ヘアカット専門店「QBハウス」で働く美容師8人が、同ブランドを展開する会社「キュービーネット」と店舗の運営者を相手取り、未払い残業代などを求めた裁判の判決が7月17日、東京地裁であった。

角谷昌毅裁判長は、店舗の運営者に対して、計約1413万円の支払いを命じる判決を言い渡した。キュービーネットに対する請求は棄却した。

●「採用書に雇用主の記載がなかった」

訴えを起こしたのは、「QBハウス」の4店舗(LIVINよこすか店、新杉田店、湘南とうきゅう店、イオンフードスタイル港南台店)に勤務する美容師8人。

訴状などによると、原告らは2003年〜2016年にキュービーネットの求人に応募してスタッフとして採用された。

その後、キュービーネットと「業務委託契約」を結んだ個人事業主(エリアマネジャー)が運営する店舗に配属されたが、採用書には雇用主の記載がなかったという。

2014年には、エリアマネジャーを雇用主とする雇用契約書を結ぶよう求められたが、賃金欄には基本給や固定残業代の金額が記載されていなかったという。

原告らは2023年2月、未払いの割増賃金や労働基準法違反に対する付加金を合わせた額の支払いを求めて提訴。キュービーネットと4店舗の運営者の双方が雇用主であると主張していた。

●争点は「キュービーネットとの間に雇用契約が成立するか」

主な争点は以下の5点に絞られた。

(1)原告らとキュービーネットとの間に雇用契約が成立したか

(2)仮に原告らと運営者との契約だとしても、キュービーネットが使用者としての責任を負うか

(3)原告らと運営者との間で、固定残業代の合意が成立しているか

(4)原告らが勤務する4店舗は、それぞれ独立した事業場として、労働基準法の週44時間労働の特例が適用されるか

(5)原告らの実際の労働時間はどの程度であったか

キュービーネットの責任は否定

争点(1)と(2)について、東京地裁は、キュービーネットと店舗運営者との契約は「業務委託契約」であり、運営者は独立した事業者として店舗を運営していたと認定した。

また、求人対応なども、業務受託者の互助団体によるものである可能性があると指摘し、キュービーネットが採用手続きに関与したとは認められないとした。

そのうえで、原告らと雇用契約を結んだのは店舗運営者であり、キュービーネットとの雇用契約は成立しないと判断した。

原告らはキュービーネットが雇用主であると誤信させた責任も主張していたが、裁判所は否定した。

●8人中3人は「固定残業代」の合意なしと判断

固定残業代をめぐる争点(3)について、裁判所は、原告ごとに判断。8人のうち5人については合意があったと認めたが、残る3人は合意が成立していたとは言えないとした。

労働時間に関する争点(4)と(5)に関しては、各店舗が場所的に分散し、店長が配置されていることなどから、相当程度の独立性があるとして「それぞれが一つの事業にあたる」と認定。常時10人未満の事業場に適用される特例が適用され、法定労働時間は週44時間と判断された。

労働時間については、始業時刻は「開店15分前」、終業時刻は原告側が主張する「勤務表記載のとおり」と推認するのが相当とした 。

こうした認定をもとに未払いの割増賃金を算定した結果、裁判所は未払い残業代の計約810万円と付加金の計約603万円を合わせた計約1413万円の支払いを命じた 。

●原告「もう一度、闘いたい」

判決後、原告とその代理人は東京・霞が関で記者会見を開いた。原告の宮原洋司さんは「(キュービーネットに)関係ありませんという言葉で終わらせられるのは辛い。個人的には、もう一度闘いたい」と語った。

原告代理人の指宿昭一弁護士は「残業代の管理は、キュービーネット全体で見直しを考えるだろうし、考えなければおかしいと思います。控訴するかどうかは、これから原告と協議したい」と述べた。

QBハウス残業代訴訟、店舗運営者に1400万円支払い命令…本部の責任は否定「雇用主にあたらず」 東京地裁