネットやエアロ等がカーボン製でも驚かないが、ホイールの場合は色々な意味でドキドキさせられる。
ホールド性のいいシートに身を任せ、走りはじめた第一印象は、巨大で薄肉なタイヤの見た目と符合しなかった。いい意味で、ノーマルのレンジローバー・スポーツのようなまろやかな乗り心地なのである。
先代に用意されていたSVRというモデルのゴワゴワとしたドライブフィールと比べると、結構な違いがあった。アシの硬さだけでなく、先代は5LスーパーチャージドV8の咆哮もアイドリングレベルから凄かったのだ。
飛ばしてもなお英国車がそこにある
そんなわかりやすいキャラクターだった先代SVRと比べると、最新のSVは路面のタッチもやさしく、排気音が抑えられているため、いつの間にかスピードが出ている印象。
速度や走行モードによる『変貌の幅』は技術的な進歩の賜物だ。一方静かになった音に関しては、規制の厳しさが感じられる。それでも個人的には今回のSVくらいの音量がちょうどいいと思う。以前のそれはやりすぎだ。
静かに走らせれば、見た目も含めてノーマルのレンジローバー・スポーツを装うことができそう。でもそれなら、わざわざ2474万円(試乗車はオプション気味で2800万円超)もするSVを手に入れる必要はない。SVの真価は、優しさではなくムチを入れた時の絶対的な速さにあるのだ。
車体下から覗くとアルミ削り出しのような銀色のダンパーと、そこに繋がる複雑なオイルホースが見える。ピッチングとローリングをしっかりと抑え込み、それでいてボディをソフトに支える6Dダイナミクスはさすがだ。
それなりに質量は感じるが、それでも思いどおりのラインでコーナーをトレースできる。このギミックがなければ、エンジニアもSVを作ろうとは考えなかったはずである。
加速する、曲がる、止まるという一連の動きには、『強烈だがしっとりとして粗野ではない』という共通項が感じられた。最高出力635ps、車重2570kgでもなお、その走りには他国のそれとは違い、英国車ならではのストローク感や表情が込められている。
日本の交通事情を考えれば、SVのパフォーマンスをフルに発揮できる場面は多くないだろう。だが知的でありながら屈強なドライビングダイナミクスに心酔し、『手に入れたい!』となる人の気持ちはよくわかるのであった。

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