
この記事をまとめると
■自動運転バスは安全優先ゆえの対応に課題が見える場面もある
■日本のバス・タクシーは有人業務で高いサービスを維持してきておりその維持が問題
■無人化の波に対応しつつも現場対応力の継承が求められる
日本では完全な無人運転バス・タクシーは困難?
片側1車線ずつの通りの、とある交差点での出来事。右折レーンがある交差点(矢印信号なし)で、筆者は先頭の路線バスから4台目ぐらいの位置で右折待ちをしていた。対向車線も右折待ちしている車両はあるものの、直進や左折車両も横断歩行者もいないのに、先頭の路線バスが右折待ちを続けていた。
そのうち筆者の後方で右折待ちをしていた配送車両などがしびれをきらしてクラクションを鳴らしても右折しようとしない。信号が黄色になってからようやく路線バスが右折を始めた。その様子を見ていると、その路線バスが自動運転バスだったのがわかった。右折待ちしている自動運転バスの正面には対向車線から右折待ちしている車両がいたので、直進対向車がいなくとも安全が確認できないと判断して右折しないで待機していたようなのだが、なんだか自動運転バスの盲点を見てしまったような気もちになってしまった。
自動運転バスとはいうものの「無人運転」ではなく、いざという時に人間の手によるマニュアル操作ができるように、しばらくは運転席には補助要員のようなひとが置かれることになるようだ(だから無人ではなく自動運転となる)。
しかしアメリカや中国などでは、走行エリアを限ったりしたりはしているものの、無人となる自動運転タクシーが営業運行を実施している。自動運転バスもいつかは無人運転になっていくのだろうが、現状バス運転士がバスを運行する際に運転以外で車内にてやっていたことはどうするのかなあと、前述した自動運転バスの右折の様子と見て感じた。
これもつい最近、路線バスに乗車していて遭遇したのだが、あるバス停にバスが到着すると、男性がいったん乗車して交通系ICカード(先払い)をタッチして運賃を払ったあと、運転士に「乗るバスを間違えた」と伝えていた。すると運転士は「それでは運賃をお返ししますが現金になります」として運賃箱を操作して現金で運賃を返していた。
この一連の流れは無人運転ではまず対応は無理だろう。ICカードでキャッシュレス払いしたのを現金で返すということは、およそ最新のデジタル機器では想定外なはずだ。現状では車内で交通系ICカードのチャージや、複数人乗車の場合は運転士の任意操作でまとめて支払うことができたりする。また障がい者割引なども、運転士が障がい者手帳の表紙を確認してから操作をして割引料金で対応するようにしている。
つまり、現状日本の路線バスが運賃収受が諸外国に比べれば多様化していて便利だというのは、デジタル化が進んだとかそういう問題ではなく、運転士の運転以外の労務負担(精神的なものも)の代償として実現しているのである。
日本ならではのサービスと電動化への歩みが足枷か
あくまで筆者の私見でいえば、完全無人運転となった際に、現状のように現金払いもできるような便利で多様な運賃の支払いというのは実現が困難ではないかと考えている。もちろん技術が進歩し、今後は顔認証で運賃収受を可能とするなど技術は日々進化しているので、完全無人運転となっても運賃収受の利便性を損なわない環境整備ができているかもしれないが、かなりイレギュラーなトラブルが発生しても、その解決には現状より手間や時間が増す可能性は否定できない。
運賃収受だけではなく、現状では車いすに乗っている利用者の乗降に際しては、運転士がスロープを設置し、多くの場合は運転士が車いすを押して乗降を手助けしている。こうなってくると、完全無人運転の実現には、車いすに乗っている利用者をバス停到着時に検知したら、自動的にスロープが出てくるような専用車両というものが必要になってくるのではないかと考えている。世界的に注目されている車いす乗車のサービスも、運転士がいてこそ成立するものとなっているのである。
タクシーについては、諸外国ではすでに完全無人運転での営業運行も始まっているとしたが、日本では有人運転ありきでの「ユニバーサルデザインタクシー」の導入促進を政府が行っている。トヨタJPNタクシーのように車いすのまま乗降できる車両をタクシーとして使おうというのだが、現状JPNタクシーでは車いすでの乗降可能なためのスロープ設置は運転士が行うことになっている。アメリカや中国では、一般的なタクシー車両にそこまでを要求しないので、すでに完全無人運行が始まっているものと筆者は考えている。
つまり、日本で路線バスやタクシーの現状でのサービスレベルの維持をしようとすれば、完全無人運行化というのは少々イメージしにくく、自動運転とはいうものの補助操作要員がいつまでも乗車してくることになるのではないかとも考えてしまう。
日本ではとくに働き手不足対策という意味合いで自動運転が注目されているなか、ハードだけなど「枝葉末節」的にデジタル化や自動化に取り組む傾向がある。路線バスやタクシーの自動運転化には、「有人ありきのサービスをどこまで無人自動運転に落とし込めるのか」といった目線をもたないと、自動運転タクシーやバスの導入について諸外国に比べて時間を要するだけではなく、サービスレベルの大きな低下すら招きかねないと筆者は考えている。

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