和歌山県内で7月9日、横断歩道を渡っていた17歳の女子高生が、84歳男性の運転する車にはねられ、一時は意識不明の重体になったと報じられました。その後、幸い意識は回復したそうです。

高齢者による事故が起きる度、SNSでは「免許返納するべき」などと議論になります。どのように高齢者の事故を防ぐことができるのか。高齢者の免許返納制度が抱える法的課題について、猪野亨弁護士に伺いました。

●「運転免許の保持に制限を掛けるのはむしろ当然」

——今回のような事故が起きる度、高齢者が運転免許を持ち続けることを制限すべきという声があがります。

まず、今回の事故報道だけでは原因の詳細がわかりません。ですから、高齢者であることを強調するのは危険であるように思います。

ただ、この運転者が高齢者でなければ事故を回避できたのではないか、そのような思いを抱いても不思議はありません。

高齢になれば認知機能、運動機能に衰えがあり運転技能を維持できなくなるので、運転免許の保持に制限を掛けるのはむしろ当然だと考えます。

ただ、それだけでは不十分です。

——どういうことでしょうか?

高齢者による交通事故により被害が発生すると、その被害が悲惨であればあるほど運転者やその家族を責める風潮がありますが、個人の問題に矮小化してしまっては問題は解決しません。

車の運転はかなり依存的になりやすく手放すことが困難という特性があり、自身も高齢者になっても運転したいという人がかなり多いのではと思われることが規制が進まない1つの事情と考えられます。

だからその高齢者個人の問題に矮小化しようとするのです。

これでは社会が高齢者による事故を容認しているにも等しく、これを抜本的に変えていく必要があります。

●「ガソリン税で公共交通機関の拡充を」

——具体的には、どのような方策が考えられるでしょうか? 高齢者の交通事故対策としては、自動運転技術の開発の必要性についても指摘されます。

免許返納によりそもそも高齢者の運転を抑制した方がいいとは思いますが、住む場所や仕事などの事情によっては、車の運転をし続けなければいけない高齢者もいるでしょう。

そのような人にとって、確かに自動運転技術の開発は、将来的には有効なのかもしれませんが、現時点では、それ以外の選択も考えるべきでしょう。自動運転技術の開発が進んだとしても、実際に効果が出てくるのは、自動運転技術が一般に普及した後だからです。

いま現在、高齢者による交通事故問題が現に発生している以上、すぐに解決すべき問題です。自動運転技術の開発まで待つというのでは被害の発生は仕方ないと言っているのと同じです。

たとえば、車の運転を続けなければいけない事情の一つに、公共交通機関に頼れないケースが考えられます。地方では、人口減少や運転手不足などの影響もあって公共交通事業者の経営は悪化し、減便や路線廃止など事業の見直しは加速しています。

将来的にもその可能性が高いため、その不安もあって免許を手放せない人もいるのでしょう。

そこで、その対策として、現在、道路整備など車関連に限定して使われているガソリン税を公共交通機関の維持整備に充てるという考え方があります。私はこの考え方に賛成です。

運転免許の規制を進めるのと同時に、公共交通機関の拡充を考えていくことが大切です。

【取材協力弁護士】
猪野 亨(いの・とおる)弁護士
札幌弁護士会所属。離婚や親権、面会交流などの家庭の問題、DVやストーカー被害、高齢者や障害者、生活困窮者の相談など、主に民事や家事事件を扱う。
事務所名:いの法律事務所
事務所URL:http://inotoru.blog.fc2.com/

高齢ドライバー問題、弁護士はどうみる? 「ガソリン税で公共交通機関の拡充を」と提言