
右耳難聴や子宮内膜症など、自身の体験をわかりやすくコミカルな漫画で描いてきたキクチさん(kkc_ayn)。なかでも、母親の自宅介護と看取りがテーマのコミックエッセイ「20代、親を看取る。」では、自宅介護の現実や、“親との死別”と向き合う中で複雑に揺れ動く感情が描かれており、同じ経験がある人や親の老いを感じ始めている同世代などから大きな反響を集めた。
コミックエッセイ「父が全裸で倒れてた。」は、母を看取ってから約2年後、今度は父が病に倒れてしまう話だ。母の介護・看取りを経たことで落ち着いて対応できることは増えたものの、あのときとは違い、一人っ子として頼れる家族がいない中でさまざま決断を迫られることになるキクチさん。いつかは誰もが直面する“親の老いと死”についてお届けする。
今回は、父親もコロナにかかってしまい面会に行けなくなった作者が、父親のパソコンからあるものを見つけるエピソードをご紹介。
■母が亡くなる前から父が書き残していた“遺言書”とは!?
父親の隣室でコロナが発生し、面会できなくなった作者。父親が入院してから走り続けてきた作者にとっては思いがけず訪れた休息とも言えるので、素直に「それってめっちゃ楽!」と感じるのは看病する側のリアルな気持ちでもあるのだろう。
「ご負担になってしまった医療従事者の方には本当に申し訳ないのですが、正直『やっと心身ともに休める』と嬉しかったです。前回インフルエンザに私が罹患したとき、身体的には少し休めましたが、内心は『お父さん大丈夫かな、オムツどうしよう』と心は全く休まりませんでした。ですが今回は全てを手放すことができて、実際に面会NGの期間は楽をさせてもらいました。でも、届ける荷物の中に父への手紙を添えたり、看病の気持ちは常に持っていました」
1月には、母親の三回忌を迎えた作者。恐らく、これまでは父親が対応してくれていたであろうお墓の管理費払込票が届いて混乱するなど、“人の死”に関わる手続きはいつまで経っても慣れることはない。簡易三回忌の様子についてはキクチさんらしくコミカルに描かれているが、この時の心境は?
「父が倒れてすぐに、法要キャンセルの連絡をしたことが懐かしいです。本来は私が父の代わりに取り仕切って実施してもよかったと思いますが、大事な三回忌だからこそ父と一緒にやりたかったのです。父が少しずつ元気になってきたこともあり、『きっと1年以内にはやるからね』と心の中で母に伝えました。
そしてお墓の管理費の件は、混乱しました…かなり遠方の菩提寺で、私は1回も行ったことがない場所です(母の三回忌のお寺とは別)。同封の手紙も手書きで達筆に『振り込みお願いします』という内容が書かれているだけでした。もし父の記録がなければ電話をするしかなかったでしょう。本当にラッキーでした」
お墓の管理費についてはマメな父親がしっかりとパソコンに記録しており無事に解決したが、管理費について調べている際、父親の遺言書のようなものが見つかった。内容は口座や葬式、散骨の希望などについて書かれており、初めて知った作者は驚く。
「なぜあのようなファイルを作ったのか、いまだに父には聞けていません。いわゆる“終活”というものが社会的にブームになったので意識したのでしょうか…。ただ、内容としては不十分だし、対応するにも困るものだなと思いました(笑)。例えば資産については、預金以外もきっとあるんですよ。私が把握していない部分こそ書いておいてほしいと思いました。
あと、遺骨については『海にばらまいてほしい』とたしかに常々言っています。ですがお彼岸のときに、お墓と海で2箇所に行かなきゃいけなくなるので、遺骨の場所は家族で統一しておきたいですね(笑)」
母の簡易三回忌、お墓の年間管理費、父親の遺言…など盛りだくさんだった今回のエピソード。つらい状況も淡々と、時にクスリと笑える場面を挟みながら描くキクチさんの漫画を、今後も楽しみにしてほしい。

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